看護師をしている下の妹。
2歳から小学校2年生まで、4人もの子どもが居るのだが、そこは看護師。
大きな総合病院で働いているため夜勤も多い。
そんなとき、うちの母に子どもたちが預けられる。
仕事を終えた母が、甥っ子たちの通う小学校や幼稚園へと直接向かい、4人を迎えに行く。
数日前のこと。
この日もまた、妹が夜勤のため母が4人の甥っ子たちを家に連れ帰っていた。
食事中、母と小学生の甥っ子とで、学校で捕まえたというカエルの話題に。
学校から帰ろうとすると、甥っ子の傘のなかに大きな黄緑色したカエルが居て、
カエルを傘に入れたまま母の車に乗り込んだら、車内でカエルが脱走。
うちのお母んも車内を探したけれど、カエルが見つからず、
今もまだ車内のどこかにカエルが居るとかなんとか。
そのカエル、母が言うに今まで見たことがないカエルだったという。
黄緑色していて、アマガエルみたいなんだけど、
体長が5cmくらいあって、アマガエルにしては、あまりに大き過ぎるという。
「トノサマガエルじゃない?緑色で斑模様とスジがあったら、トノサマガエルたい。」
「いや、きれいな黄緑色でツルツルしちょって、なんの模様もなかったばい。」
「じゃあ判らん、実物見てみらんと・・・。」
「やっぱり大きいアマガエルやったんかねえ?」
「いや、アマガエルもうっすら模様があるけんね。大体そげんデカくないっちゃ。」
いったい何ガエルなんだ?
自分もそのカエルが見たくなった。
食後、「ひょっとしたらカエル出てきちょうかもしれんき、車ん中、見てくる。」
そういって、お母んが外に出た。
すぐに戻って来た。
「おったばい!」
飼育容器をぶら下げて、家に入ってきた。
容器のなかを見ると・・・。
!
なんじゃこのカエル!?
これは見たことがない!
確かにアマガエルのような鮮やかな黄緑色。
だが、斑模様も筋も入っていない。
それに、アマガエルと比較して明らかにでかい。
確かに5cmくらいはある。
それに、けっこうずんぐりしている。
すぐに家にあった、いきもの図鑑を広げる。
自分の子どもの頃からあった年季の入ったやつ。
カエルのページを開いて、らしきやつを探す。
・・・。
探す間もなく、ページを開くと真っ先にそれが目に入ってきた。
コイツじゃないか?
よく似たイラストのヤツ、名前を確認すると、
“シュレーゲルあおがえる”となっていた。
なんじゃこの外来生物みたいな名前は?
どうせペットが逃げ出して自然繁殖したみたいな類だろう?
こいつじゃないんじゃ・・・。
簡単に書かれてある説明文を読むと、「日本にすむ」とある。
すごいアバウトだな・・・ここらにも分布しているのかな?
他に載っているなかに、らしきカエルは居ない。
体長も合致するし、どう見てもこれがソックリだ。
その後、ネットで調べてみたら・・・間違いない。
甥っ子の傘に入っていた謎のカエル、正体はシュレーゲルアオガエル。
水辺の上にある木の枝や水辺近くの土の中に、泡に包まれた卵を産み、
卵から孵ったオタマジャクシは、そのまま池や沼に落っこちたり、流れ着いたりする。
その生態で有名な、モリアオガエルの近縁種だった。
モリアオガエルは知っていた。
しかし、コイツは知らなかった。
シュレーゲルってのはこれを新種発表した、ドイツ人学者の名を冠しているらしい。
日本固有種なのに、そんな名前付けんなよと。
しかし・・・このカエル、飼育することなどできない。
カエルの飼育といえば、昆虫の生き餌だ。
子どもの頃、ハエやガを生きたまま捕獲して飼育容器に投入したりして、
とにかくエサやりに苦労した覚えがある。
それにどうやらメスのようで、なんとなくお腹も大きく見える。
もし近く産卵でもするのならば、これは放してやるべき。
だが、甥っ子はこのカエルを飼育する気でいた。
しかも翌日学校へ持って行き、クラスメートや先生に見せるという。
いかん・・・。
先生はともかく、クラスメートはいかん。
間違いなく殺される。
甥っ子が通う小学校、この町全体がそうであるように、まあ悪い。
保護者もクソみたいな連中が多いが、それに輪をかけて生徒たちの悪いこと。
飼育が難しいこと。
学校に持っていったら悪ガキに殺されてしまうかもしれないこと。
一所懸命説明するが、飼育容器を抱きしめて、首を縦に振ってくれない甥っ子。
大粒の涙をこぼして、毎日お世話するからと飼育したいと懇願する。
甥っ子の気持ちは解らないでもない。
カエルはもちろん、アリ,テントウムシ,カマキリ,コオロギ,クワガタムシ,カブトムシ,
カミキリムシ,アリジゴク,カタツムリ,ヤモリ,イモリ,カメ,ザリガニ,タニシ,etc・・・。
自分も子どもの頃、いきものが大好きで、数々のいきものを捕まえては飼育した。
だが、その多くは、きちんとした世話ができなくて、死なせてしまった。
そのときに味わう、申し訳なさというか、罪悪感といったらない。
だからこそ、甥っ子にも解って欲しいと思って、飼育を諦めさせようと必死だった。
そのうち出勤準備を終えて、妹がやってきた。
夜勤のとき、うちで夕飯をとって風呂に入って、仮眠してから出勤している。
妹がカエルの件を聞いて、甥っ子に説得する。
とうとう甥っ子が折れて、カエルを逃がしてやることに同意した。
それでも別れを惜しんで、ずっとべそかいていた。
逃がすのは、うちの裏庭でいいだろう。
うっそうとしていて湿り気あるし、エサとなる虫だって豊富に居る。
ただ、天敵となるヘビも居るが、それはどこも同じだろう。
懐中電灯を手に、玄関を出てすぐ脇にある茂みへとカエルを放った。
ヤブランやユキノシタ,ドクダミなんかが茂っていて、よくアマガエルやツチガエルも居る場所。
ここなら、シュレーゲルアオガエルくんも暮らしていけるはず。
・・・。
逃がした後、さらにちゃんとシュレーゲルアオガエルのことを調べてみた。
鳴き声を聴いてみたら、よく聴く声だ。
わりと普通に居るカエルで、鳴き声もよく聴かれるが、
ふだん草の下や土中に身を潜めているため、姿を見る機会は少ないのだとか。
それで自分らも、これまで見たことがなかったのだ。
捕まえた個体はメス。
しかも、でっぷりと肥えていたので、おそらく卵を抱えている。
だが、卵を産むのは田んぼの畦や、池沼のほとり。
甥っ子の通う小学校のすぐそばに水田がある。
きっとそこから学校の傘立てに侵入したのだろう。
うちの庭には・・・湿気はあっても水辺がない!
下水の側溝、すなわちドブが流れているだけ。
しかも梅雨入りしたにも関わらず、ここ最近、雨がほとんど降っておらず、どこもここも渇き気味。
うわぁ・・・ちゃんと調べて、生活適応できる場所で放してあげるんだった・・・。
無事に生きてりゃいいが・・・。
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