何でも好きなものになれる世界に行けるとしたらどうしますか?誰でも自分の自己実現が可能な世界。そこでは、努力も何もあったもんじゃなく、ただ進歩のない快楽と幸福が蔓延している。病気も無いし、貧しくもならない、全員が夢を見れる世界。
割と「行かない」と考える人の方が多いんじゃないでしょうか。何しろ、現代は割と自己実現を到達しやすい(個人のリーチ範囲の拡大、発信力の強化)世界ですから、各々が各自のライフスタイルの確立が容易にできるわけです。
しかし、それが出来ない時代だったら?ということで、今回の作品アリ・フォルマン監督の『コングレス未来学会議』です。原作は『惑星ソラリス』で有名なスタニフワス・レム。ソラリスも「理性を持つ海」というとんでもない設定でなかなか理解の難しい話でしたが、今回も負けず劣らずのとんでも設定。天才の考えることには毎回頭が追いつきませんが、とにかくものすごい傑作だということだけは確かです。
落目にありながらも、難病の息子を抱えて女優業を続けていたロビン・ライトの絶頂期をデジタルデータとして保存したい、というプロダクション「ミラマウント」のオファーから話は始まるのですが、そこから先はもうほとんど麻薬の幻覚症状とでも言うべき世界観が展開されます。難病の息子のこともあり、多数の条件付きでミラマウントと契約を結ぶロビンですが、20年後、そこにあったのは嘗ての自分がリアルなCGとして演技をする映画が流れる虚構的現実世界。こうしたペルソナのデジタル化は、誰でも望めるペルソナを獲得できる薬の生成という悪夢のような話につながっていきます。前半は実写の映像、後半は現実が悪夢化した虚構の世界になり、クライマックス部分は現実とアニメーションの織りなす形で進んでいきます。
誰でも望めるペルソナに成れる。それはもはや個性の破綻、人生の虚無化にも等しい出来事なのですが、そこで展開される虚構の幸福に誰も疑いを抱かない。ロビンは現世に残してきた息子のアーロンが気掛かりでなんとか現実世界に戻るのですが、アーロンは入れ違いで虚構の世界に足を踏み入れており…という話です。(虚構の世界では難病も何もない世界ですから)
一度踏み入れた者を探すのは最早不可能に近い(その都度、姿や場所が異なる世界だから)と諭されつつも、ロビンは息子を追いかけて再び虚構の世界へと足を踏み入れます。朽ちない過去は虚しいことを理解しつつも、愛情ゆえに虚構の世界に舞い戻る母親の姿が切ないのはもちろんですが、息子を探すためになりたい自分になったロビンの最後の姿は何だったのか。女の幸せも女優の栄光も捨て、愛しき我が子に対する母親としてのロビンの愛情の深さ、そして流れるボブ・ディランの"Forever young"に目を潤ませずにはいられないのでした。
過去は変わらない、変えられない。だからこそ、縋りつく想い(=過去)に取り殺されるプロットはありがちですが、この作品はそうした過去の栄華・幸福は現在形の愛情によって凌駕されうるということも示しており、一歩進んだ感動を覚えるのです。なんて、久しぶりに下北沢を歩いていたら深い郷愁に駆られるのでした。
Forever young, forever young
(いつまでも無垢なままで、いつまでもそのままで)
May you stay forever young
(いつまでも素敵な君のままでありますように)
Bob Dylan "Forever Young"より抜粋
Forever Young (feat. Robin Wright) from The Congress (2013)
割と「行かない」と考える人の方が多いんじゃないでしょうか。何しろ、現代は割と自己実現を到達しやすい(個人のリーチ範囲の拡大、発信力の強化)世界ですから、各々が各自のライフスタイルの確立が容易にできるわけです。
しかし、それが出来ない時代だったら?ということで、今回の作品アリ・フォルマン監督の『コングレス未来学会議』です。原作は『惑星ソラリス』で有名なスタニフワス・レム。ソラリスも「理性を持つ海」というとんでもない設定でなかなか理解の難しい話でしたが、今回も負けず劣らずのとんでも設定。天才の考えることには毎回頭が追いつきませんが、とにかくものすごい傑作だということだけは確かです。
落目にありながらも、難病の息子を抱えて女優業を続けていたロビン・ライトの絶頂期をデジタルデータとして保存したい、というプロダクション「ミラマウント」のオファーから話は始まるのですが、そこから先はもうほとんど麻薬の幻覚症状とでも言うべき世界観が展開されます。難病の息子のこともあり、多数の条件付きでミラマウントと契約を結ぶロビンですが、20年後、そこにあったのは嘗ての自分がリアルなCGとして演技をする映画が流れる虚構的現実世界。こうしたペルソナのデジタル化は、誰でも望めるペルソナを獲得できる薬の生成という悪夢のような話につながっていきます。前半は実写の映像、後半は現実が悪夢化した虚構の世界になり、クライマックス部分は現実とアニメーションの織りなす形で進んでいきます。
誰でも望めるペルソナに成れる。それはもはや個性の破綻、人生の虚無化にも等しい出来事なのですが、そこで展開される虚構の幸福に誰も疑いを抱かない。ロビンは現世に残してきた息子のアーロンが気掛かりでなんとか現実世界に戻るのですが、アーロンは入れ違いで虚構の世界に足を踏み入れており…という話です。(虚構の世界では難病も何もない世界ですから)
一度踏み入れた者を探すのは最早不可能に近い(その都度、姿や場所が異なる世界だから)と諭されつつも、ロビンは息子を追いかけて再び虚構の世界へと足を踏み入れます。朽ちない過去は虚しいことを理解しつつも、愛情ゆえに虚構の世界に舞い戻る母親の姿が切ないのはもちろんですが、息子を探すためになりたい自分になったロビンの最後の姿は何だったのか。女の幸せも女優の栄光も捨て、愛しき我が子に対する母親としてのロビンの愛情の深さ、そして流れるボブ・ディランの"Forever young"に目を潤ませずにはいられないのでした。
過去は変わらない、変えられない。だからこそ、縋りつく想い(=過去)に取り殺されるプロットはありがちですが、この作品はそうした過去の栄華・幸福は現在形の愛情によって凌駕されうるということも示しており、一歩進んだ感動を覚えるのです。なんて、久しぶりに下北沢を歩いていたら深い郷愁に駆られるのでした。
Forever young, forever young
(いつまでも無垢なままで、いつまでもそのままで)
May you stay forever young
(いつまでも素敵な君のままでありますように)
Bob Dylan "Forever Young"より抜粋
Forever Young (feat. Robin Wright) from The Congress (2013)
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