国際テロ対策で問われる日本の国際貢献 シリーズー1 (不許無断転載・引用)
― インド洋での海上自衛隊の給油・給水活動問題 -
2007年12月4日
12月4日、福田政権の今臨時国会での最大の懸案である「新テロ対策特別措置法案」が参議院での審議が開始される。新法おいては、アフガニスタンにおける国際テロ勢力に対する抑止活動を支援することを目的とし、インド洋において「海上阻止行動」を行なっている米、英、パキスタンなどの艦船に対し、自衛隊により補給活動(給油・給水)を行うことに限定すると共に、1年間の期限を付す一方、活動対象地域を法律に定めることなど、活動内容を明確にすることにより国会の承認、報告は規定していない。
同法案は、10月17日に閣議決定された後、衆議院において採択されたものの、守屋前防衛事務次官の過剰接待、便宜供与問題が予想外の広がりを見せ始めているが、日本ミライズの宮崎代表(山田洋行前専務)の逮捕に続き、守屋前防衛事務次官が逮捕されたことにより、この問題は司直の手に委ねられることになる。しかし、防衛省(庁)の事務方のトップの長年に亘る防衛関連業者との不明朗な関係である上、各種の談合問題等により防衛施設庁が「解体的出直し」を行ったたばかりでの不祥事であるので、防衛省予算の積算、執行両面での信頼性が問われる結果となっているので、参議院での審議でもこの問題は避けて通れないであろう。
同時に、インド洋における自衛隊による給油・給水活動は、「対テロ戦争」を行わざるを得なくなった米国との関係のみでなく、国連始め国際社会が脅威と認識している国際テロ撲滅のための国際貢献の問題であるので、これはこれとして日本の対応を決める必要があろう。しかし、当然のことながら、自衛隊が関与する国際貢献は憲法の範囲内で行われるべきであるので、その点について国民の理解が得られる形で行われることが不可欠だ。
1. 消えない国際貢献か、集団的自衛権の制限的行使かの争点
最大の争点は、これが国際貢献か、日米同盟に立脚する集団的自衛権の制限的な行使かという点だ。
(1)米国の「テロとの戦争」と多国籍の協調行動
2001年の同時多発テロは、米国独立後、本土への外国人勢力による最初の組織的攻撃で
あり、また、その残忍性と死者3千名余の被害の大きさから、米国民に比類の無い衝撃を与えただけでなく、被害者を出した日本を含め、世界を震撼させた。ブッシュ政権は、「テロとの戦争(War on Terror)」を宣言すると共に、国際テロ撲滅のための各国の支持を要請した。英国など多くの同盟諸国は直ちに支持を表明した。こうして進められることになった「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」と呼称されているアフガニスタンなどでのテロ撲滅作戦は、基本的には米国の国防行動として開始されたが、国際テロ撲滅という世界共通の目的から英、仏、独、パキスタンなどの友邦国の参加・支援を求め、これら諸国の艦船で構成される多国籍海軍合同任務部隊(CTF150)が創設されており、国際協調の枠組みを作っている。
期限切れとなったテロ特措法の下での日本の補給・輸送活動は、海上自衛隊の艦船(補給艦、護衛艦)により行われ、2001年12月より08年10月29日までに、艦艇用給油合計で794回、約49万キロリットル(2百数十億円相当)を行っている。米国艦船を中心として、英、仏、独、パキスタンなど11カ国の艦船に補給を実施している。
新法においては、このような補給活動を引き継ぐことになるが、アフガニスタンへの攻撃直後の集中的な攻撃期間は兎も角として、6年近く経過した現在も当時と同レベルの補給活動が必要かなど、補給量・頻度を含め検討する必要があろう。
(2)国連の枠組みの不十分性
国連安全保障理事会は、01年9月12日、9.11テロ攻撃を「国際の平和と安全への脅威」と認め非難し、(1)取締りの強化や資金洗浄の監視などに関する過去の決議を引用しつつ、国際社会は「国際テロの抑止と防止に努力」すると共に、(2)9.11のテロ攻撃などに対応し、安保理の責任に従い「あらゆる措置を取る用意がある」旨の決議(1368号)を異例の速さで採択した。
また、07年9月19日、国連安保理は、アフガニスタン領内で行われている国際治安支援部隊(ISAF)の活動の延長に際し、前文ではあるが、ISAFの活動と共に、「海上阻止行動(maritime interjection component)を含む「不朽の自由作戦(OEF)」への多くの諸国の貢献を評価し」との一文を盛り込んだ決議(1776号)を採択した。
国連安保理は、国際テロに対する脅威認識を明確にし、「国際テロの抑止と防止に努力」を促すと共に、付随的ではあるが、「海上阻止行動」についても参加各国の貢献を評価しており、インド洋での補給活動は、国連の一連の決議に沿う活動と言えよう。
しかし、国連安保理での決議(1368号)は、具体的な措置については、国際社会に取締りの強化や金融洗浄(マネー・ロンダーリング)への防止など、非軍事的な「テロ行為を防止し抑止するための努力」を求めているのみである。同決議は、その他、「あらゆる措置」を検討するとしているが、その他の「措置」については、アフガン領内における国際治安支援部隊(ISAF)の創設のみであり、インド洋の行動については何も決定していない。従って、「不朽の自由作戦(OEF)」の下でのインド洋での活動は、安保理の容認する国際協調活動とは言えるが、米国を中心とする参加各国の国家としての行動であり、「国連の枠組みでの活動」とは言えない。
9月19日に採択された国連安保理決議(1776号)には、日本の働き掛けなどで「各国の海上阻止行動を評価し」との一文が盛り込まれている。しかし、この決議は、あくまでも日本が参加していないアフガン領内で行われている国際治安支援部隊の活動の延長に関する決議であり、インド洋での「海上阻止行動」については前文での評価に止まっている。その上、ロシアはこの決議に「棄権」し、投票理由説明で、インド洋における海上活動は、「国連の枠外で行われている活動」あり、実施国の「国内事情優先」の文言挿入であるとし、また、中国も、賛成投票はしたが、このようなことは繰り返されるべきではないとの苦言を呈するなど、安保理内での「海上阻止行動」への評価は必ずしも一致していない。
もっとも「海上阻止行動」と言っても、安保理により海上封鎖などの措置は取られておらず、公海上等での合同部隊によるいわば任意の「阻止行動」であるので、その実効性等については制約があろう。
他方、アフガン国内で実施されている国際治安支援部隊(ISAF)は、01年12月20日に採択された国連安保理(1386号)に基づき、6ヶ月間の期限で創設され、その後更新されている。主たる任務は、「アフガニスタン(暫定)行政機構がカブール内及びその周辺の治安を維持することを援助し、アフガニスタン(暫定)行政機構及び国連要員が安全な環境の中で活動できるようにすること」とされ、米国を含むNATO諸国、EU諸国他37カ国が参加している。指揮権は、当初、英、トルコなど、6ヶ月毎に参加国間で持ち回られていたが、負担が大きいことから、03年8月より、NATOが全体の指揮を行なっており、小数のその他参加国を加え、合同本部を形成している。日本は、憲法上の制約から、ISAFには自衛隊要員を派遣していない。
従って、インド洋での艦船活動は、国連の枠組みでの行動ではないが、国際テロという国際的な脅威に基づく多国籍の対テロ協調行動であり、日本がISAFを含め、国際テロ撲滅に向けての国際努力に何らの貢献もしないというわけにもいかず、給油、給水などの補給活動程度の国際貢献は実施すべきであろう。
― インド洋での海上自衛隊の給油・給水活動問題 -
2007年12月4日
12月4日、福田政権の今臨時国会での最大の懸案である「新テロ対策特別措置法案」が参議院での審議が開始される。新法おいては、アフガニスタンにおける国際テロ勢力に対する抑止活動を支援することを目的とし、インド洋において「海上阻止行動」を行なっている米、英、パキスタンなどの艦船に対し、自衛隊により補給活動(給油・給水)を行うことに限定すると共に、1年間の期限を付す一方、活動対象地域を法律に定めることなど、活動内容を明確にすることにより国会の承認、報告は規定していない。
同法案は、10月17日に閣議決定された後、衆議院において採択されたものの、守屋前防衛事務次官の過剰接待、便宜供与問題が予想外の広がりを見せ始めているが、日本ミライズの宮崎代表(山田洋行前専務)の逮捕に続き、守屋前防衛事務次官が逮捕されたことにより、この問題は司直の手に委ねられることになる。しかし、防衛省(庁)の事務方のトップの長年に亘る防衛関連業者との不明朗な関係である上、各種の談合問題等により防衛施設庁が「解体的出直し」を行ったたばかりでの不祥事であるので、防衛省予算の積算、執行両面での信頼性が問われる結果となっているので、参議院での審議でもこの問題は避けて通れないであろう。
同時に、インド洋における自衛隊による給油・給水活動は、「対テロ戦争」を行わざるを得なくなった米国との関係のみでなく、国連始め国際社会が脅威と認識している国際テロ撲滅のための国際貢献の問題であるので、これはこれとして日本の対応を決める必要があろう。しかし、当然のことながら、自衛隊が関与する国際貢献は憲法の範囲内で行われるべきであるので、その点について国民の理解が得られる形で行われることが不可欠だ。
1. 消えない国際貢献か、集団的自衛権の制限的行使かの争点
最大の争点は、これが国際貢献か、日米同盟に立脚する集団的自衛権の制限的な行使かという点だ。
(1)米国の「テロとの戦争」と多国籍の協調行動
2001年の同時多発テロは、米国独立後、本土への外国人勢力による最初の組織的攻撃で
あり、また、その残忍性と死者3千名余の被害の大きさから、米国民に比類の無い衝撃を与えただけでなく、被害者を出した日本を含め、世界を震撼させた。ブッシュ政権は、「テロとの戦争(War on Terror)」を宣言すると共に、国際テロ撲滅のための各国の支持を要請した。英国など多くの同盟諸国は直ちに支持を表明した。こうして進められることになった「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」と呼称されているアフガニスタンなどでのテロ撲滅作戦は、基本的には米国の国防行動として開始されたが、国際テロ撲滅という世界共通の目的から英、仏、独、パキスタンなどの友邦国の参加・支援を求め、これら諸国の艦船で構成される多国籍海軍合同任務部隊(CTF150)が創設されており、国際協調の枠組みを作っている。
期限切れとなったテロ特措法の下での日本の補給・輸送活動は、海上自衛隊の艦船(補給艦、護衛艦)により行われ、2001年12月より08年10月29日までに、艦艇用給油合計で794回、約49万キロリットル(2百数十億円相当)を行っている。米国艦船を中心として、英、仏、独、パキスタンなど11カ国の艦船に補給を実施している。
新法においては、このような補給活動を引き継ぐことになるが、アフガニスタンへの攻撃直後の集中的な攻撃期間は兎も角として、6年近く経過した現在も当時と同レベルの補給活動が必要かなど、補給量・頻度を含め検討する必要があろう。
(2)国連の枠組みの不十分性
国連安全保障理事会は、01年9月12日、9.11テロ攻撃を「国際の平和と安全への脅威」と認め非難し、(1)取締りの強化や資金洗浄の監視などに関する過去の決議を引用しつつ、国際社会は「国際テロの抑止と防止に努力」すると共に、(2)9.11のテロ攻撃などに対応し、安保理の責任に従い「あらゆる措置を取る用意がある」旨の決議(1368号)を異例の速さで採択した。
また、07年9月19日、国連安保理は、アフガニスタン領内で行われている国際治安支援部隊(ISAF)の活動の延長に際し、前文ではあるが、ISAFの活動と共に、「海上阻止行動(maritime interjection component)を含む「不朽の自由作戦(OEF)」への多くの諸国の貢献を評価し」との一文を盛り込んだ決議(1776号)を採択した。
国連安保理は、国際テロに対する脅威認識を明確にし、「国際テロの抑止と防止に努力」を促すと共に、付随的ではあるが、「海上阻止行動」についても参加各国の貢献を評価しており、インド洋での補給活動は、国連の一連の決議に沿う活動と言えよう。
しかし、国連安保理での決議(1368号)は、具体的な措置については、国際社会に取締りの強化や金融洗浄(マネー・ロンダーリング)への防止など、非軍事的な「テロ行為を防止し抑止するための努力」を求めているのみである。同決議は、その他、「あらゆる措置」を検討するとしているが、その他の「措置」については、アフガン領内における国際治安支援部隊(ISAF)の創設のみであり、インド洋の行動については何も決定していない。従って、「不朽の自由作戦(OEF)」の下でのインド洋での活動は、安保理の容認する国際協調活動とは言えるが、米国を中心とする参加各国の国家としての行動であり、「国連の枠組みでの活動」とは言えない。
9月19日に採択された国連安保理決議(1776号)には、日本の働き掛けなどで「各国の海上阻止行動を評価し」との一文が盛り込まれている。しかし、この決議は、あくまでも日本が参加していないアフガン領内で行われている国際治安支援部隊の活動の延長に関する決議であり、インド洋での「海上阻止行動」については前文での評価に止まっている。その上、ロシアはこの決議に「棄権」し、投票理由説明で、インド洋における海上活動は、「国連の枠外で行われている活動」あり、実施国の「国内事情優先」の文言挿入であるとし、また、中国も、賛成投票はしたが、このようなことは繰り返されるべきではないとの苦言を呈するなど、安保理内での「海上阻止行動」への評価は必ずしも一致していない。
もっとも「海上阻止行動」と言っても、安保理により海上封鎖などの措置は取られておらず、公海上等での合同部隊によるいわば任意の「阻止行動」であるので、その実効性等については制約があろう。
他方、アフガン国内で実施されている国際治安支援部隊(ISAF)は、01年12月20日に採択された国連安保理(1386号)に基づき、6ヶ月間の期限で創設され、その後更新されている。主たる任務は、「アフガニスタン(暫定)行政機構がカブール内及びその周辺の治安を維持することを援助し、アフガニスタン(暫定)行政機構及び国連要員が安全な環境の中で活動できるようにすること」とされ、米国を含むNATO諸国、EU諸国他37カ国が参加している。指揮権は、当初、英、トルコなど、6ヶ月毎に参加国間で持ち回られていたが、負担が大きいことから、03年8月より、NATOが全体の指揮を行なっており、小数のその他参加国を加え、合同本部を形成している。日本は、憲法上の制約から、ISAFには自衛隊要員を派遣していない。
従って、インド洋での艦船活動は、国連の枠組みでの行動ではないが、国際テロという国際的な脅威に基づく多国籍の対テロ協調行動であり、日本がISAFを含め、国際テロ撲滅に向けての国際努力に何らの貢献もしないというわけにもいかず、給油、給水などの補給活動程度の国際貢献は実施すべきであろう。