“ジャパン・パッシング”(日本素通り)
ー豪州ラッド首相の米国、欧州、中国訪問ー
3月27日、豪州のラッド首相(労働党)は、07年11月に総選挙で勝利し、首相の座について初めての本格的な外国訪問の途についた。同盟国である米国、そしてEU本部とNATO本部のあるベルギー、英連邦の一員であった関係から英国を歴訪後、中国を訪問する。
今回日本は入っていない。双方の日程が合わないということは良くあることであり、それほど気にする必要はないのかもしれない。ラッド首相は、外交官として中国語もこなせる中国通としても知られており、同首相が中国を訪問するのは自然の流れとも言えよう。 ワシントンを訪問の後、29日、国連本部を訪問した際、ラッド首相は記者団の質問に対し「歴訪先に日本が含まれていないのは日程調整上の都合にすぎない」と述べ、日本を軽視しているわけではないと説明したと伝えられている。「前任者(ハワード前首相)も日本を訪れずに中国を訪ねたことがあった」そうだが、「ハ」前首相は1996年から11年間も首相を務めたのでそういうこともあったであろう。
ところが中国には4月9-12日の4日間も滞在すると公表されており、同国では、野党となった自由党が何故短時間でも訪日出来ないのかなどと批判している。日本の調査捕鯨船がオーストラリアを拠点としている親鯨の環境団体シー・シェパードに妨害活動をされた件で日豪関係がギクシャクしていることが、今回訪日を避けた理由ではないかと報じられている。
豪首相府の公式発表でも(3月4日)、「米国、欧州、そして中国訪問」との見出しとなっており、日本素通り(ジャパン・パッシング)は目立つ。何故は1日でもよいから日本に立ち寄ってむらえなかったのだろうか。今年は先進主要国首脳会議(G-8サミット)が日本で開催される特別な年でもある。外交上ジャパン・パッシングと言われても仕方がなさそうだ。
欧州連合(EU)諸国間はもとよりのこと、欧米間などではもっと頻繁に首脳間や外相間の交流が行われている。国境を接する国がない日本としては、もっと頻繁に豪州を含む近隣諸国から首脳、外相レベルの賓客を受け入れ、日本からも訪問するなど各国要路との交流がなされることが望ましい。制約要因は、国会の会期が約5ヶ月間の通常国会と合計3~4ヶ月間の臨時国会に加え、予算の制約といわば「構える」傾向が強く、形式的、儀礼的な手続きが煩雑なことであろう。外交面でも簡素化や気さくさと一層の国際性が必要になって来ているのであろう。
豪州側にも悩ましい問題がある。チベット問題だ。
3月14日、中国のチベット自治区の州都ラサでチベット仏教僧等による抗議行動が公安当局との衝突から大規模な暴動に発展し、一般市民を含む多数の死傷者を出した。抗議行動は、ダライ・ラマ14世が政治亡命している北インドのダラムサラでも同時期に発生しているが、自治・独立を求め、少数民族を弾圧している中国でのオリンピックの開催に反対を訴えている。チベット人としては、北京オリンピックの開催を目前にして、国際世論の注目を引きたいとの狙いがある。
中国政府としては、この暴動はダライ・ラマ側が計画的に引き起こしたもので、治安回復のため「人民戦争」を戦い抜くとの強い姿勢を示すと共に、チベット側が領土の分離を求めず、中国領であることを認めるならばダライ・ラマとの会談にも応じるとの従来の姿勢を表明している。これに対し、欧州連合(EU)諸国のうち、ポーランド、チェコ、エストニアが政府首脳のオリンピック開会式への不参加を表明している。ドイツも同様の意向である。3月28、29の両日、スロベニアで開催されたEU外相理事会においては、オリンピック自体はボイコットしないことで一致し、開会式への各国首脳の対応についても「統一見解」は出されていない。しかし、「中国政府とチベットとの対話」を訴えており、関心の強さを表している。
また国際的な人権団体はもとよりのことであるが、国際ジャーナリスト組織の一つ「国境なき記者団」(RSF、本部はパリ)が北京オリンピックの開会式ボイコットを各国首脳に要請しているなど、チベット問題は国際的に大きな問題になっている。
その中でのラッド豪首相の訪中であり、中国首脳との会談でこの問題を取り上げるとしているものの、4日間の余裕のある訪中であるので悩ましいところである。鯨問題で日本をパッシングして、チベットの人権問題、民族問題があっても訪中することとなる。
この点では日本も同様の問題を抱えている。4月17日から楊中国外交部長の訪日が予定されており、5月6日より胡錦濤国家主席を国賓として訪日招待している。この機会に日中友好ムードを高め、外交で政権の浮揚力を高めたいところであろう。チベット問題がある中での「国賓招待」となるとなかなか悩ましい。それでなくても中国製餃子のメタミドホス混入、中毒事件で、訪日時期が「春の花の咲く頃」が5月にずれ込んだ経緯がある。その餃子の中毒事件も、中国側は事実上捜査を終結しており、いわばケース・クローズドの状況と見られ、この問題でも日・中間に見解の差がある。東シナ海油田の共同開発問題で望ましい進展が見られればそれなりの成果となるが、この時期の胡国家主席の訪日招待への対応如何では、国際社会から日本の姿勢が問われるか、逆に中国側から反発を買う恐れもある。 (Copy Right Reserved.)
ー豪州ラッド首相の米国、欧州、中国訪問ー
3月27日、豪州のラッド首相(労働党)は、07年11月に総選挙で勝利し、首相の座について初めての本格的な外国訪問の途についた。同盟国である米国、そしてEU本部とNATO本部のあるベルギー、英連邦の一員であった関係から英国を歴訪後、中国を訪問する。
今回日本は入っていない。双方の日程が合わないということは良くあることであり、それほど気にする必要はないのかもしれない。ラッド首相は、外交官として中国語もこなせる中国通としても知られており、同首相が中国を訪問するのは自然の流れとも言えよう。 ワシントンを訪問の後、29日、国連本部を訪問した際、ラッド首相は記者団の質問に対し「歴訪先に日本が含まれていないのは日程調整上の都合にすぎない」と述べ、日本を軽視しているわけではないと説明したと伝えられている。「前任者(ハワード前首相)も日本を訪れずに中国を訪ねたことがあった」そうだが、「ハ」前首相は1996年から11年間も首相を務めたのでそういうこともあったであろう。
ところが中国には4月9-12日の4日間も滞在すると公表されており、同国では、野党となった自由党が何故短時間でも訪日出来ないのかなどと批判している。日本の調査捕鯨船がオーストラリアを拠点としている親鯨の環境団体シー・シェパードに妨害活動をされた件で日豪関係がギクシャクしていることが、今回訪日を避けた理由ではないかと報じられている。
豪首相府の公式発表でも(3月4日)、「米国、欧州、そして中国訪問」との見出しとなっており、日本素通り(ジャパン・パッシング)は目立つ。何故は1日でもよいから日本に立ち寄ってむらえなかったのだろうか。今年は先進主要国首脳会議(G-8サミット)が日本で開催される特別な年でもある。外交上ジャパン・パッシングと言われても仕方がなさそうだ。
欧州連合(EU)諸国間はもとよりのこと、欧米間などではもっと頻繁に首脳間や外相間の交流が行われている。国境を接する国がない日本としては、もっと頻繁に豪州を含む近隣諸国から首脳、外相レベルの賓客を受け入れ、日本からも訪問するなど各国要路との交流がなされることが望ましい。制約要因は、国会の会期が約5ヶ月間の通常国会と合計3~4ヶ月間の臨時国会に加え、予算の制約といわば「構える」傾向が強く、形式的、儀礼的な手続きが煩雑なことであろう。外交面でも簡素化や気さくさと一層の国際性が必要になって来ているのであろう。
豪州側にも悩ましい問題がある。チベット問題だ。
3月14日、中国のチベット自治区の州都ラサでチベット仏教僧等による抗議行動が公安当局との衝突から大規模な暴動に発展し、一般市民を含む多数の死傷者を出した。抗議行動は、ダライ・ラマ14世が政治亡命している北インドのダラムサラでも同時期に発生しているが、自治・独立を求め、少数民族を弾圧している中国でのオリンピックの開催に反対を訴えている。チベット人としては、北京オリンピックの開催を目前にして、国際世論の注目を引きたいとの狙いがある。
中国政府としては、この暴動はダライ・ラマ側が計画的に引き起こしたもので、治安回復のため「人民戦争」を戦い抜くとの強い姿勢を示すと共に、チベット側が領土の分離を求めず、中国領であることを認めるならばダライ・ラマとの会談にも応じるとの従来の姿勢を表明している。これに対し、欧州連合(EU)諸国のうち、ポーランド、チェコ、エストニアが政府首脳のオリンピック開会式への不参加を表明している。ドイツも同様の意向である。3月28、29の両日、スロベニアで開催されたEU外相理事会においては、オリンピック自体はボイコットしないことで一致し、開会式への各国首脳の対応についても「統一見解」は出されていない。しかし、「中国政府とチベットとの対話」を訴えており、関心の強さを表している。
また国際的な人権団体はもとよりのことであるが、国際ジャーナリスト組織の一つ「国境なき記者団」(RSF、本部はパリ)が北京オリンピックの開会式ボイコットを各国首脳に要請しているなど、チベット問題は国際的に大きな問題になっている。
その中でのラッド豪首相の訪中であり、中国首脳との会談でこの問題を取り上げるとしているものの、4日間の余裕のある訪中であるので悩ましいところである。鯨問題で日本をパッシングして、チベットの人権問題、民族問題があっても訪中することとなる。
この点では日本も同様の問題を抱えている。4月17日から楊中国外交部長の訪日が予定されており、5月6日より胡錦濤国家主席を国賓として訪日招待している。この機会に日中友好ムードを高め、外交で政権の浮揚力を高めたいところであろう。チベット問題がある中での「国賓招待」となるとなかなか悩ましい。それでなくても中国製餃子のメタミドホス混入、中毒事件で、訪日時期が「春の花の咲く頃」が5月にずれ込んだ経緯がある。その餃子の中毒事件も、中国側は事実上捜査を終結しており、いわばケース・クローズドの状況と見られ、この問題でも日・中間に見解の差がある。東シナ海油田の共同開発問題で望ましい進展が見られればそれなりの成果となるが、この時期の胡国家主席の訪日招待への対応如何では、国際社会から日本の姿勢が問われるか、逆に中国側から反発を買う恐れもある。 (Copy Right Reserved.)