ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ペンションメッツァ

2025年02月03日 | 映画評じゃないけど篇

小林聡美が映画『転校生』のキャライメージを破るきっかけとなった『かもめ食堂』。料理上手の自立した女性を本 WOWOWドラマシリーズでも演じているのだが、♂に依存しない中年女性の新しい生き方を提示し続けてきたそのキャラクターにも、正直そろそろ飽きが来ている。初代『かもめ食堂』を監督した荻上直子も本シリーズを離れ、若手の女流監督が代わる代わるその後を引き継いできたのだが、フェミニズムブームもトランプの大統領当選で“終わりのはじまり”が見えつつある現在、そろそろという感が否めないシリーズなのである。

 TV 局側は小林&キョンキョンW主演ドラマ『団地のふたり』の小ヒットを受けて、まだまだいけるぞと鼻息が荒らそうなのだが、見ているこちら側としてはもういい加減手仕舞ってもいい頃だと思うのだ。2006 年に『かもめ食堂』が公開されたということは、かれこれもう20 年ほど同じようなキャラクターを小林聡美が演じ続けているわけで、「いつまで料理上手な女を演じつづけなきゃならんの?」と、小林ご本人もイメージの固定化に大いに悩んでおられるのではないだろうか。

 八ヶ岳山麓の奥深くにひっそりと佇む“ペンション・メッツァ”。森の妖精?(もたいまさこ)に見守れながら、一話につき一人だけの客人を迎えいれるペンションの女主人テンコの物語。CM 出身の松本佳奈監督としては、今シリーズの新機軸としてもしかしたら“この世ならざる者”たちを迎えいれる“バルト”としてのペンションをイメージしていたのではないだろうか。決して人付き合いが得意ではないテンコは、学生時代に近くの喫茶店でアルバイトして以来、各地を転々と渡り歩いている“さすらい人”という設定だ。

 ここに訪れる客人も、お一人さま女性キャンパー、カメラマン、自転車で日本 2 周目にさしかかっている青年.....地に足をつけて生活するのが何よりも苦手なノマドたちだ。その中には、この世から永遠に旅立ってしまったような“昔の恋人”や“モノノケ”まで混ざっていて、どこか浮き世離れしているここ“メッツァ”なのである。それは『かもめ三部作』の監督荻上直子が最近“仏教”に傾倒した映画を撮っていることと無縁ではあるまい。つまり、本シリーズの登場人物は、すべからく煩わしい浮き世へ見切りをつけ、そこから逃れてきた世捨人たちなのである。

 しかし、この世への執着を捨てきれていない“道半ば”の菩薩たちは、テンコの手料理を肴に小乗仏教では禁止されている酒を酌み交わし、人間らしいふれあいに一時孤独を癒したりするのである。かのドイツ人哲学者ショーペンハウワーも述べているように、人間 50 歳を過ぎたら人間関係を整理して、孤独に自分を馴れさせる訓練をすべきなのだ。小林聡美演じるテンコが酒を断ち、メッツァを訪れる客人がすべてこの世の人間ではなくなった時、はじめて彼女に“悟り”の瞬間がやって来るのではないだろうか。そんなドラマを是非一度見てみたい今日この頃なのである。

ペンションメッツァ
監督 松本佳奈(2021年)
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