今は七十二候の「雀(すずめ)始めて巣くう」。春の気配はいよいよ濃く、雀が枯れ草などを集めて巣をつくり始める季節だ▼巣作りの名人がそろう鳥の世界でも、豪州など南西太平洋にすむ、ある種のツカツクリは別格だ。何しろ、彼らの巣は大きいものなら直径七メートル、高さが二メートルという大邸宅なのだ▼雄は、何トンもの落ち葉を脚でかき集めて巣を築き上げ、雌を誘う。雌はそこに卵を産むのだが、卵を抱いて温めることはしない。落ち葉が発酵して出る熱で孵化(ふか)させる。雄は卵がちょうどいい温度になるよう、落ち葉を積み上げたり、かき落としたりして調整するというから、発酵を的確に見極める酒造り名人のようでもある▼驚きの技だが、実はこの発酵の技を巧みに使い北極圏でも抱卵することなしに、卵を孵化させていた大先輩がいたという。ハドロサウルス類という恐竜だ▼恐竜がどうやって卵を温めてきたかを解き明かした名古屋大学の古生物学者・田中康平さん(32)らによると、恐竜は太陽熱や地熱を利用したり、発酵熱を使ったり、自ら温めたりと、工夫を凝らして繁殖していたという▼現在、鳥類は一万種近くいるが、彼らは卵を抱いて温めていた恐竜たちから進化したとされる。だが、ツカツクリの仲間だけは、鳥類がご先祖さまからは引き継がなかったはずの発酵の技を使う。何とも不思議な進化の物語ではないか。
ツカつくり