内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

国際テロ対策で問われる日本の国際貢献 -シリーズ2

2007-12-07 | Weblog
国際テロ対策で問われる日本の国際貢献 -シリーズ2  (不許無断転載・引用)
2、不十分な情報開示と説明責任
インド洋において海上阻止行動を実施している多国籍海軍合同任務部隊(CTF150)の担当海域は、インド洋のみならず、アデン・オマーン湾岸、アラビア海、紅海に及ぶものである。多国籍海軍の指揮は、これまで仏、蘭、独、及びパキスタンが取っている。この多国籍海軍合同任務部隊の中核となっている米国の艦船は、基本的には第5艦隊(5th Fleet)/米海軍中央司令部に属し、インド洋から、アラビア海、湾岸、紅海、東アフリカまでをカバーし、アフガニスタンのテロ撲滅を目的とする「不朽の自由作戦(OEF)」と共に、 イラク侵攻に伴う「イラクの自由作戦(OIF)」の遂行を中核的な任務としている。なお、「不朽の自由作戦(OEF)」自体も、「テロとの戦争」の一環として、アフガニスタンだけではなく、フィリピン、アフリカの角(ソマリア半島)、サハラ地域などでも展開されている。
 従って、米国の第5艦隊にせよ、多国籍合同任務部隊(CTF150)を構成する各国艦船にせよ、これらの艦船が給油を受ければ、インド洋海域のみならず、イラク沿岸の湾岸、アラビア海域に任務として行くことは十分考えられる。米国防総省当局は、「日本の補給艦から給油を受けている参加国は、アフガニスタンでの不朽の自由作戦(OEF)を支援するために燃料を使うとの合意の下に活動している」と述べ、イラクへの転用説を否定した旨報道されている。しかし、航行は連続するものであり、日本からの給油をインド洋のみですべて使い果たすとも考え難く、現実問題としては微妙だ。第5艦隊の司令部は、ペルシャ湾のバハレーンにある。
余り細かい制約を課すと任務遂行に支障を来たし兼ねないので、ある程度の柔軟性を持たせるとしても、給油を受けた後、どのような任務を行ったかなどは、政府、防衛当局としては掌握して置くべきであり、また、作戦遂行に支障の無い範囲で公表されるべきであろう。そうでなければ、国民も効果を評価しようがない。
また、第5艦隊の任務海域に、原子力空母エンタープライズなどの空母艦隊が加わり、艦載機によりアフガニスタン山麓等への爆撃などを実施し、「不朽の自由作戦」他に加わっている。海上自衛隊によるインド洋における米国艦船等に対する給油、補給活動は、原子力空母エンタープライズからのアフガン攻撃には直接関係はないが、米国艦船と共に国旗を掲げて行動し、「不朽の自由作戦」の下で米国等の多国籍合同任務部隊(CTF150)を支援するものであるので、「海上阻止行動」とは言え、長期化すると日本の支援活動が、米国空母よりのアフガン攻撃を含め、米国が遂行する「不朽の自由作戦」と一体化して映ることは避けられない。「海上阻止行動」は、米国空母のこの海域での円滑な行動を確保するための活動でもあろう。政府としては、国民に対し、このような危険を伴う活動であることを十分説明した上で、国際的な脅威になっている国際テロの撲滅のための国際貢献の継続への理解を求めることが大切であろう。軍事情報の機密性は理解できるが、二百数十億円と出動・運搬に要する予算が使用されている以上、軍事活動に支障の無い範囲で、活動の概要や効果が国民に知らされるべきであろう。
民主党が、給油活動は、国連の枠組みでの活動ではなく、米国との「集団的自衛権の行使」であるとしている。しかし、実体は、国連も国際的な脅威として認めている国際テロの撲滅のための「多国間の枠組み」の下での支援であり、武力の行使や威嚇を伴わない支援である。だが、国連安保理が「海上阻止行動」に対し何らの「措置」や枠組みを講じることなく、このような米国の対外的軍事・国防活動への日本の「支援・貢献」が恒久化・半恒久化することになれば、後方支援という制限的なものではあるが、「集団的自衛権の行使」との線引きが難しくなるであろう。
与党系、保守系識者の中にも、インド洋での自衛隊の給油活動が日本のタンカーの海路の安全を確保しているなどとして、国益としている。それを否定はしない。しかし、日本の貢献は、200~300億円の小額であり、米国内でも「政治的意義」しかなく、実質的な貢献からは不十分とする見方もある。確かに、ブッシュ政権は、2008会計年度(07年10月~08年9月)のイラク、アフガニスタンでの軍事費として423億ドル(約4兆8千億円)を議会に追加提案しており、200~300億円強程度の日本の給油支援は、軍事的には極く小さな額でしかない。また、インド洋での米国艦船等の活動は、タンカーの安全確保などは副次的な効果でしかなく、「テロとの戦争」の一環としての軍事行動であり、これを曖昧にしてはならない。
いづれにしても、国民の税金を使うだけではなく、一定の危険を強いる国家の行為であるので、適切且つ速やかな情報公開と国民への実態の説明が不可欠である。「軍事機密」を理由として適正な情報開示が行なわれなくなると、文民統制(シビリアン・コントロール)が実質的に困難となり、思わぬ方向に向かう恐れがある。少なくても、国会においては、外務委や防衛委などにおいて与野党双方が適切な判断が出来るよう、防衛当局より正確な情報が提供されるべきであろう。軍事機密や国家安全保障上の秘密事項に属するものについては、必要に応じて秘密会としてでも説明されるべきであろう。それがあって初めて防衛活動の文民統制(シビリアン・コントロール)が確立出来る。シビリアン・コントロールとは、背広組(防衛省事務系統)が制服組(自衛官)をコントロールするという狭い概念ではない。戦前は、国民は「国家」のためにあり、国家の安全等に関しては「知らさず、知らしめず」ということが許されたのであろうが、民主主義の下では、「国家」は国民のためにあるべきであり、行政各部は国会はもとより、国民に対し情報を開示し、正しく説明する義務がある。現在、公的年金の納付記録漏れ、年金横領問題や薬害C型肝炎被害者放置問題等が表面化しているが、適正な情報開示の不備・欠陥がその一因と言えよう。防衛、軍事の分野は、国民の安全に直接関係するだけに、情報のブラックアウトはより深刻な結果をもたらす恐れがある。
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