発送手続きを終えてから、若い男性店員に梱包資材があるかどうか尋ねた。すると店員さんは、カウンターから出て売り場の棚を確かめてくれたが無かったので、仕方無く店を出た。
歩きだして3分もしない内に、発送した控えのレシートをもらっていないことに気付いて、直ぐにお店に引き返した。
店に入ると先程の店員さんは接客中だった。
接客が終わったので、先程の店員さんに控えをもらっていない旨伝えると、
「もう、ゴミ箱に捨ててしまいました」という。
私は驚いて、
「えっ、この5分くらいの間にですか?」と尋ねると、「はい」と言ったまま、動こうとしなかった。
私はたまらずに、「あの、必要なんですけれど…」と言ったのだが、店員さんは再び「ゴミとして捨ててしまいました」そう繰り返すだけで、動こうとしない。
こうなったら自分で探す覚悟で「ゴミはどこですか?」と尋ねた。彼は「裏にあります」と答えるものの、やはり全く動く気配がない。
「ちょっと探したいんですけど」と言うと、やっとカウンターから出て案内してくれた。
外は雨が降っていた。
彼は、お店の裏の物置から、大きなゴミ袋を出すと、上の方にあるレシートの束を5,6枚ほど持ち上げてパラパラと見ただけで、「無いですね」と言った。
底の方にもレシートがあったので尋ねると、それは古いゴミで、たった今捨てたのは上にあるものだと言う。
彼の探し方が、充分だとは思えなかったので、自分で探そうとすると、突如彼は、「(控えは)渡したと思いますけど」と言った。
えっ、もらってないけどなと思いながらも、私はあわてて、バッグとコートのポケットの中を確かめた。
いつも控えはバッグにいれるようにしているのだが、無いのだからもらっていない。
しかし、彼は「スタンプを押して、確かに渡しました」とキッパリと言う。
高齢者の私より、若い彼の記憶の方が確かなんだろうと思い、私はもう一度、バッグとポケットを見たけれど、どこにも無い。やはり絶対もらってはいないと確信した。
お店のカウンターに不要レシートが6~7枚あった事を思い出し、あの中に無いのだろうかと彼に尋ねると「あの中には無いですね」と言う。
それで何となく、あのレシートに見合う人数の接客をしたのかを尋ねてみた。
いくら忙しいコンビニでも、5分間にそんなに多くの人は接客しないだろうと思ったからだ。
そのひと言が彼に何かを思い出させたようだった。
彼は「ちょっと待って下さい」と言って、店に戻り始めた。私も後について行った。
彼はカウンターの中に入ると、レジ横の不要レシート数枚をさらっと確認した後、私に「どうしても控えは必要ですか?」と、尋ねた。
諦めさせたいのだろうか。
私は「発送した控えは手元に持っていたいですけど…」と言った。
すると、彼は思い出したように一度店の奥に引っ込み、出てきた時には長めのレシートを手に持っていた。
「僕、(私が)持って行かなかったので取って置いたんです」とサラリと言って、控えのレシートを私に唐突に差し出した。
今頃思い出したんかーい!とちょっと呆れた。 イラッときてもいたけれど、控えはあったのだし、事の発端はそもそも私だった。
私はレシートを受け取ると、苦情は言わずにかろうじて「お手数をおかけしました」と言った。
彼は「はい」と言っただけだった。
元はといえば、私に落ち度があった。
それでも、接客をする人として、彼の態度はどうかと思う。彼は人の立場に立って物事を考えることが、全く出来ないタイプのようだった。何故思い出すのにあんなに時間がかかったのだろうか。それに、最後に「すみませんでした」の一言があっても当然だったとも思う。
本来なら、私がお店のカウンターで、取り忘れた控えのレシートの事を伝えた時点で、「こちらですね」と店員さんが私にそれを渡してくれて、「あ、すみませんでした。ありがとうございます」と言って、秒で終わる話だった。
ここまでたどり着くのに随分と時間のかかる展開となった。
今回の一連の出来事から、彼は何かを学んだろうか。そうであって欲しいと願う。
ただ悪い事ばかりではない。
私より30歳以上も若い彼の記憶より、老いぼれた私の記憶の方が確かであったという事。それが、この悲惨な出来事の中の希望の光だった。大げさに言えば、私はまだまだ大丈夫だという自信にもつながった。
そう考えて、自分の気持をおさめたのだった。