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ポジティブな私 ポジ人

余命宣告を受けた作家の日記

「プラナリア」で直木賞を取った作家の山本文緒さんが書いた本「無人島のふたり」が気になっていた。

「無人島のふたり」は、彼女が2021年4月に膵臓がんのステージ4bで余命を宣告されてから亡くなるまでの日記だ。副題に「120日以上生きなくちゃ日記」とあるように、宣告された余命は4ヶ月。

余命宣告を受けた著者が、どのようなことを考え、どのようなことを思い日々を暮らしていたのか興味を持った。と、こんな風に文字に起こしてみると、何と自分は「お気楽な人でなし」なのだろうと思う。死を目前にした人が何を書いたか知りたいなんて…。
しかし、私のように好奇心を持って知りたがる人は、思いの外多い様だ。

フリマアプリで本を買おうと探してみたら、出版から1年数ヶ月経過しているのに、本は常に売れ続け、中古本の価格も高止まりのままの人気本だった。
日本における死因の第1位を占める病が「がん」であることから、みなそれぞれに色々な思いでこの本を手に取るのだろう。

私は著者の作品を読むのは、この「無人島のふたり」が初めてだった。

あらかじめ書籍化される前提で書かれた日記は、読み物として完成された文章だった。

治療法の無いステージ4bということだったが、著者は一度抗がん剤治療を受け、あまりの苦しさに直ぐに自宅での緩和治療に切り替えたようだ。

当時著者は58歳。余命宣告を受け、病による倦怠感や吐き気で、思う様にならない身体に苦しみながらも、「できればもう一度、自分の本が出版されるのが見たい」という意欲を持ち続けていた。作家魂というのだろうか。何よりも「書きたい」という気持ちの強さに驚いた。

闘病を「逃病」と表し、“書く”という目的を遂行しながら、読みたい本を読み、観たい映画を観て、残された日々を生きる姿勢はポジティブだ。随所にユーモア溢れる文章もあり、暗さはあまり感じなかった。

余命宣告を受けて間もない頃、体調の悪さに思わず、「いつになったら治るんだろう」とふと思った瞬間、「ああ治らないのだった」と思い至る切ないシーンがあった。悟った時の絶望感はいかばかりだったろうか。
書きたい本のプランもありながら、彼女に残された時間が無いという辛さ、無念さを痛烈に感じた箇所だった。

余命宣告を受けた事実は、周囲の誰にでも伝えられるものでは無い。それを著者は『突然20フィート超えの大波に襲われ、ふたりで無人島に流されてしまったような』と表現し、それがタイトルの由来だと分かった。

ある時は『こんな日記を書く意味があるんだろうか』と自問したり、SNSで話題になった「100日後に死ぬワニ」をもじって、『「120日後に死ぬフミオ」のタイトルで、ツイッターやブログにリアルタイムで更新したりするほうがバズったのではないか』等と自虐的でシニカルなジョークも書いている。

今、こうして本は多くの人に読み継がれている。これも著者の思惑通りのバズリなのではないだろうか。

ご主人は、大変甲斐甲斐しく著者に寄り添っていた。
仲の良さを思わせる場面があった。
著者は時折悪夢に悩まされていたようだ。
私は知らなかったが、角田光代さんの著書に「おやすみ、こわい夢を見ないように」という本があるそうだ。その中に、姉と弟が造語「ラロリー」でおやすみを言い合うシーンがあり、それを真似て、著者とご主人が寝る間際に言い合う。
『じゃあね、ラロリー』
『明日またね、ラロリー』
二人のそのやり取りは、とっもキュートで、そして少し悲しい。
「ラロリー」は本のタイトル通り「おやすみ、こわい夢を見ないように」という意味。

後日、このタイトルの本を購入した。まだ読んで無いけど。

著者の名前の由来の説明があった。
名字の「山本」は、友人の名前だそうだ。「文緒」は漫画家槇村さとるの短編漫画の主人公の名前から取ったそうで、中性さを出したかったという理由からつけられたものだ。

槇村さとるは私も好きな漫画家だ。文緒という名の主人公の漫画はどんなものなのか調べてみたら、ネット上に直ぐ出てきた。
短編漫画だった。そのタイトルは「しなやかに夜は踊る」。試し読みも出来た。負けん気の強い女の子が主人公だった。

山本さんは本書の中で多くの本の紹介もしている。ファンにとっては、著者亡き後も、彼女の好きだった本や、おすすめ本を読むことで追悼的な意味合いの他に、楽しみを共有する喜びも生まれるのじやないだろうか。

ファンというわけでもない私だが、日記から醸し出される著者の魅力的な人物像に惹かれた。

無人島の一人じゃなくて“ふたり”で良かった。ご主人が寄り添ってくれた日々は、穏やかに流れている様に感じられ、静かに読み終えページを閉じた。



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