早朝の通勤時は歩きが基本だけど、地下鉄の駐輪場まで自転車で行く。
向かう方角は東なので、昇りかけた太陽が丁度民家の屋根の位置にあり、太陽光が目に入り眩しい。
これまであまり見かけなかった鳩が、最近増え始めて来たようで、よく見かける。
不意に飛び立った鳩に目を向けると、丁度太陽と鳩が重なった。目に悪いなあと思いながら、頭の中にその瞬間の光景が焼き付き、同時に「逆光の中に鳩を見た」という言葉が浮かんだ。
何気なく出たフレーズだが、ちょっと文学的で気に入った。目に焼き付いた映像も、なんだか良かった。
自転車を駐輪場に置いて、坂道を登り始めてしばらくすると住宅街に入る。ここはかなり小高い場所なので、気温が低い様だ。そこで朝霜を見た。霜を見るのは子供の頃以来のことかも知れない。新鮮な気分だった。
日陰の歩道には、しばれた(北海道弁で「凍った」)水たまり。
あー、冬が来る。
夫は駐車場の雪掻きが大変なのと、車を運転するのに危険性が増すから雪を嫌がる。でも、私は子供の時と同じく雪が好き。何だかちょっとワクワクした。
グラウンドのバックネットに絡みついた蔦が、まるで赤い装飾のようだ。
こっちもきれい。
写真が逆光になってしまって見えづらいが、毎回気になる、民家のお庭のたわわな葡萄の実。美味しそう。袋掛けしたものもある。マメな住人。
この間は、カラスがここに舞い降りて、大きな葡萄の実を一粒一粒くちばしでもぎ取っては、上を向いて丸呑みしていたのだった。あっという間に3粒も。そして、何を思ったか別の見事な実のなった一房をつついて、丸ごと塀の内側へ落としてしまった。落とした実を食べに行くわけでもないカラス。「あ~ん、もったいない」思わず心の中で叫んだ。
葡萄の実を見上げながら毎日行き来する私は、イソップ物語の「きつねとぶどう」のお話のきつねみたいな気持ちになる。
永遠に食べることのできない葡萄の実を見上げながら、「きっと酸っぱい葡萄に決まってる」と通り過ぎるのだ。
今日、仕事帰りに葡萄のなる家に差し掛かると、年配の奥様が二房残して、すべての葡萄を刈り取っていらっしゃった。二房は、鳥たちへのプレゼント用らしい。
坂道を下りながら、「逆光の中に鳩を見た」のフレーズをまた思い出していた。明るい兆しの良いフレーズだ等と心の中で考えながら。
道の途中に安くて素敵な八百屋さんがある。長ネギを買おうと店内に入り、安いのであれこれと500円ちょっとの買い物をした。
支払いを終えて野菜や果物を袋に詰めていると、若い店主が「これ、柔らかめの柿ですけど…」と、大きな立派な柿をくれた。これまでお高くて買ったことのない富有柿だった。思いがけない出来事に驚きながらお礼を言って、ありがたく頂いた。
家に帰り、早速柿をむいて夫と二人で食べた。とても甘く美味しい柿だった。
「逆光の中に鳩を見た」幸運のフレーズかも知れない。