全面救済の決断を一刻も早く
原爆投下直後に広島と長崎に降った「黒い雨」による被害の幅広い認定を拒んでいる岸田文雄政権に批判の声が上がっています。
首相は、広島の平和記念式典のあいさつ(6日)や長崎の平和式典のビデオメッセージ(9日)で「黒い雨」被害について一言も触れませんでした。78年前、原爆によって被害を受けたのに、いまだに被爆者と認められず、被爆者健康手帳を交付されない人の苦しみや悲しみに、なぜ心を寄せないのか。国は姿勢を改め、一刻も早く全面救済を決断すべきです。
広島高裁判決に立ち戻れ
国は長年、原爆に遭っても国の指定地域外にいた人を被爆者と認めず、援護対象にしてきませんでした。この国の不当な線引きを違法とし、被害者の救済に道を開いたのが、2020年の広島地裁と21年の広島高裁の「黒い雨」被害第1次訴訟の判決です。
広島地裁は、指定地域外でも「黒い雨」を浴びたり、「黒い雨」の降った場所で生活したりした人は被爆者だと認定しました。広島高裁は、地裁判決を維持するとともに、より広い救済の枠組みを示しました。がんなど原爆の影響が考えられる疾病の発症がなくても被爆者と認められるとしたのです。
また、「黒い雨」に直接打たれなくても空気中の放射性微粒子を吸った場合などの内部被ばくによる健康被害の可能性があったことも指摘しました。
国は上告を断念しました。21年7月、菅義偉政権は、原告と「同じような事情にあった方々」は訴訟参加の有無にかかわらず救済できる対策を検討するとした首相談話を閣議決定しました。
広島では22年4月から新しい基準の運用が始まり、今年3月末までで約3800人に新たに被爆者手帳が交付されました。しかし、がんなど11疾病があることなどを新基準に盛り込んだため、184人が却下されました。幅広い救済を求めた高裁判決に反する事態です。認定されなかった被害者は今年4月、新基準撤回を求めて第2次訴訟を起こしています。国は原告の声を受け止め、救済を妨げる線引きを直ちに撤廃すべきです。
長崎の原爆被害をめぐり、指定区域外の人を被爆者と認定しない方針を変えない国の姿勢も重大です。長崎には「黒い雨」などに遭ったのに被爆者手帳を交付されない「被爆体験者」が約6000人います。国が、長崎に「黒い雨」が降った記録がないなどと主張し、救済に背を向けているためです。
しかし、長崎県が22年に国に提出した専門家の報告書は、指定区域外でも「黒い雨」が降った客観的な記録があると結論付けています。ちりなど放射性降下物を含めて全体像をとらえることの重要性も提起しています。
先延ばしは許されない
長崎の「被爆体験者」は、菅首相談話で言う広島の原告と「同じような事情にあった方々」です。長崎県と同市は、広島と長崎を差別すべきでないと訴えています。この声に真剣に耳を傾けなければなりません。
「黒い雨」をめぐる対応は被爆者に冷たい国の姿勢を象徴しています。原爆被害を矮小(わいしょう)化する援護行政の根本的な転換が必要です。被爆者の平均年齢は85歳を超えました。時間は限られています。解決の引き延ばしは許されません。
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