花径6㍉ほどの可憐なそばの花が、
700万本も寄り添って一斉に咲くと、6・5㌶の高原は、
空の青さをバックに信じられないほど白く、美しく装う。
その高原を時折、そよ風が渡る。
すると、風に撫でられた小さな花たちは、
たちまち白い波となってたゆたい始め、柔らかさを添えるのである。
根子岳の遥か霞むような黒いシルエットもまた、
そば畑の美しさを際立たせる役を担っている。
「この花たちに支えられて大の字になるとどうだろう、
宙に浮き上がるのではないか。花たちが魔法のじゅうたんになって……」
ああ、久しき童心。
それは、花言葉の通り、愛でてくれる人たちに『誠実』であることを示してみせ、
また、小さな姿は『一生懸命』けなげに生きている様を
見せているようでもある。
やがて、収穫期が近づき、10月下旬になると緑の茎は赤くなり、
白いじゅうたんは天高く飛び去ってしまう。高原は赤く変わる。
この波野高原(熊本県阿蘇市)を訪れたのは
5年も前の9月半ばの秋晴れだった。
もう一度訪ねたいと思うもののかなわない。
あそこへ行くには、どうしても車が必要だ。
その車がない。いや、運転をやめたからだ。
それでも未練たらしく、あと2年ほど期限がある免許証は返納せず持っている。
だからレンタカーを借りれば行けるだろう。
あの風景の誘惑は強烈だ。
だが、あの高原も季節を終え、赤く変わっていることだろう。
そう思い、懸命に思いとどまる。
何とも恨めしい。
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