K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

山田尚子『聲の形』

2017年06月15日 | 映画
個人的2016年映画ランキングベスト1位を獲得した山田尚子監督、大今良時原作の『聲の形』です。
劇場で3回観るという初めての暴挙をし、3回とも泣くという、好みどハマりの作品でした。初回限定版のBlu-rayも購入したのでもう一度観ましたが、案の定涙が……ありがとう京都アニメーション……



<Story>
“退屈すること”を何よりも嫌う少年、石田将也。
ガキ大将だった小学生の彼は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。
彼女が来たことを期に、少年は退屈から解放された日々を手に入れた。
しかし、硝子とのある出来事がきっかけで将也は周囲から孤立してしまう。

やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。
“ある出来事”以来、固く心を閉ざしていた将也は硝子の元を訪れる。
これはひとりの少年が、少女を、周りの人たちを、そして自分を受け入れようとする物語――。
(「映画『聲の形』公式サイト」より)


身体障害者に対する偏見や差別という重い問題をテーマに設定し、ひとりの青年の人生を切り取った作品。京都アニメーションの描く圧倒的なリアリズムと妙に現実味のある登場人物に、つい物語の中に自身を投影してしまいます。

聾者 西宮硝子の転入は、狭い世界を生きる小学生にとっては一つの事件でした。当時「退屈と戦う」ことが信条だった石田将也にとって、格好の暇つぶし。すぐに将也は西宮イジメの主犯格となります。
ただ、おちゃらけキャラの石田はクラスの人気者でもあり、小学校の人気者って権力者だよな、などと過去を思い返しつつ、そのクラスや校庭の雰囲気の描写のリアルさに驚かされます。



障害者をいじめることで小学校生活を楽しんでいた将也「たち」ですが、教師によってイジメの主犯格として吊し上げられると、今度は将也がイジメの対象に。完全に自業自得ではあるのですが、将也とつるんでイジメに参加してた面々がお咎めゼロというのは、そこまで生徒のことを見ていない(考えていない)教師のリアルへと結実していきます。実際その怠慢は、西宮のイジメに気づいていたであろう教師が、親からのクレームが入るまで静観を決め込む態度からも明らかです。
とまれかうまれ、自業自得とは言え、この事件がきっかけで将也は周囲と関わりを持たなくなってしまうわけです。

そして、高校生の頃、将也は親に金を返して、橋から飛び降りを決意。しかし、死ぬ前に罪を雪ごうと地元の聾学校へ顔を出し、そこで小学生ぶりに西宮と再開を果たします。



罪の意識からか手話を覚えていた将也。小学校の頃、しきりに西宮が将也に手話で伝えていた「友達になろう」というメッセージを、今度は将也が西宮に向かって伝えます。(もう、この時点で涙目ですよ……)

そこから、死を決意し「終えた」将也は、西宮と過ごしていく中で、第二の人生を歩み始めようと葛藤します。
西宮と高校生の友人たちに加え、小学校の頃、一緒になって西宮を揶揄っていた女子の面々もさまざまな思惑から加わり、「パッと見」充実した高校生の集団が形成されます。
しかし、そこでは嘗てのいじめっ子といじめられっ子が、嘗ての関係を清算しきらないまま集う、歪で奇妙なグループだったわけです。



その表面的な友情関係は次第に不穏な翳りを見せ、最終的に将也の過去がバレることで瓦解していきます。過去に深い罪悪感を抱いてる将也にとってはかなりキツい結末ですね。
そして、西宮の飛び降り事件で、西宮を救おうとした将也は意識不明に。彼の「第二の人生」は終わりを告げます。

そして、意識を回復し、パジャマのまま西宮と再会する将也。「生きるのを手伝ってほしい」というあの名シーンです!将也の「第二の人生」は、歪んだ見方をすれば、聾者の西宮を「救おうとする」上から目線な態度だったわけですね。
良い意味で特別扱いをしない、対等に付き合っていく、という想いが将也の台詞には溢れているわけです。
そして最後、文化祭で将也が心を開く時の演出が、稀代の名シーンでした。
学校で心を閉ざしていた将也は、トラウマを克服して小学生ぶりに心を開きます。そこには、将也が認識するのを恐れていた、笑顔で楽しむ大勢の高校生やその家族たちの姿が……という演出。
それまでのフィルターがかったBGMから、靄が晴れるようにフルサウンドへと移行します。その「泣かせにきてる感」ときたら!(まあ、その術中に嵌ってしまうわけですが……)
ここから、西宮と(?)将也の「第三の人生」が始まるんですね。



耳の「聞こえない」西宮をいじめた将也が、周囲の声を「聞かない」人生に至り、そして西宮によって再び周囲の声を「聞く」ことができるようになる、この円環的な構造が大変素晴らしい作品です。


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