K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

李相日『怒り』

2017年08月02日 | 映画
蝉の声で起きると夏が来たなって感じがしますよね。最近睡眠不足なただけーまです。

今回は昨年話題となった李監督の『怒り』です。




《Story》
ある夏の暑い日に八王子で夫婦殺人事件が起こった。窓は閉め切られ、蒸し風呂状態の現場には、『怒』の血文字が残されていた。犯人は顔を整形し、全国に逃亡を続ける。その行方はいまだ知れず。事件から一年後。千葉と東京と沖縄に、素性の知れない3人の男が現れた。(『映画「怒り」公式サイト』より)


千葉、東京、沖縄で繰り広げられる三者三様の恋愛劇とさまざまな「怒り」が錯綜します。物語は八王子の夫婦殺人事件という強烈なイメージから始まるが、それはもはや作品の一端でしかなく、壮大な「怒り」という表象の氷山の一角に過ぎません。



沖縄基地問題、同性婚問題、風俗問題、闇金問題など、日本の抱えているさまざまな社会問題に訴えかけており、まさに「日本の怒り」を伝えるような作品でした。
しかし、作品中では、(現実の社会同様?)それらの社会問題が解決されることはありません。寧ろ、登場人物は変えられないことに対して諦念までも抱いているように描写されます。

つまり、この映画では問題の解決云々がコンセプトではなく、それらに対して怒りを持つことの重要性を説いているように感じられます。それは、怒りを押し込めていた広瀬すず演じる泉が、慟哭するラストシーンに象徴されているのではないでしょうか。
どうにもならなくても、怒りという感情(=自らの一部)とは向き合わなければならない。この映画はそんな基本的なことを教えてくれる作品です。

愛する人が殺人犯だったらどうするか、というのも本作の提示するテーマのひとつです。
綾野剛と妻夫木聡の演じるゲイカップル、借金を抱えた松山ケンイチとパニック障害のある宮崎あおいのカップル、そして沖縄でバックパッカーのような生活をする森山未來と地元の女子高生広瀬すずの片思い。





それぞれ、自分の恋人が殺人犯だったら……と危惧しながらの生活。日常とニュース報道が錯綜し、彼らの不安は煽られるわけです。綾野剛と松山ケンイチと森山未來の顔が似てるという児戯めいたトリックは少し可笑しかったですが、最後までハラハラさせられる展開です。

それにしても、あらゆる想い(泉の片想い、辰哉の信頼、主婦の優しさ)を裏切り続ける森山未來の恐ろしい演技は「凄まじい」の一言に尽きますね。
逆に宮崎あおいの演技(パニック障害の演技?)は難しそうだなという印象。あと、妻夫木聡と綾野剛の演技はエロかった!
沖縄の劇団で活躍する佐久本宝のリアリティのある演技が素晴らしかったです。


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