もう二年ほど前のことだが、新聞の短歌投稿欄に、こんな歌が載っていた。<わが脳に錆(さ)びつきやすき鉄路あり日に一本の電車走らす>成田信行▼わが脳の鉄路の錆びつきもかなりのもので、記憶の電車が日々、ぎしぎしと鈍行運転をしている。先日など、「認知症」という言葉がどうしても思い出せずに往生した。こうなると、自分で自分の物忘れの激しさを笑うしかない▼だから、こういうニュースは大歓迎だ。ノーベル医学生理学賞受賞者の利根川進さんらが、初期のアルツハイマー病の状態にしたマウスの脳細胞に青い光を当てて刺激することで、失われた記憶を取り戻すことに成功したという▼この成功が、すぐに人間の治療に結び付くわけではないそうだが、認知症など記憶障害で苦しむ人々や家族の方々にとっては、それこそ暗中に一筋の光を見る思いがする画期的な研究成果だろう▼今回の実験で使われたマウスの脳細胞は、青い光に反応するよう遺伝子が操作されているというから、単純に光の力で記憶がよみがえるということではない▼そうとは知りつつ、夢想する。春の連休、青空の下で寝転び、陽光をたっぷり浴びれば、わが脳の錆びついた鉄路も、少しは光沢を取り戻すのではないか。ぽかぽか陽気にうとうととなり、光の力でいやな記憶がとろとろと溶け出すことになれば、それはそれで、いい休日だ。
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