K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン『裸足の季節』

2017年01月08日 | 映画
おはようございます。三連休嬉しいですね。昨日は楽団で楽器初めしてまいりましたただけーまです。

今回はデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンの初監督作品『裸足の季節』のご紹介です。昨年の個人的新作映画ランキング()で12位にランクインした作品です。



<Story>
イスタンブールから1000km離れたトルコの小さな村に住む、美しい5人姉妹の末っ子ラーレは13歳。10年前に両親を事故で亡くし、いまは祖母の家で叔父とともに暮らしている。学校生活を謳歌していた姉妹たちは、ある日、古い慣習と封建的な思想のもと一切の外出を禁じられてしまう。電話を隠され扉には鍵がかけられ「カゴの鳥」となった彼女たちは、自由を取り戻すべく奮闘するが、一人また一人と祖母たちが決めた相手と結婚させられていく。そんななか、 ラーレは秘かにある計画をたてる……。(「映画『裸足の季節』公式サイト」より)


舞台はトルコ。古い風習の残る田舎村で、仲良し5人姉妹が厳しい叔父の元に閉じ込められ、次々と自由を奪われ、望まぬ結婚へと送り出されていく話です。設定の段階で非常に興味を引きますね。



末っ子である主人公のラーレは不自由さに苦を感じ、姉たちにイスタンブールへの逃亡を提案するのですが、年上の姉長女のソナイと次女のセルマは叔父や祖母がアレンジした婚姻話を受け入れてしまいます。
三女のエジェは最初婚姻を認めるものの、苦悩した挙句自殺。そして、四女のヌルの婚姻が結ばれそうになったとき、ラーレはついに計画を実行に移します。家に立てこもり、裏口からヌルと一緒にイスタンブールへと逃亡。最後、イスタンブールに移住した嘗ての教師ディレッキと再会し、母親に泣きつくようにハグをしてラーレの物語は終わりを迎えるのです。両親を喪ったラーレの「母をたずねて三千里」の旅ですね。



文化的なものなのか、処女に対する強い拘りが印象的でした。少しでも疑わしければ病院で検査を実施させるほど厳格な村の処女神聖視。その厳格さは敬虔なクリスチャンかよと思うほど。
ソナイは既に居た恋人とはアナルセックスをすることで処女を貫き、婚姻後の初体験で血が出なかったセルマは嫌疑をかけられて病院につれていかれるエピソードが特に印象的。その際、セルマが放った「処女だって言っても誰も信じてくれない」という力のない呟きが処女に拘る旧態然とした文化(父権的文化も含め)を暗に否定してもいるようです。



イスラム教って目立った処女信仰あったっけ?などと思いつつ調べてみると、どうやら「フーリー」という父権的文化に通じる存在がいるようですね。

フーリーは天国に来たイスラーム信者の男性のセックスの相手をするとされ、一人につき72人のフーリーが相手をするともいわれる。彼女たちは永遠の処女であり、セックスを行い処女膜が破れても、すぐさま再生するとされる。

(出典:「フーリー」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年1月7日22時(日本時間)閲覧)


イスラム圏にこうした宗教的素地があったなんて知りませんでした。このフーリーという存在が、周囲の執拗な処女への拘りの遠因になっているのでしょう。

長女ソナイと次女セルマは結婚、三女エジェは苦悩し自殺、四女ヌルと五女ラーレは逃亡と、5人の姉妹で態度が違っていたのは何故なのでしょう。
それこそが「夢みる季節は終わりが来るから」という本作の謳い文句の伝えたいことなのではないでしょうか。年上の姉たちは夢から醒め、大人として現実と折り合いをつけるために結婚。大人になりかけだったエジェは夢と現実の狭間で苦悩した挙句に自殺の結末を迎える。しかし、ヌルとラーレの夢はまだ終わっていない。夢の続きを見るために、彼女らはイスタンブールへと向かったのです。



原題は"MUSTANG(マスタング)"。そのままだと野生化した小型の馬を意味するようですが、Wikipedia曰く「スペイン語のmestengoに由来し、この語は迷子になった、あるいは主人のいない家畜を意味する」そうです。また、マスタングは「人間に服従しない独立の精神に富んだ性格」が特長であり、まさに本作においてイスタンブールに逃亡した13歳の少女ラーレを的確に説明しているわけです。

(出典:「マスタング」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2017年1月7日23時(日本時間)閲覧)


「トルコを舞台にした『ヴァージン・スーサイド』」という海外評もあり、こちらも是非観てみたいところです。

どうでもいいですが、このシーンがエミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』そのもので、これから運命に翻弄されていく未来を予感させます。


『裸足の季節』再開の約束を誓い合う姉妹たち


『アンダーグラウンド』宴の席で歌うマルコとナタリアとクロ(左から順に)


最新の画像もっと見る

post a comment