シャーマンの呼吸

自然と人を繋ぐ

シャーマンの弟子

『オキシトシン』 第一話

2024-05-04 03:21:00 | オキシトシン

 

 

『オキシトシン』

 

 

 

 

 

じんわり、膨らんでいく温もり。

わたしの体温と、隣の体温が、空気を温めつつ混ざり合っていく。

 

まだ嗅ぎ慣れない匂いだ。

これから当たり前になっていく匂いなのだ、と……少し未来を想像して、うっかり口元が乱れた。

 

 

 

彼は、軟派なチャラ男だ。

八方美人で(優しくて)、おしゃべりで(明るいムードメーカーで)、ゆるゆるのマイペースで(少し冷めていて慎重で)、……わたしは密かに、「すごい生粋の天秤座だな」と頷いている。

 

そして、「あなたのことをもっと知りたい」と思っている。

 


 

 

オレンジ色の豆電球。

 

じんわり。

あたたかく膨らんだ空気に包まれた。

意外と静かな空間。

 

彼の呼吸が伝染してきて、楽になる。

 

そのまま、隣で、ただ眠る。

 

 


 

 

青白いLEDライトの下。

 

わたしの日課は、足のマッサージ。

じっと見ていた彼が、わたしの足に触れてくる。

 

まるで、絹ごし豆腐を触るように。

慎重な手つき。

まるで、宝物に笑いかけるように。

光を宿した手つき。

 

ハッとするほど、愛を感じる。

絶妙な圧。

 

「やーらかいな。」

「……そう?」

 

ずっと触っていてほしい。

もしそう言えば、あなたは呆れるだろうか。

それとも、もしかして照れたりするんだろうか。

 

「あったけぇな。」

 

永遠のような心地に浸る。

わたしは何も言わなかった。

 

嬉しいけれど、寂しくもあったから。

 

自分だけじゃ、こうも自分に愛おしさを抱けない……と思ってしまったから。

 

あなたがいないとダメだと思ったから。

 

 

 

 

 

暗闇。

 

じんわり。

あたたかく膨らんだ温度。

 

トン

 

肩と肩が触れ合った。

ふたまわりも大きな手が、わたしの腫れ上がった胸をそっと抑える。その思いやりに甘えて、ヒリヒリする赤い心を、初めて差し出した。

 

「もう何も考えないで。」

 

鼓膜を震わす低い声。

 

「俺だけを見てて。」

 

わたしにだけ少し特別に優しいあなた。

 

あなたの一途な火に、溶かされてしまう。

わたしの、凍えた自律心。

 

 


 

 

 

五感で、ありありと、イメージする。

まるで、本当に、そこに居るかのように。

 

イマジナリー彼氏。

 

 

ーー続く

 



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