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ポジティブな私 ポジ人

老いとは

政府は65歳以上を高齢者と定義している。

その年齢を超えたら世間的に“老人”なのだ。

今ではすっかりお婆さんであることを受け入れている私だが、60歳を超えてからこの境地に至るまでの間は、何だか落ち着かず、宙ぶらりんの心持ちだった。

振り返ると、50代半ばまでは、空手で体を鍛えていたので、体力も気力も十分だった。
空手を止めた後も、体力に自信はあったし、心の中では「50代の私、すごくない?」なんて自負もあった。

それまでの私の人生の中では、50代とは予想もつかない未知の領域だったけれど、限りなく年寄りに近づいた年齢とも思っていた。でも、意外とまだ全然イケるとも感じていた。

老いの始まりを感じたのは、50代の後半からだった。それは目から始まった。

小さな文字を見る時に、手元から文字を離さないとピントが合わなくなってきた。
仕事上でも、いつもの距離感で見ようとしてピントが合わず、距離を遠ざけて見るようになった。

すると、周囲で私の“その動作”に気づくと、「ふっ」と軽く笑う人が出て来た。
その意味は「あなたも年を取り、とうとう目に来ましたか」といった、軽い嘲笑ではないけれど、私の老化を目視確認して、思わず出てしまった微かな笑い、そんな類なのかなと思った。同僚だったし、仲も良かったので、それを私は不快だとは思わ無かった。

そんな事は、職場以外でもあった。

それは、アルバイト先での事だった。
一時、会社には内緒で料亭でダブルワークをしていた時期があった。
酔客に、しそのお酒「鍛高譚(タンタカタン)」の原料を聞かれた時の事。お酒のラベルの原材料を見ようとしたが、文字が小さかった為、顔から瓶を少し離した。その瞬間、側にいた男性が「ふっ」と笑ったのだった。
それは私にはこんな風に感じられた。
「この人見かけは若そうだけど、かなり年が行ってるんだな」と。
その時も別に不快には感じなかったけれど、「老い」を悟られたのだなと思った。

そんなことがあってから程なく、100円ショップで軽めの度の老眼鏡を調達し、かけたり外したりしながら仕事をするようになった。
老眼鏡をかけることに、私はかなり抵抗があった。
あまりにもストレートすぎるその名称「老眼鏡」。
それをかけると自分が、“老眼の老人”という感じがした。
今では時代に合わせて、老眼鏡を「シニアグラス」とおしゃれにいう。「老人」も「シニア」と呼ぶ。同じ意味でもまるで印象が違う。

目から始まった老いは、60代に入ると気力の方にも現れて来た。

それまでは仕事をする時はいつだって「さあ来い!」「良しやるぞ!」という気構えだった。
若い頃からずっと事務系の仕事がメインだった。
職場は忙しかったけれど、電話を取り、お客様の対応をしたり、機械を操作する作業も意欲的にこなして来た。一件終えるごとに達成感や満足感もあった。
「さあ、ドンドンいらっしゃい」
それが私の仕事に対するスタンスであったはずなのに、60歳を過ぎるに従い、次第に意欲にも、仕事をこなす自信にも陰りが出て来た。
「大丈夫かな?自分」
仕事のキャパが減少し始めている。明らかな老化を自分で感じた。

そうなると、あの老眼で「ふっ」と笑われた時の様に、仕事のキャパが減った事を、老化を、周囲に悟られるのは絶対に避けたいと思った。
目だけの老化は機能面だけだから、衰えを知られてもそれはしょうがない。でも、仕事の能力のレベルが下がり始めていると悟られるのは、いやだ。それは私のプライドだった。
そんなわけで、定年まで一年を残して退職したのだった。

好きな仕事だっただけに、残念だった。気力があればもっと続けたかった。でも、あの気持ちで続けていたら、絶対大きなミスをして会社に迷惑をかけてしまっていたと思う。

老いを感じ始めてから、自分の肉体的な変化に気づき、嫌なものだと受け入れ難く、抵抗していた。
些末な事を言えば、シワやシミも増え、髪の毛の流れも毛量も減り、髪型が決まらなくなった。
何もかも”少し前の自分“とは違う。そんな自分に憂鬱になったり、ウンザリした事もあった。そんな時期を経て、今思う。

老いとは、それまで全く知らなかった自分と出会い、抗いながらやがて受け入れ、付き合い始める旧友のようなものだと。
最近つくづくそう思うのだ。




コメント一覧

ポジ人
@nognogblack お父様の言葉、「毎年一年生」いくつになっても心に刻むべき言葉ですね。

私も若い頃は「根拠の無い自信」ありましたね。全能感と言うらしいですよ。今じゃすっかり全能感を失ってしまいました。それがあったから、恐れを知らなかったのだなーと思います。
nognogblack
父が生前『経験なんて大して役に立たない、毎年一年生だ』、と言っていたのを思い出しました。

ボクも若い頃は『飛行機が落ちても、自分だけは助かるような根拠の無い自信』に満ち溢れていました…

現在は負けても失敗しても、格好悪くてもだらしなくても平気、嫌な事は見えない聴こえない、すぐ忘れる【老人力】が付いたように思います💪
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