高校1、2年生? あるいはまだ中学生かもしれない。
並んでこちらへやってくる。
だが、女の子は足首でも挫いたのか足を引きずるようにして歩いている。
心配して声を掛けていた男の子が、やおら女の子に身を寄せた。
女の子は、照れたようなしぐさでその肩に腕を回し、
男の子にもたれかかり片足を持ち上げるようにして歩いた。
すぐ近くのマンションが女の子の住まいのようで、
女の子は肩から腕を外し足を引きずり玄関ドアへ向かっていった。
男の子は2、3歩後を追おうとしたが、足を止め、心配そうに見送っている。
小さな初恋物語、
そのように見える信号待ちの車窓からの風景に思わず頬が緩んだ。
村山由佳著『はつ恋』の新聞広告では
「恋をしている人にも、恋などとうに忘れた人にも、ぜひ。」
読んでほしいとのメッセージを送っている。
もう一つの初恋物語は「恋などとうに忘れた人」のはず、
70歳代の主婦の話である。
この主婦の手元には、彼からプレゼントされたブローチ、
それに一緒に撮った写真が、50年以上たった今も大事に残されている。
新聞の「人生案内」、つまり悩み相談コーナーに投稿された、
こちらの初恋はこのような話だ。
出会ったのは彼が16歳、この女性が15歳の春だった。
すぐに2人は恋心を抱くようになり、友人たちとサイクリングに出かけた際、
2人きりとなった時に彼は、「いずれ一緒になろうね」と言ってくれた。
だが、高校を卒業すると彼は故郷を出て大阪で就職。
出発する彼を駅のホームの陰からそっと見送ったのが最後となってしまった。
何だか一昔前のフォークソングの世界を思わせる光景なのだが、
「その彼が今でも忘れることができません。
幾度となく夢に現れ、会いたい気持ちが募るばかりです。
これから先、どう生きていけばいいのか」
というのである。
70歳代の主婦からこんな話を聞かされると、
たいていの人は「いい年をして」と思うに違いない。
アドバイザーの評論家・樋口恵子さんにしても
「失礼ながら、何てお幸せな70代の夢見る夢子さん」
と苦笑し、回答をためらったそうだ。
でも、恋に年齢は関係ないのも確かで、こう書いている僕にしても、
しばしば初恋の人を懐かしく思う時がある。
一途とも言える主婦の思いに応え、樋口さんは
「初恋という良き思い出を活力として、
周りの人たちを喜ばせ、幸せにしてあげなさい」
と語りかけ、やんわりと収めている。
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