K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

生誕140年 吉田博展 山と水の風景

2017年07月28日 | 美術
こんばんは。最近暑い日が続きますね。身体の疲労が続くとアラサーになったのだと痛感します。

さて、今回は東郷青児記念美術館で開催されていた「生誕140年 吉田博展 山と水の風景」に行ってまいりました。



地上42階から新宿を一望できるお気に入りの美術館でよく訪れるのですが、まさかの入場規制!こんなことは初めてでした。
講演会のある日だったからですかね。エレベーターに並ぶ様子はさながら森美術館のようでした。

吉田博は日本における洋画の礎を築いた人物の一人で、太平洋画会(現 太平洋美術会)の創始者でもあります。
日本の洋画黎明期に活躍した画家と言えば、高橋由一や五姓田芳柳などが個人的には頭に浮かんできますが、今回の展示で初鑑賞となった吉田博の画業も非常に素晴らしかったです。

「日本のテーマ」を「西洋の手法で描く」ことの斬新さは今でも感じ入るところですが、吉田が活躍していた当時は、殆どそうした試みはありませんでした。吉田が好んだアメリカでは、そうした絵画が爆売れします。
彼の油画の技法は今からすれば珍しくないレベルですが、そうした異色さで欧米で高い人気と知名度を誇ることになるのです。(ダイアナ妃が自室で彼の作品を飾るほど!)

そして、注目すべきは彼が人生後半で取り組んだ木版画。日本の木版画と言えば、当時浮世絵が欧米で高い人気を誇っていました。それは画力がなくとも、「浮世絵」というだけで売れてしまうほどの人気だったのです。
吉田はこうした現実を嘆き、本当の日本の木版画を追求することになります。そして彼が辿り着いた境地こそ、精緻な風景描写という、洋画家らしいいたってオーソドックスなものでした。


吉田博 《瀬戸内海集 光る海》(1926)

ダイアナ妃が飾っていた作品。丸刀の切り口がマッチし、光を反射する水面の質感が非常にリアルに再現されています。
版画は絵師と彫師と摺師による分業体制が基本ですが、吉田は彫りも摺りも自ら監修するという徹底ぶりだったそうです。

そして、個人的に惹かれたのは欧米の風景を木版画で描いた作品群です。


吉田博 《ナイアガラ瀑布》(1925)


吉田博 《グランドキャニオン》(1925)

精密な木版画で描かれる圧倒的な自然。この新鮮さは何物にも代え難いでしょう。「欧米のテーマ」を「日本の手法で描く」ことのいかに斬新なことか、彼の作品群は伝えています。
山岳を愛した彼は、日本の自然も作品として描きました。穂高山などは油画でも描くという「日本のテーマ」を「欧米の手法で描く」アプローチも継続してしており、真の意味での和洋折衷を追求しているように感じられます。

そして!これはもう彼のマスターピースと呼んでも良いのではないかと考えていますが、動物園シリーズの一角、白い鸚鵡を描いた《きばたん あうむ 動物園》の超絶技巧!


吉田博 《きばたん あうむ 動物園》(1926)

この作品の何がすごいかというと、「白い鳥」を「木版画」で表現している点です。木版に色をつけて摺ることで対象を描く木版画ですが、色のない対象はどう表現するのか。彼が試みたのは、ただ「摺る」ことで白の凹凸を創り、繊細な羽毛の質感を表現するという手法でした。
普通であれば、薄い灰色などで陰影を出すことで、白の対象を立体的に描くアプローチをするような気がしますが、彼は敢えてそうした「洋画的」アプローチをしなかった。洋画家のみならず、版画家としても極めて優れた才能を発揮していることがわかる作品です。

優れた版画は、割と彫り師の細かい職人的技巧に驚きがちですが、今回は絵画としてその価値を実感できて非常に良い鑑賞体験でした。
作品入れ替えもあるし、また行ってみようかしら……


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