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ポジティブな私 ポジ人

真夜中の大声

我が家のベランダから見下ろすと、すぐ下が精進川だ。夏場の夜は時折カモの騒がしい鳴き声が聞こえていた。

12月4日日曜日の午前0時すぎ。
聞いたことのない大きな鳴き声がベランダ側から聞こえてくる。犬のような獣の鳴き声の様にも感じられるが、ワンワンでもキャンキャンでもない。

好奇心にかられ、靴下のまま真夜中のベランダに出た。

声は我が家の川を挟んだすぐ向こう側から、ビックリするほど大きな、そして長く尾を引く鳴き声が、延々と聞こえる。声を発している場所は変わらないようだが、時折聞こえる声の大きさが変わるのは方向を変えて叫んでいるのだろう。声の必死な感じが人間である私にさえ感じられる。
これは明らかに野生動物の声だ。遠くによく響き渡り、はぐれた仲間を呼んでいるのか。きっとキツネに違い無い。
音にするのが難しい鳴き声。絵本で知られる鳴き声でいうと「コーン、コーン」
母ギツネが子ギツネを呼んでいるのか、あるいは子が母を呼んでいるのか…。
雪もうっすら積もっている札幌だ。寒いだろうなあ。

ベランダから声のする方をのぞいてみる。大体あの辺りと思う場所はわかるのだが、木々の枝などが交差し、よく見えない。
右に左に移動しながら目を凝らしていると、隣のTさんの家のベランダもガラガラと開いて、ご主人が「犬かぁ?」と独りごちている。

泣き続けている声の主を、結局見極められない。
見えなくて残念だなあと思って暗闇から目をそらすと、以外にも手前の川沿いをモゾモゾと動く別の動物がいる事に気づいた。
大きさはタヌキかアライグマか。一瞬目が合った。目があった瞬間その生き物はフリーズした。私も野生の動物だったらきっと同じ事をしただろう。動かずに相手の出方を見る。
こんなに距離が離れているのに、用心深く神経質な感じと、モッフモフの毛皮とノソノソした歩き方。あれはきっとタヌキに違いない。“ラスカル”ならもっと動きがすばしこそうだ。
こちらがじっとしているといつまでも動かない。タヌキと我慢比べみたいになった。

まだ続くキツネの声に一瞬私が意識を向けたすきに、チロリチロチロとこちらを用心深く見ながら、こそっと川の脇の丸い土管の中へとゆっくり消えて行った。

今年新たに見ることができた野生動物がもう一匹増えてうれしい。
キツネ、シカ、エゾリス、そしてタヌキ。この一年、都市に住みながら大収穫だ。
本当は喜んでばかりいられない事案なのだが…。野生動物と人との共存は都市部では様々な問題をはらんでいる。

キツネの鳴き声と思しき声も収まり、部屋に戻った。

それから1時間半ほど経った後、再び例の鳴き声が聞こえた。コーン、コーン。さっきより声がかすれている。さっきあんなに大きく長く鳴き続けていたから、声もかれちゃったんだろう。幾分、力も弱くなっているようにも感じられた。

嗚呼、何て悲しそうな声なんだろう。大丈夫だろうか?この寒さで死んじゃうんじゃないだろうか。

私自身は暖かな布団に包まれながら、可哀想なキツネの行く末を思った。申し訳ない。出来るなら、四つ足になってそばに行ってあげられたら良いのだけれど…。





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