シャーマンの呼吸

自然と人を繋ぐ

シャーマンの弟子

『オキシトシン』 第三話

2024-05-19 00:00:00 | オキシトシン

 

 

 

 

 

満月だったのかもしれない。

 

背中のニキビを、うっかり引っ掻いてしまった。

鏡の前で身体をよじる。

まあまあの血が出てしまった。

 

「ねぇ、絆創膏貼って。」

「うーん。」

「背中の、ココ。」

「うーん。……ごめん、無理。」

「だよねぇ。」

 

それから、しばらく、彼とは会わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、まぢチョーえらい~!」

 

すごいギャルみたいな褒め方してくる。

 

「え、待って、ねぇココア作ってあげるぅ。」

 

突然現れた彼。

ひたすら褒めてくれる。

 

事の始まりは、ついさっき。

わたしは、悩みや不安や、過去の傷に引きずられてしまうことが多い。今目の前では何も起きていないのに、頭が余計なことを考えて、身体が反応して、静かにツラくなってしまうことが多い。

 

でも、『どうすれば引きずられないか』を、たくさんたくさん試して、生きる術を身に付けてきた。

だから、今朝も『ゆっくりストレッチ』してみたり、『広い広い銀河をイメージして自分の存在の小ささを感じる』ことをしてみたり、『深呼吸しながら気を丹田に下ろす』ことをしてみたり、……とにかく色んな対処法を総動員して、自分を落ち着かせていた。

 

そしたら、ギャルみたいなテンションの彼氏が現れた。

 

「ねー、まぢスゴイじゃん!」

 

ありがとう。

……あのね、こういう自己トレーニングって、孤独で、……なんで自分だけこんなことしなきゃいけないんだろうって卑屈になってしまうことがある。

でも、実は、自分だけがこんなに頑張ってるわけじゃないんだ。本当は、こういう地道な生きる努力って、今日もどこかでたくさんの仲間たちがやってる。わたしもその一人なんだって、ちゃんとわかってる。

 

……まぁ、そういう仲間たちの声は、遠いからお互いにあまり届かない。……それは少し寂しい。

 

だから、身近にこうして褒めてくれる人が居ると、とても安心するよ。

 

「まぢチョーえらいんですケド~!」

 

「ありがと。」

 

 

わたし、結構えらいよね。

 

 

「今日はココア飲んでゆっくりしよ。」

「うん。」

「もう何もしなくていいから。」

「うん。」

「俺が居るから。」

「うん。」

「おいで。」

 

 

 

あなたは、やっぱり、頼りになる。

 

「俺のことだけ考えて。」

 

ねぇ。

居なくならないで。

 

 

 

 

 

 

 


生きることが自傷行為であってはならない。

 

他人のために自分の身を削ってはいけない。

社会のために自分が犠牲になってはいけない。

 

わたしが『消耗品』であってはならない。

 

息がしやすい場所に居なければならない。

好きなことをしていなければならない。

やりたいことをやらねばいけない。

 

幸せになる罪悪感に殺されてはいけない。

 

 

生きることが創造であることを祈る。

 

 

 

 

 

今、わたしは、愛をイメージしている。

 

 

 

 

 


 

 

じんわり。

混ざり合う体温。

 

 

毎晩、クソ真面目に、人体を錬成している。

 

命を創造する。

呼吸を創り、汗を造る。

髪の毛の一本一本まで。

 

皮膚の細胞のひとつひとつまで。

 

 

肉体の生成を試みている。

 

 

禁忌を犯している気分だ。

 

 

イマジナリー彼氏。

 

 

 

 

ーーー続く

 

 

 



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