勝五郎はいきのよい魚を売ると評判の魚屋さん。ところが、一杯の昼酒から酒に取りつかれてしまい、ついには商いにも行かなくなる。落語の「芝浜」。年の瀬になると聞きたくなる▼芝浜で財布を拾い、これで遊んでくらせると酒を飲み続ける勝五郎をおかみさんがだます。財布なんかありゃしない。夢でも見たんだよ。亭主を立ち直らせるための懸命なウソ。勝五郎の方もこんな夢を見るようになってはおしまいだとすっぱり酒を断ち、商売に再び、身を入れる▼その事故のせいでわが国はあれほど苦しんだのに勝五郎ほどすっぱりとその味を忘れることができないらしい。原発である。政府は従来の政策を改め、原発の開発・建設を推進する方針を決めた。既存原発の六十年を超えての運転も認める▼脱炭素化、エネルギーの安定供給のため。大切な課題とはいえ、原発の新増設を「想定しない」とした「誓い」をあっさりと捨て、ひとたび事故が起これば取り返しのつかぬ原発に再び、手を伸ばす▼のど元過ぎれば…か。事故から十一年が経過した今も避難生活を続ける人がいる。それを思えば原発事故はのど元さえ過ぎていないというのに▼あの落語では大みそかの夜、立ち直った勝五郎におかみさんが酒を勧める。が、飲まない。「また夢になるといけねえ」。原発推進という「酒」をあおった後の悪い夢が心配でならぬ。
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