ようやくたどり着いた御室小屋の脇、建物を風雨から護る石垣の傍らにザックを置き、これから山頂を往復する。岩場では、ストックは邪魔になるから持たないようにと指示があった。杖に頼ることが多くなっている私には不満だったが、言葉に従うことにした。トップを行くThさんは、奥さんの出身が山形県温海町であるということもあって、何回も登っていると聞いていた。足場が悪いので自信の無い人は見合わせるようにとの呼びかけがありAkさんが手を挙げ待機を宣言する。いよいよ山頂を目指して出発。直ぐに、大きな岩塊をへばりついて上り始めたところでMtさんがリタイヤ。道はますます険しくなっていく。Thさんは、当時小学生だったお子様を連れて登ったとも言っていたが、この道については何も語っていない。子供でも登れるんだからと、油断していた部分もある。正直これほど険しいとは、思いもよらなかった。上を目指している筈なのに、今度は岩の間に下っていく。それも段々狭くなる暗い谷間へ。足元に注意しながら片手で先行する仲間の後ろ姿を撮った。谷間の底から再び岩を伝わって上り始める。直ぐに停滞。どうやら先がつかえているらしい。岩の向こうを下る人があり、右上の方では、はしゃぐ声がする。間もなく行列が動き始め、ひと上りで山頂に着いた。なるほど新山の頂上は狭い。2班7人と代表が座れば一杯の広さしかない。ファイトを称え、万歳三唱してから記念写真を撮り、下りも上り同様岩ゴツゴツの道を慎重に下り、デポ地点に戻った。
岩の隙間を抜けて新山山頂へと向かう
岩の積み重なる新山ドームの山頂
このときの様子を彫ったのが「鳥海山々頂への道」である。岩の谷間へ下っていく様子と、前方岩の間に光が射していて、未来が明るいことに通じているような光景を描きたかったが、後者は止められた。画の全体としての方向の先を白っぽくすると、抜けてしまうのだそうだ。市民文化祭に出品することを意識して私が彫れる限界の10号にしたが、この大きさだと彫りはともかく、摺りの段階で全体にむら無く絵の具を載せることは、なかなかエネルギーの要る作業だった。最近は、いかに彫らないようにするか腐心してきたのに、彫りだすと全体が見えにくくなり、今回も岩の線を彫りすぎ煩雑になってしまったことは、反省。もうひとつ、木田安彦に見る“カスレ”をどうすれば表現できるか研究してきたが平刀を使えば良いことが解ったのは、収穫。岩の表面に一部採用した。この構図が気に入ったので、葉書サイズに画を起こし直し、'10年の賀状として投函した。SHC会員の何人かに、届いていると思います。葉書では、岩の谷間右上のインクを薄くした。この方が狙った通りになったし、作品としても、まとまっていると感じている。
(2010年4月、IK記)
遊佐方面を見下ろす
千蛇谷雪渓を登る
登ってきた千蛇谷を振返る
八丁坂のお花畑
* * *
【2024年10月記】
Ko(甥・中3)Yu(長男・小4)Sho(次男・小1)
2009年8月の合宿山行は、出羽の名峰 鳥海山・月山へと遠征した。IKさんが書いているとおり妻の実家が庄内で、帰省の駄賃に子どもを連れて山に登ったものだった。最初の鳥海山は1997年夏、「恒例としている帰省山形山行は8月16〜17日と鳥海山に行った。“その山では雪で遊べるか、岩に登れるか”これがSho(次男・小1)の出した条件であったが、山形の山は冬の豪雪のおかげで、真夏でも雪渓が残る。若い火山である鳥海山の新山ドームは積み重なった岩が天を突くという。これで決まりである。」ローカリスト(?)の私にとっては、地元の南アルプス以外に通った数少ない山域が飯豊、朝日両連峰と庄内の山々だった。
本年度の夏山合宿「鳥海山・月山」が無事に終り、担当として安堵しています。今年の東北地方は夏が無かったと言える程不順な気候で、当初この山行も雨が心配されましたが、幸いにも好天を当てることができました。また、数度の山行で私も見たことのない真っ盛りの花々に迎えられました。これが第一の成功のポイントでした。
道中の長さゆえ、本番の体調を維持するのに苦労された方も見受けられましたが、鳥海山は全員で10時間に及ぶ行程を歩き通すことができました(2名は新山山頂には立てませんでしたが)。皆さんの日頃の鍛錬の成果でしょう。花を見る時の、雪渓を渡る時の皆さんの喜々とした(中にはちょっぴり不安げな)顔も忘れられません。下山口でスイカ、メロンの用意をして待っていてくれたS鉄小型バスのK、S両運転手の心遣いにも感激しました。
(会報『やまびこ』No.151、2009年10月)
参加された故Akさんは「振り向けば日本海、前方は雄大秀麗な山並み、点在する大雪渓、広く長く続く高山植物のお花畑。鳥海山は感動的な交響詩のような山でした。」と感想を述べられたが、私にとっても会心の合宿山行の一つだった。
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