ぼんやり画面をみていたら、アナウンサーが「第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで、DDセルフプロデュース賞を受賞した井手上漠(いでがみ・ばく)さんです」と紹介した。
「ジュノンボーイ?この美しい人が…」一気に画面に集中してしまった。
島根県の隠岐の島、海士町(あまちょう)出身の漠さんは、小さな頃にウエディングドレスに憧れ、プリキュアが好きな男の子だったという。
級友の心無い言葉に傷ついたり、男の子として周囲との関係性に悩んだ時期もあった。それらを題材に、中学生の時に弁論大会へ出場。結果、全国2位を受賞したということなど紹介され、今回フォトエッセイ「normal?“普通”って何?」を出版したということだった。
私はすぐにAmazonで本を買い求めた。
本書には、現在モデルとして活躍する漠さんの故郷とその周辺で撮影したフォト(全8 0ページ)とエッセイ(4万字超)が収録されている。
まだ18歳。若い。
島での撮影は生き生きとしている。
メイクのせいか、大人びて見える。
漠と言う名前はお父さんが「砂漠のように広い心を持った人になるように」と願いを込めて付けてくれた名前だそうだ。
本書を読みながら、ふさわしい名前だなあと思った。
子供時代に男の子としてはちょっと周りの男の子と違う事。進学するに従って色々悩み、ひとりで苦しんだ時期もあった事など、それらが誠実な文章で綴られている。
小学校・中学校時代というのは誰にとってもハードな時期だと思う。
子供だから相手に対する配慮と言うものが足りない事が多いので、人を傷つけたり、また傷つけられたりするものだ。
漠さんは自身の問題を解決するために、一時は自分の心に逆らって髪を短く切り、男の子らしくしようと努力した時期もあったそうだ。中学生の頃ということだが、よく思い切って辛い決断をしたと思う。
でも、その間は漠さんにとっては、色の無いモノクロの世界だったと言う。
それを救ってくれたのがお母さんの言葉
「漠は漠のままでいいんだよ。それが漠なんだから」
モノクロだった人生がカラフルに変わっていくきっかけになったと言うことだ。
子供の心に寄り添ってあげる事、それが何よりも大事な事だ。お母さんは漠さんの良き理解者だった。
漠さんが抱えていた問題は、様々な人との出会い、周囲の人達の協力、また何より漠さんの努力によって、より良い方向へ変化して行く。
私は読みながら感動して、ティッシュを何枚も使ってしまった。
漠さんは、出身校である島根県立隠岐島前(おきどうぜん)高校の制服改革運動にも関わった。
これまで“男子用”、“女子用”という言葉で区別していたものが、“タイプ1”、“タイプ2”というジェンダーレスな名称に変更され、誰もがどちらかの好きなタイプを選んで着られるようになったという。その結果、女の子でも学ラン選択可能となったという事を知り、ユニークな高校だと思った。
セクシャルマイノリティーの方には、公衆トイレが結構大きな問題なのだと言う事も知った。
2017年に渋谷にオープンしたドン・キホーテの新店舗のトイレには、“男性用”、“女性用”、“車椅子対応の男女兼用の多目的トイレ”、の他に
“ALL GENDER(すべての性別)用のトイレ”があるということだ。
数はまだ少ない様だが、こんなトイレが 全国に配置されていたら。
いや、“ALLGENDER用トイレ”が一般的になれば、またさらにより良い社会になるのかも知れない。
昭和生まれのオバサンには、すっかり昭和の価値観が染み付いていて、気づかない事がいっぱいあった。それを漠さんに教えていただいた。
デリケートな事柄だけに、“気づき”が大切だ。
これまで、男女の性別を決定づけるものは、染色体で表すと、XXが女性を、XYが男性となると言われていた。
しかし、最近の研究ではXとYの組み合わせにも様々なバリエーションが出てきているという事をNHKの番組で知った。
染色体の特異な組み合わせにより、限りなく男性に近い女性や、また逆に限りなく女性に近い男性とか、性別にグラデーションができているという。単純に男、女と表現できない多様な性が増えているという事なのだ。
歌手であり、多彩な才能を発揮されている美輪明宏さんは、性的マイノリティーの先駆者として、まだ理解者の少ない昭和の時代を果敢に生き抜いてきた。
生きづらさはこの令和時代と比べ物にならなかったと思う。
美輪さんの存在によって、性的マイノリティーが世間に周知されたことで、少しずつ理解者も増えつつあり、現代に至っている。
後に続くマツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさん等など、テレビで発信される事で、様々な情報がもたらされる事もあるが、番組の趣旨がバラエティー番組や情報番組と言う枠の中では限界がある。
漠さんはインスタグラムをやっているというので、そこからの発信も、特に若い世代への影響力は大きいと思う。
ジェンダーレスという立場から、世の中を見て発信される事が、古い価値観で固まった人間には、新たな事実に気付かされたり、教えられたりする事がたくさんある。
本書を読んで本当に良かったと思った。
また多くの人が読むべき本であるとも思った。
現在よく耳にするSDGsの中のひとつ
5. ジェンダー平等を実現しよう
昭和生まれの私は、女として不平等を実際に体験し、仕方の無いものとして時代を過ごしてきた。
男性の中にも、男なんだからという理由で、理不尽な思いをしてきた方もいるだろう。
そして、性的マイノリティーの方々も文字通り少数派と言う事で、中々配慮されず悔しく悲しい思いをされてこられたと思う。
近年、LGBTQの方々に対応した社会へ向けて、少しずつ法律や制度改革への動きも見られるものの、まだまだ生きやすい社会からは程遠い状況だ。
皆が声を上げ、少しずつ変化してはいると思うけれど、現実には遅々として進まない。
それは日本の政治を牛耳っている政治家が、ほとんど昭和生まれのお爺さん達であり、当時の、つまり昭和の価値観を頑固に持ち続けているという事も原因のひとつでは無いかと思う。もちろん、理解ある政治家の方が少数いるのも事実だが。
漠さんは、ご自身の悩みを乗り越え、様々な挑戦を経たことで、とてもしっかりした考えを持った方だと思う。
これからも様々な形で発信していく事で、「ジェンダー平等実現」に近付いていく、大きなうねりとなる予感がしている。
これからの益々の活躍を期待している。そして、応援し続けていきたい。
輝け、漠ちゃん!