Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

恋の風景

2023-12-26 06:00:00 | エッセイ

 

高校1、2年生? あるいはまだ中学生かもしれない。

並んでこちらへやってくる。

だが、女の子は足首でも挫いたのか足を引きずるようにして歩いている。

心配して声を掛けていた男の子が、やおら女の子に身を寄せた。

女の子は、照れたようなしぐさでその肩に腕を回し、

男の子にもたれかかり片足を持ち上げるようにして歩いた。

すぐ近くのマンションが女の子の住まいのようで、

女の子は肩から腕を外し足を引きずり玄関ドアへ向かっていった。

男の子は2、3歩後を追おうとしたが、足を止め、心配そうに見送っている。

小さな初恋物語、

そのように見える信号待ちの車窓からの風景に思わず頬が緩んだ。

 

村山由佳著『はつ恋』の新聞広告では

「恋をしている人にも、恋などとうに忘れた人にも、ぜひ。」

読んでほしいとのメッセージを送っている。

 

 

もう一つの初恋物語は「恋などとうに忘れた人」のはず、

70歳代の主婦の話である。

この主婦の手元には、彼からプレゼントされたブローチ、

それに一緒に撮った写真が、50年以上たった今も大事に残されている。

新聞の「人生案内」、つまり悩み相談コーナーに投稿された、

こちらの初恋はこのような話だ。

 

出会ったのは彼が16歳、この女性が15歳の春だった。

すぐに2人は恋心を抱くようになり、友人たちとサイクリングに出かけた際、

2人きりとなった時に彼は、「いずれ一緒になろうね」と言ってくれた。

だが、高校を卒業すると彼は故郷を出て大阪で就職。

出発する彼を駅のホームの陰からそっと見送ったのが最後となってしまった。

何だか一昔前のフォークソングの世界を思わせる光景なのだが、

「その彼が今でも忘れることができません。

幾度となく夢に現れ、会いたい気持ちが募るばかりです。

これから先、どう生きていけばいいのか」

というのである。

                 

 

70歳代の主婦からこんな話を聞かされると、

たいていの人は「いい年をして」と思うに違いない。

アドバイザーの評論家・樋口恵子さんにしても

「失礼ながら、何てお幸せな70代の夢見る夢子さん」

と苦笑し、回答をためらったそうだ。

でも、恋に年齢は関係ないのも確かで、こう書いている僕にしても、

しばしば初恋の人を懐かしく思う時がある。

一途とも言える主婦の思いに応え、樋口さんは

「初恋という良き思い出を活力として、

周りの人たちを喜ばせ、幸せにしてあげなさい」

と語りかけ、やんわりと収めている。

 

 

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