よろず戯言

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初めて行く床屋はドキドキする

2022-05-25 01:07:08 | 日記・エッセイ・コラム

 

暑くなった。

髪を切りたい。

最後に散髪したのはいつだっただろう?

まだ肌寒い頃、3月の初め頃だったろうか。

 

福岡へ戻ってから十数年間、行きつけだった近所の床屋。

高校時代もずっとそこへ通っていた馴染みの床屋だったが、

一昨年末に店じまいしてしまった。

親父さんがひとりで営んでいたが、高齢のため店をたたんだようだ。

 

代わりに、少し離れたところで見つけた隣町の床屋へ通い始めた。

こちらは年配のおかあさんが、ひとりで営んでいる。

おそらく当初は夫婦で営んでいたのだろうが、

ご主人が他界されたか、病気などで引退なさったかで、

おかあさんがひとりで営んでおられる。

 

あまり愛想の良くないおかあさんだけど、

客も少なくていつでも空いているし、

こういった田舎の、さびれた床屋で静かに髪を切ってもらう方がいい。

 

休みの日にその床屋へ行けばいいのだが、

この春に職場が変わり、これまで平日休みだったのが土日休みになった。

土日といえば、さすがにあの床屋でも先客が居たりする。

予約すりゃ済む話だが、予約してまで行くほどのものだと思っていない。

先客が複数居る場合は諦める。

 

それに土日休みになって、元来の出不精に拍車がかかる。

人混みや渋滞が嫌い。

だから、出かけるのが億劫になる。

平日休みならそんなことも気にしなくて良かったのだが、

土日のあちこちの人混みはやっぱり嫌い。

おかげで映画も美術展もすっかりご無沙汰。

 

しかもあの床屋さん、わりと混雑する交差点の角に在ったりして、

なかなか駐車がしにくかったりする。

次の休みには行こう。

次の休みは絶対に行こう。

そう思って二週間が経った。

 

さすがに暑さ鬱陶しさ限界だ。

仕事帰りにサクッと済ませるか。

通勤時間は車で約1時間。

7つもの自治体をまたいでの長距離通勤。

その間に床屋なんていくらでもあるっしょ。

 

 

さっそく職場近くで床屋がないか探す。

すると、職場からわずか200mほどの場所に見つけた!

店先にはあのグルグルも回っている。

ただ、赤色がなくて青と白のみのシンプルなグルグル。

色褪せた、なんだかさびれた感じの、田舎の床屋って感じの看板もいい。

きっと老夫婦が細々と営んでいるに違いない。

 

自分はこじゃれた床屋は苦手。

それこそ若いおしゃれなニイちゃん達が複数いるような、

今時の床屋っていうより、ヘアサロンって感じのお店が苦手。

広島に居た頃は、そういったお店へも通っていたけれど、

30過ぎたあたりから、めっきり行かなくなった。

 

駐車場に車を停めて、さっそく扉を開く。

目に飛び込んできたのは、パーマを当てている客。

あの、よく解らない炊飯器みたいなのを被っている客が居た。

あれ、パーマだよね?

これまでの床屋で目にしたことのない光景に面食らう。

 

「いらっしゃいませ!」

急いで目の前に現れた、店長らしき男性。

自分と歳は同じくらいか?

スタイリッシュな黒基調のギャルソンスタイルの格好で

頭頂部にわずかに白髪が残っているものの、

そのツルンツルンのスキンヘッドにためらう。

その脇には若くて背の高いロン毛のニイちゃんも。

 

 

よく見れば店内は広くておしゃれ。

座席はゆうに8席以上は並んでいる。

これは・・・まさか床屋じゃなくて美容室だったか!?

もしかして赤色のない青と白だけのグルグルは美容院って意味とか?

 

入店刹那、そんな感じであれこれと狼狽していると、

「どうぞ!」

スキンヘッドの店長らしき男性が、目の前の座席へ案内する。

高級車の後部座席というか、役員さんが座るような椅子というか、

黒一色のなんとも重厚な雰囲気の座席だ。

リクライニング装置やステップがむき出しの、よく見る床屋の座席じゃあない。

 

「初めてなんですが・・・。」

「大丈夫ですよ~!」

「この辺にラインがあるんで、そこで区切ってツーブロックに・・・。」

平静を装い、やって欲しい髪型を伝える。

 

店内にはテレビの音が聞こえている。

テレビってのは床屋っぽい。

ヘアサロンでよく流れているような、ワケの解らんヒップホップの有線や、

美容院でよく流れている(・・・と、想像している)こじゃれたBGMではない。 

 

 

「昔ハードモヒカンやってたんですよ。」

「すごいですね!」

「立てていたわけじゃなくて、結わってたんです、久保田利伸みたいに。」

「ああー久保田利伸さん、かっこいいですよね!」

「前、何も言わなかったら、アイビー入れられたことあります。」

「きょう日アイビーですか!?」

 

平静を装い、カットしてくれている男性と話す。

やはり同世代なのか、色々と話しが合う。

いや、床屋さんて話上手なひとが多いから、話を合わせているだけかもしれない。

そんなとき、パーマを当てていたであろう客と、

その客の相手をしているスタッフの声が聞こえてくる。

 

男性と女性の声。

男性の方は低めでチャラい口調。

ああ、さっきこのスキンヘッドのひとの脇に居た、背の高いニイちゃんだな。

てことは、女性の声は客か!

なるほど、それで炊飯器みたいなパーマの機械を被っていたのか。

 

待てよ・・・!

女性客ってことは、やっぱここ美容室なんじゃん!

うわー40半ばの仕事帰りのおっさんが、普通のカットだけで美容室に来てもうた。

これ、シャンプーとか別料金になるのかな?

髭剃りとかやってくれんのかな?

ラスト、甘い合掌でパコパコ言わせる肩叩きとかやってくれんのかな?

美容室なんて行ったことないから、システムも何も判らない・・・!

 

 

ハサミが速い。

これまで行ったどの床屋よりも速い。

そして髪の触り方もつまむというより、撫でるという感じ?

撫でながら、さっさかカットしてゆく。

メガネを外しているから、ド近眼の自分は前の鏡に写る光景が確認できない。

 

向こうの客とスタッフのやり取りが聞こえる。

「期末やったんっスよ・・・。」

「へえ・・・。」

「・・・らしいっスよ。」

「ふうん・・・そうなん。」

ボソボソとしてチャラい口調のスタッフだな。

それにしても客は大人な対応、スタッフよりも年上の女性で常連なのかな?

 

そうこうしていたらカットが終了。

メガネをかけさせられ、後頭部にあの三面鏡を広げられ、カットの具合を見せられる。

「いかがでしょうか?」

もうちっと短くして欲しかった・・ちょっと注文よりも長めだが、まあいいか。

 

 

「大丈夫です。」 

そう答えると、リクライニングで寝かされる。

ナイロン地のものを首から覆われ、座席が180度ターンする。

え!?

そのまま頭が洗面台に。

仰向けで洗髪!

これは・・・やっぱり美容室だ!

 

昔ロン毛だった頃、ヘアサロンで仰向けで洗髪したこともあったけれど、

床屋ってのは大概、うつ伏せというか、かがむ格好で洗髪する。

女性客がパーマ当てていた時点で確定だったが、やはり美容室に来てしまっていた。

 

 

それにしても、このスタッフの指使いがたまらない。

ちょうどいい加減の力とスピードで、すごく気持ちいい。

「かゆい所はございませんか?」

・・・と、訊かれて実際にかゆい所があったとしても、伝え方に困る質問もない。

かゆみも吹っ飛びそうな心地よさ。

これはスカルプケアには良さそうだ。

シャンプーだけやりに来てもいいくらいの指使い。

 

髪を洗われ心地よくなりながらも、値段のことを考える。

サイフには一万円札と小銭があったのを記憶している。

このシャレた感じだとカードも使えるだろうし、大丈夫だろう。

 

 

洗髪が終わる。

リクライニングのまま、今度は顔に何か当てがわれる。

スタッフ交代。

なんと女性スタッフがやってきた。

とはいえ顔面を覆われているため、確認はできないけれど、

声色で明らかに女性だと判る。

 

この声、さっき向こうでパーマ当てられていたお客さんじゃ・・・?

待てよ・・・てことは、このひとはスタッフで元から居たのか?

じゃあパーマ当てられていたのが、チャラい口調の若い男か!

会話のなかで期末がどうのとか言ってたが、中高生じゃないのか?

今どきの中高生男子はパーマ当てるのか!?

 

女性の柔らかな指使いでヒゲを剃られる。

ああ・・・気持ちいい。

姿が見えないので、若いのかどうか判らないが、

声色と顔に触れる指の感触で、いつも行ってる床屋のおかあさんよりは間違いなく若い。

 

髭剃りが終わり、リクライニングが戻される。

ドライヤーでブローされ、パコパコと甘い合掌での肩叩きが始まる。

しかし音だけいい音が響いているが、肩には全く効いていない・・・。

こっちはさすがに年の功、いつも行く床屋の おかあさんの方がうわ手だ。

 

メガネをかけ、席を立つ。

小さいほうきみたいなので、肩をはらってもらう。

「おつかれさまでした~。」

奥の方でおとなしめの男性の声。

よく見たら、入店時にチラっと見た、背の高いニイちゃんスタッフもちゃんといる。

あのチャラい口調だったのは、やっぱりパーマを当てていた客。

てっきりこの背の高いニイちゃんスタッフの声だと思っていた。

 

 

「カットで3,500円になります。」

うむ、床屋の標準価格だ。

入店した瞬間から抱いていた不安はすべて払拭された。

 

店を出て振り返る。

ガラス戸に貼られた店名のロゴが、少し剝げかけてレトロさを醸す。

スタッフの格好や内装はシャレていたものの、

ここは紛うことなき、町の床屋だった。

 

これから ここへ通うか。

だが、営業時間が午後6時まで。

仕事が閑散期の今で定時上がりでもギリギリだったので、

繁忙期になるとまず間に合わない。

だからといって、休みの日にわざわざ一時間もかけ、

職場近くのこの場所まで散髪しに来るわけにもいかない。

やっぱりこれまでどおり、あのおかあさんのお店で髪を切ってもらうことになりそうだ。

 

陽も落ちて涼しくなっていた。

車のウインドを開け、

軽くなって涼しくなった頭に風を受けながら帰路に就いた。

 

 

たま/とこやはどこや

前にも貼ったような気がするが、床屋の記事となるとこれを貼らずにはいられない。

 



2 コメント

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Unknown (mcm0815)
2022-05-25 10:39:38
オイラは逆に、高校生の頃辺り?美容院と間違えて床屋に入ってしまったことがあるよ。。。
トホホ。。。
今思うとどうして間違えた!?ってなるけどさ。
友達があそこの美容院いいよ!って言ってたから行ってみたら場所違いだっただけだけど。
斬新な体験したわ。
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斬新というか貴重な体験ですね ()
2022-05-26 00:03:35
みはねさんこんばんは、コメントありがとうございます。
 
逆バージョンですか!
野郎が美容院はアリだけど、女性が床屋はないですよね。
さすがにそれは赤面退店パターンかな。
女子高生入ってきて、床屋さんも驚いたんじゃ・・・?
 
あ、でも産毛剃りで床屋に行く女性も居るんだっけか。
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