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『プレーンソング』
保坂和志(日・1956-)
1990年・講談社
2000年・中公文庫
++++
「出す」というのは中央競馬会が出すということで、
普通、万馬券というものは出すのではなくて出るという言い方をするのだけれど、
三谷さんは競馬会がレースを仕組んでいるという前提でしか考えていないから、
「万馬券が出る」のではなくて「万馬券を出す」としか言わない。
そして、
「万馬券とりてえ!」
と三谷さんはなかば叫んだ。
「ああ、一発どかんと万馬券とりてえ。
三万円入れよう。
三百万コースだよ。三百万」
と言って少し静かになって、普通の声で、
「じゃあ、ね」
と言って席を立った。
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中学生くらいの頃は、ポール・オースターや、レイモンド・カーヴァーや、村上春樹を読んでさえ、
えっ?
何、お話もう終わり?
結局ナニも起こらなかったじゃないか・・・!プンスカ!
とか思ったりしていた。
まあ、ハリウッド映画とかの影響で、過剰なストーリー展開を求めてたっていうか。
子供だったんだろうな。
今でも無くしてないけどね、あの頃の気持ちは・・・。
って、誰に何をアピールしたくて書いてんのか、自分でも分からないよね。
でも、まあ、さっき挙げたような作家の本は、本書に比べたら、どの小説もそれなりに起こってる。
何かが。
『プレーンソング』。
起きましぇん、ぜんぜん、僕ら。
そう、恋さえしない。
保坂さんは「書く」ということについて、とてもよく考え、しかもよく語る人だ。
例えば本書の登場人物たちの実在のモデルなんかも、全て自著で明かしている。
明かしすぎでは・・・?
まあ、ご自由だが。
だから、要はどれくらい意図的に「何も起こらない」小説を書いたかって事だね。
んー、こんなん誰でも書けるじゃん。
何もないじゃん、俺が何か適当に書いたほうがマシじゃん?
・・・とか読書に思わせたら、それは、この小説の成功を意味しているんだろう。
そゆこと。
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