『まばゆい残像 そこに金子光晴がいた』小林紀晴(日:1968-)2019年・産業編集センター++++しばらくすると鍵を開けているような金属音がして、扉が内側から開いた。光がこちら側にこぼれ、同時に中年の男の怪訝な顔がヌッと現れた。私は英語で話しかけてみた。反応はなかった。次に私はあらかじめ準備して手に持っていた金子の『マレー蘭印紀行』の文庫本を男の顔の前にかざした。すると男はなかに入れと身振りとと . . . 本文を読む
『映画は撮ったことがない ディレクターズ・カット版』神山健治(日:1966-)2009年・『神山健治の 映画は撮ったことがない 映画を撮る方法・試論』INFASパブリケーションズ2017年・講談社そっかー、そっかー、そうだったのか!いや10年前の本を読んで驚いてますけど。2002年の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の見えるものにしか見えないネットワークは、我が人生の書『ノーラ . . . 本文を読む
『どこにでもあるどこかになる前に。~富山見聞逡巡記~』藤井聡子(日:1979-)2019年・里山社++++かたや東京の冬はというと、ブルーハワイをバケツでぶっかけたような青空ばかりで、私はその下を歩くことが苦痛でならなかった。北陸特有のどんよりした気候で、なおかつ娯楽も少ない富山という地は、転勤者、移住者のなかには、自律神経を乱しがちになる人もいるという厄介な場所であるらしかった。しかし、私にして . . . 本文を読む
WIREDという雑誌は、かつて1994年から1998年までの4年間、日本版が刊行されていた。創刊から休刊まで4年間で実に49冊が書店に並んだ。学生だった俺は本屋さんに行っては毎号購入し、わりと熱心に読んだ記憶がある。買い込んだWIRED49冊は、当時の部屋で空間的に割と大きなスペースを占めていた。だけど、WIREDが食っていたのは決して部屋のスペースだけではなかった。WIRED的な「感性」とか「気 . . . 本文を読む
『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』"This Sandwich Has No Mayonnaise/ Hapworth 16, 1924" by J.D.SalingerJ.D.サリンジャー(米:1919-2010)訳:金原瑞人新潮モダン・クラシックス2018年・新潮社++++仲間といっしょにトラックのなかで、安全ストラップの上に座り、ジョージア州のさすまじい雨を . . . 本文を読む
『エコノミストの父が、子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』永濱 利廣(日:1971-)2017年・ワニブックス++++でもよく硬貨を見てみましょう。1円、5円、10円、50円、100円、500円と、現在6種類の硬貨が流通していますが、どの硬貨にも「日本国」と書かれています。「日本銀行」の文字はありません。紙幣と硬貨で記されている文字が違う理由は、日本の紙幣と硬貨は、別のところでつく . . . 本文を読む
『不連続の世界』恩田陸(日:1964-)2008年・幻冬舎2013年・幻冬舎文庫++++「俺たち、立派なミッドライフ・クライシスに突入してるってことだ。「えっ?」「こんなことやってんのも、中年の悪あがきさ。夜行列車で怪談やって、さぬきうどん。人生の後半に差し掛かったことに動揺してるんだ」「そうかな」「そうさ。俺だって、結婚に失敗して、家庭を築くことに失敗した。本人の感覚としてはまだ人生が始まってい . . . 本文を読む
『バースデイ・ストーリーズ』村上春樹 編訳2002年・中央公論新社『誕生日』という横串(テーマ)で、村上春樹が編んだ短編集。翻訳も全て本人で、最後に自身の書下ろしも一編、という構成。15年ぶりに読みとおしたけど、何はなくとも、まー、ラッセル・バンクスの『ムーア人』が良い。良すぎる。若いうちは皆、若い人間のことしか考えない。仮に年上の女性と関係を持ったとして、30年後に80歳になった相手と偶然再会す . . . 本文を読む
『ギュレギュレ!』斉藤洋(日:1952-)絵:樋口たつの2016年・偕成社++++十二月のはじめの日曜日の朝のことです。前の日の夕暮れから雪がふりだし、それが夜どおしふりつづいていたものですから、家々の屋根にも、木の枝にも、道にも、雪がつもっていました。マンションの五階のベランダから見おろすと、日曜日ということもあってか、道路にはあまり車もとおらず、人どおりもほとんどありませんでした。朝といっても . . . 本文を読む
『「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について』高橋源一郎(日:1951-)2012・河出書房新社毎年3月には、3.11関連の本を数冊は読むようにしている。新しく出た本を読むこともあれば、震災直後に出版された書籍を振り返って読むこともある。
あんなに大事な記憶であっても、日常の波は容赦なく押し流していこうとする。もちろん忘却という要素には日々助けられてもいる。人間は忘れる事で生きていける。だ . . . 本文を読む
『旅のスケッチ』トーベ・ヤンソン(芬:1914-2001)著冨原眞弓訳2014年・筑摩書房++++モンパルナス大通りとラスパイユ通りの交叉点は、烈しい戦闘または荒れくるう海の様相を呈している。いくつかの楽隊が演奏の音量をあげた。「連中、完全にネジが外れてるな」とデュバルは人ごみを肘でかきわけながら吐きすてた。「一晩か二晩、日々の重荷から解放されたからって、嬉しさのあまりネジが外れてやがる。こんな馬 . . . 本文を読む
『随想 春夏秋冬』宮城谷 昌光(日:1945- )2015年・新潮社2017年・新潮文庫++++見合いの相手の氏名がようやくわかった。「本多聖枝(きよえ)」と、いう。実家は織布業であるという。かつてその家業は盛大であったが、いまはさほどでもないらしい。大家であっただけに兄弟姉妹は多く、どうやら姉妹は三人で、いちばん上の姉はとうに嫁に行ったようだが、残っている姉妹のうち、その聖枝という人がどちらにな . . . 本文を読む
『のっけめん100』藤井恵/つむぎや2012年6月30日主婦と生活社いやー、それにしても俺は変わりました。昔から帳尻あわせる方ではありましたが。って言うのも、今日、例の健康診断だったんだけど。3つ完全にコレクトして提出しましたから、検便を。あの、毎年出せなかった検便をッ。うーん、大人になったなぁ。すいませんね、なんか爽やかな導入部で・・・。フローラルミント系。++++さて。料理を習う必要がありまし . . . 本文を読む
20年間も夜の銀座を徘徊してきた男が、今さら攻略ガイド要らんやろ。という話も、まあ、あろうかと思いますが・・・。今回は本屋さんでパラパラとページをめくってて、あるページを見たとたんに即買いだった次第で。何故なら。あの子どもの頃、ファミ通とかファミマガに付いてた攻略MAPあったじゃないですか。あのヘラクレスの栄光とかドラクエとかの。当時は画面キャプチャーなんつーもんは無かったから・・・。編集者が自分 . . . 本文を読む
カナダのホワイトホースからドーソンまで、筏(いかだ)とカヌーで下る650kmの旅。アラスカにしか興味のないアナタならお分かりのとおり、ドーソンって言っても、トットナムのセンターバック、マイケル・ドーソンの事ではない。(現在はハル所属)ドーソン・シティの事です。分かってるよね。表紙のフータリンカが素晴らしいなぁ。フータリンカはユーコン川とテスリン川の合流地でもあります。そういえば、2001年に『水曜 . . . 本文を読む