『オキシトシン』
じんわり、膨らんでいく温もり。
わたしの体温と、隣の体温が、空気を温めつつ混ざり合っていく。
まだ嗅ぎ慣れない匂いだ。
これから当たり前になっていく匂いなのだ、と……少し未来を想像して、うっかり口元が乱れた。
*
彼は、軟派なチャラ男だ。
八方美人で(優しくて)、おしゃべりで(明るいムードメーカーで)、ゆるゆるのマイペースで(少し冷めていて慎重で)、……わたしは密かに、「すごい生粋の天秤座だな」と頷いている。
そして、「あなたのことをもっと知りたい」と思っている。
*
オレンジ色の豆電球。
じんわり。
あたたかく膨らんだ空気に包まれた。
意外と静かな空間。
彼の呼吸が伝染してきて、楽になる。
そのまま、隣で、ただ眠る。
*
青白いLEDライトの下。
わたしの日課は、足のマッサージ。
じっと見ていた彼が、わたしの足に触れてくる。
まるで、絹ごし豆腐を触るように。
慎重な手つき。
まるで、宝物に笑いかけるように。
光を宿した手つき。
ハッとするほど、愛を感じる。
絶妙な圧。
「やーらかいな。」
「……そう?」
ずっと触っていてほしい。
もしそう言えば、あなたは呆れるだろうか。
それとも、もしかして照れたりするんだろうか。
「あったけぇな。」
永遠のような心地に浸る。
わたしは何も言わなかった。
嬉しいけれど、寂しくもあったから。
自分だけじゃ、こうも自分に愛おしさを抱けない……と思ってしまったから。
あなたがいないとダメだと思ったから。
*
暗闇。
じんわり。
あたたかく膨らんだ温度。
トン
肩と肩が触れ合った。
ふたまわりも大きな手が、わたしの腫れ上がった胸をそっと抑える。その思いやりに甘えて、ヒリヒリする赤い心を、初めて差し出した。
「もう何も考えないで。」
鼓膜を震わす低い声。
「俺だけを見てて。」
わたしにだけ少し特別に優しいあなた。
あなたの一途な火に、溶かされてしまう。
わたしの、凍えた自律心。
*
五感で、ありありと、イメージする。
まるで、本当に、そこに居るかのように。
イマジナリー彼氏。
ーー続く