Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

もう一度会いたい

2024-10-18 17:04:39 | エッセイ

 

花径6㍉ほどの可憐なそばの花が、

700万本も寄り添って一斉に咲くと、6・5㌶の高原は、

空の青さをバックに信じられないほど白く、美しく装う。

その高原を時折、そよ風が渡る。

すると、風に撫でられた小さな花たちは、

たちまち白い波となってたゆたい始め、柔らかさを添えるのである。

根子岳の遥か霞むような黒いシルエットもまた、

そば畑の美しさを際立たせる役を担っている。

 

   

「この花たちに支えられて大の字になるとどうだろう、

宙に浮き上がるのではないか。花たちが魔法のじゅうたんになって……」

ああ、久しき童心。

それは、花言葉の通り、愛でてくれる人たちに『誠実』であることを示してみせ、

また、小さな姿は『一生懸命』けなげに生きている様を

見せているようでもある。

やがて、収穫期が近づき、10月下旬になると緑の茎は赤くなり、

白いじゅうたんは天高く飛び去ってしまう。高原は赤く変わる。

 

この波野高原(熊本県阿蘇市)を訪れたのは

5年も前の9月半ばの秋晴れだった。

もう一度訪ねたいと思うもののかなわない。

あそこへ行くには、どうしても車が必要だ。

その車がない。いや、運転をやめたからだ。

それでも未練たらしく、あと2年ほど期限がある免許証は返納せず持っている。

だからレンタカーを借りれば行けるだろう。

あの風景の誘惑は強烈だ。

 

だが、あの高原も季節を終え、赤く変わっていることだろう。

そう思い、懸命に思いとどまる。

何とも恨めしい。

 

 

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