『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『不連続の世界』 恩田陸

2018-10-21 | Books(本):愛すべき活字

『不連続の世界』
恩田陸(日:1964-)
2008年・幻冬舎
2013年・幻冬舎文庫

++++

「俺たち、立派なミッドライフ・クライシスに突入してるってことだ。

「えっ?」

「こんなことやってんのも、中年の悪あがきさ。

夜行列車で怪談やって、さぬきうどん。

人生の後半に差し掛かったことに動揺してるんだ」

「そうかな」

「そうさ。

俺だって、結婚に失敗して、家庭を築くことに失敗した。

本人の感覚としてはまだ人生が始まっていないつもりなのに、世間的には立派な中年だからな。

時々空恐ろしいような気分になる」


『夜明けのガスパール』
++++


長くブログをやってると、その間に生活や趣味も変わる。

恩田陸もすっかりごぶさた。

この本、『不連続の世界』が発行された2008年は、ちょうどこのブログを始めたころで。

当時「読もかな?」と思っていたことをふと思い出した。


相変わらず、

①サクッと読めて

②どこかに必ず「お?」と思うような一節があり

③細かい整合には筆者があまりこだわらず

④読んだ方も読後に全ストーリーをサラッと忘れられる

という恩田作品で素晴らしい。


先週読んだのに、もうこの本のことを何も覚えていない。

いや、いい意味で。


抜粋したミッドライフ・クライシスのやり取りは、ストーリーの核心とは関係ないんだけど。

ちょっと感ずるものがあった。


中年男性4人が夜行列車に揺られ、酒を飲みながら語らっているシーンなんだけど。

直前に、こんなやり取りがある。


++++

「またビール買ったのか」

「チェイサーさ」

同じ返事をして、肩をすくめる。

「何考えてたんだ」

黒田は多聞の隣で窓に寄りかかった。

「さあね。ぼんやりしてた。

こんなふうに、列車にはこばれていくうちに、いつのまにか人生の終点についてるのかなって」

++++

どんなに毎日の生活を自分で切り開いているつもりでいても、

人生には「列車にはこばれていく」ような側面はあると思う。

「列車」は「時間」に置き換えてもいい。


願わくは、終点までの旅が楽しいものであることを。


ところで。

文体こそ全く違えど、恩田陸にはどこかチャンドラーめいたところがある。

ストーリーと関係のないエピソードが、あまりにも多すぎるのだ。


例えば、今回抜粋した『夜明けのガスパール』に出てくる、男性の胃にできた腫瘍から女の髪の毛がドッサリ出てくる話。(魚ギョ!)

普通、そっちでホラー短編を一つ作るよねぇ。


アイデア出し惜しみ無し。

太っ腹で素敵。


■恩田陸
『光の帝国 常野物語』 (1997年・集英社)
『図書室の海』 (2002年・新潮社)
『蛇行する川のほとり』 (2004年・中央公論新社) 
『ネクロポリス』 (2005年・朝日新聞社)
『中庭の出来事』 (2006年・新潮社)
『いのちのパレード』 (2007年・実業之日本社) 
『きのうの世界』 (2008年・講談社)


<熱帯雨林>


不連続の世界 (幻冬舎文庫)
恩田 陸
幻冬舎

 


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