先日、病院実習中の臨床検査技師科の学生が、血液で汚れた白衣を着がえているところを通りがかりました。
いったいどうしたのかとたずねたところ、学生同士での採血実習中に、注射器の操作を誤って、血しぶきを浴びてしまったというのです。
コロナの感染予防対策で、学生含め職員は全員フェイスガードを装着していますので、それが幸いして、顔に直接血液をあびずにすんだのはよかったです。
血液には肝炎ウィルスなど、感染の原因となるものが含まれていることがあるので、取り扱いには大変注意を要します。
私たち医療者は決して素手では自分以外の人の血液や体液に触れることはしません。
ロシアがウクライナに侵攻し、世界中の国がロシアに経済制裁を課す云々といったことが報道され始めた頃、とても気になったことがありました。
それは、「返り血を浴びる」という比喩表現です。
経済制裁はロシアの経済にダメージを与える反面、ロシアからの輸入に頼っていたガソリンや木材や食材などの値段が高騰するなど、こちら側にも不利益が生じます。
そのことを、「返り血を浴びる」という言葉を使って、あらゆるメディアが報道しているのが気になって仕方ありませんでした。
戦争に関しての報道にピッタリの表現だといわんばかりに、報道番組のキャスターも、ワイドショーの司会者も、新聞記者も、得意気に用いているように感じられて、私は不快でした。
けれど実は、そういう私も、例外じゃないという場面がありました。
採血後に血が止まらないと、血のにじんだアルコール綿を指さしながら検査室に戻ってきた患者さんの手当てをした時のことです。
すでに止血はできていましたが、患者さんが心配されるので、(本当は必要ないけれど)、御守り代わりに小さな絆創膏を貼って差し上げたのですが、そのときについ、「出血大サービスですよ」と言ってしまったのです。
おやじギャグ的だと思いながらも、出血して心配している患者さんに対しては失言だったなと反省しました。
「出血大サービス」というキャッチコピーは、赤字覚悟での安値で販売するときに昔は良く使われていましたが、いまでは広告業界では禁句に近い扱いだそうです。
今開催中のカンヌ映画祭のレッドカーペットに、ウクライナの戦場での性犯罪に抗議する女性が、血液で汚れた下着姿で乱入するというハプニングがありました。
また以前、パリやロンドンなどの有名ファッションショーで、リアルファーの使用に反対して、血塗られた毛皮用品を着たモデルがランウェイを歩いているのを見たこともあります。
私たちにとって血液は無くてはならないものですが、いったん体の外に出ると、危険なものに姿を変え、かなりのインパクトを持って、私たちに様々なメッセージを発するものなのですね。