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今日の筆洗

2018年03月25日 | Weblog

 同じ屋敷にいた二頭の犬が友情について論じ合った。一頭がこう主張した。「互いに愛情をもって暮らすことより楽しいことがあるだろうか。いつも友の幸せを自分の幸せと考える」。その言葉に別の犬は感動し、全面的に賛同した。二頭の犬はひしと抱き合った▼その時、料理人が台所から犬たちに一本の骨を投げた。友人同士の犬は先を争って骨に突進し、取っ組み合いのけんかを始めた。ロシアに伝わる「犬の友情」という小咄(こばなし)である▼外交や政治の世界では友情が成立しにくいことはよく承知していたが、トランプ大統領の判断を見る限り、安倍首相との間の個人的信頼関係とやらは、残念ながら、二頭の犬のうわべだけの友情だったらしい。米国が発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置である▼日本政府の願いもむなしく対象から除外されなかった。日本の鉄鋼には25%、アルミには10%の関税が上乗せされる。カナダ、メキシコ、EU、韓国などの七カ国・地域は対象になることを免れている▼米国内の鉄鋼産業が衰退すれば、安全保障が脅かされるというのが今回の輸入制限の理由だったが、輸出量もさほど上位ではなく、仲がいいはずの首相がいる、同盟国・日本がかみつかれた▼「友情」を頼りに、日本は大丈夫という甘い見通しが政府内になかったか。だとしたら、あの犬たちの方がよほど頼りになる。


今日の筆洗3/24

2018年03月24日 | Weblog

 今は七十二候の「雀(すずめ)始めて巣くう」。春の気配はいよいよ濃く、雀が枯れ草などを集めて巣をつくり始める季節だ▼巣作りの名人がそろう鳥の世界でも、豪州など南西太平洋にすむ、ある種のツカツクリは別格だ。何しろ、彼らの巣は大きいものなら直径七メートル、高さが二メートルという大邸宅なのだ▼雄は、何トンもの落ち葉を脚でかき集めて巣を築き上げ、雌を誘う。雌はそこに卵を産むのだが、卵を抱いて温めることはしない。落ち葉が発酵して出る熱で孵化(ふか)させる。雄は卵がちょうどいい温度になるよう、落ち葉を積み上げたり、かき落としたりして調整するというから、発酵を的確に見極める酒造り名人のようでもある▼驚きの技だが、実はこの発酵の技を巧みに使い北極圏でも抱卵することなしに、卵を孵化させていた大先輩がいたという。ハドロサウルス類という恐竜だ▼恐竜がどうやって卵を温めてきたかを解き明かした名古屋大学の古生物学者・田中康平さん(32)らによると、恐竜は太陽熱や地熱を利用したり、発酵熱を使ったり、自ら温めたりと、工夫を凝らして繁殖していたという▼現在、鳥類は一万種近くいるが、彼らは卵を抱いて温めていた恐竜たちから進化したとされる。だが、ツカツクリの仲間だけは、鳥類がご先祖さまからは引き継がなかったはずの発酵の技を使う。何とも不思議な進化の物語ではないか。

ツカつくり

 
 
 

今日の筆洗

2018年03月23日 | Weblog

 鹿児島県の薩摩半島の南五十キロの海底に、とんでもない怪獣が潜んでいるという。その脅威は、ゴジラの比ではない。直径が十キロ余、高さ六百メートルという巨大な溶岩ドームだ▼このドームをつくっているのは、七千三百年前に噴火して、南九州の縄文文化を壊滅させたという鬼界カルデラ。今、もし九州でこの規模の巨大噴火が起きたら…という想定で書かれたのが、作家・石黒耀(あきら)さんが二〇〇二年に発表した小説『死都日本』だ▼霧島火山帯で巨大噴火が起き、火砕流は南九州をのみ込み、火山灰は西から東へと流れ、交通網や通信網など麻痺(まひ)させ、なすすべもないまま十万、百万の単位で人命が失われていく▼荒唐無稽な話ではない。現実に、破局的な大噴火の可能性を火山学者は「明日起きてもおかしくないが、予知は今は無理」と指摘している。では、どう備えるか▼四国の伊方原発をめぐる訴訟では広島高裁がその危険を認めて運転を差し止めさせた。だが、玄海原発をめぐる訴訟で佐賀地裁は、危険性は低いとの電力会社の主張を丸のみして再稼働を認めた▼『死都日本』には救いもある。政府が巨大噴火への最低限の備えとして、放射能汚染が救援や復興の妨げとならぬよう、火砕流にのまれそうな原発から燃料棒を運び出すのだ。大震災と原発事故を経験した今、そんな備えも考えぬことの方が荒唐無稽ではないのか。


今日の筆洗

2018年03月22日 | Weblog

 福島県の郡山市にある高橋静恵さん(64)の家には、一本の梅の木があった。家族とともに成長し、春を呼んでくれるようにと、自宅の新築祝いに義父が植えてくれたのだ▼梅の木は、三人の子と同じようにすくすく育った。春の訪れを白い花と香りで告げ、初夏に実を付けた。親子で「梅仕事」に精を出して作った梅ジュースは、クーラーを使わない高橋家にとって、なくてはならぬ夏の清涼剤だった▼しかし、そんな家族の一員のような梅の木は、もうない。福島第一原発の事故の翌年もその翌年も、梅の実から放射性物質が検出されたため、庭の除染作業のときに伐採してもらったのだ▼梅の木がなくなった春を高橋さんは、こううたった。<どこを歩いても/濃淡の緑が爽やかだ…/だが、私の庭は/梅の木を切り株にしてしまったから/空は広くなったけれど/花の香りも若葉の輝きも失っている…>(詩集『梅の切り株』コールサック社)▼原発事故に奪われた当たり前の春の歓(よろこ)び。そうして、こう自問する。梅の木を切ったのは、原発に象徴される身の丈に合わぬ文明に身を委ね続けてきた、自分自身ではないのか、と▼詩は、こう続く。<私は梅の木を切ったのだ/いのちの連鎖を断ち切ったのだ…/ひとつのいのちを絶って/仕方がなかったと言えるのだろうか…>。八年目の春も、高橋さんはそう問い続けている。


今日の筆洗

2018年03月21日 | Weblog

 腕に自信のない臆病な下級武士が藩内で人を殺(あや)めた剣術の名人を討ち取らねばならなくなった。まともに立ち合っても勝てる見込みはない-。山本周五郎の『ひとごろし』。どうするか▼武芸者の後をつけ回すことにした。背後から狙うのではない。武芸者に向かって「ひとごろし。誰か来て下さい」「みなさん用心して下さい」と叫ぶのである。その声に宿屋もめし屋も逃げていく。どこに行こうがこの調子で武芸者はほとほと弱りきる▼結末は書かないが、叫ばれる方の身になれば腹の立つ戦術だろう。「卑怯(ひきょう)みれんな手を使って、きさまそれで恥ずかしくはないのか」。武芸者のせりふをそのまま使いたくなるような、前川喜平前次官の名古屋市立中学での授業内容について、文部科学省が市教委に報告を求めた問題である▼自民党二議員が一枚かんでいる。前川氏の授業を問題視し「法令違反をした人が教壇に立てるのか」などと同省に問い合わせていた▼文科省は独自の判断で市教委に報告を求めたと説明しているものの、二人の文教族の顔色を見て、対応したという世間の疑いは消しにくいだろう▼政治による学校現場への介入は大問題だが、それ以前に胸が悪くなる。安倍政権に盾ついた前次官への憎しみか。「法令違反の人」といつまでも叫び続け、評判を落とす。事実なら大人の、自民党と文科省のいじめである。


今日の筆洗

2018年03月20日 | Weblog

 その小柄な少年が格闘技を習うようになったのは、自分の身を守るためだったそうだ。最初はボクシング。次にサンボ、そして柔道。もめごとがあれば、けんかになる。理屈ではなく、けんかに勝った者が正しい。そういう世界で暮らすためには、格闘技の腕を磨くしかなかった▼少年はやがて大統領になる。ロシアのプーチン大統領である。かつてのインタビューの中で少年時代から得た三つの教訓を披露している。一、力の強い者だけが勝ち残る。二、何が何でも、勝とうという気持ちが大切。三、最後までとことん闘わねばならない▼その圧勝は三つの教訓によるものか。ロシア大統領選挙でプーチン大統領が当選した。任期は二〇二四年までというから二〇〇〇年の大統領初当選以来、首相時代も含め、事実上四半世紀にわたって権力を握り続けることになる▼当初から圧勝が予測されていたが、76%という高い得票率に驚かされる。半面、不正投票の疑いもささやかれている▼ある投票所では同じ人物が一人で何票も投じる映像が公になっている。高い投票率と得票率を狙って怪しげな手を使ったとすれば、その大統領は最強かもしれぬが、最高の大統領とは呼びにくい▼大統領の自宅には講道館柔道創始者、嘉納治五郎の像があると聞く。品格と礼を重んじた治五郎の像が、その日の大統領にはどう見えたかが気になる。


今日の筆洗

2018年03月19日 | Weblog

 米大統領選挙を戦っていた、リンカーンにひげを生やしてと手紙で提案したのは十一歳の少女だった。「ひげを生やせばリンカーンさんのやせた顔はもっと立派になります」▼その効果か、リンカーンは当選を果たしたが、ひどい損害を受けた人がいる。以前からリンカーンの肖像ポスターを売っていた業者である。ひげを生やす前のリンカーンを描いていたので、絵がまったく似ていないと文句が出て商売が立ちゆかなくなってしまった▼米国のミルトン・ブラッドリーさんという方の逸話だそうだ。この人、実はタカラトミーのゲーム玩具「人生ゲーム」と関係がある。一九六八(昭和四十三)年の発売で今年五十年。幅広い世代があの「人生」の行方を決めるルーレットに夢中になったか▼オリジナルは米国のゲームで、その原型「チェッカード・ゲーム・オブ・ライフ」を一八六〇年に売り出したのが、このブラッドリーさんなのだという。元をたどれば五十年どころの歴史ではない▼「人生、山あり谷あり」。「人生ゲーム」の古いCMを覚えているが、このブラッドリーさんの人生もまさにそれか。リンカーンでの不運な失敗の後、印刷技術を生かし、このゲームを製造したところ、大当たりを取った▼悪いことばかり続かない。そう信じ、へこたれず、真面目にコマを進めていくしか、人の未来は拓(ひら)けぬものらしい。

 

 

チェッカード ゲーム オブ ライフ価格4,800円 ※生産終了

1860年に発表されたミルトン・ブラッドレー社の記念すべき第1作目の盤ゲームであり、100年後に発売される「THE GAME OF LIFE」の発想の源泉となった。
当時の資料を基に復刻した英語版(説明書は日本語表記のものが付属)で、「人生ゲーム」日本発売25周年を記念して限定発売された。
コースではなく、“チェッカード“の名が示す通り8×8のマス目にコピーとイラストが描かれており、ルーレットの代わりに数字ゴマが付属している。
「INFANCY(幼児期)」からスタートし、数字ごとに設定された方向指示によりコマを進めて止まったマスの指示に従うが、このゲームはゴールがなくプレイヤーの誰かが100ポイントになった時点でゲーム終了となる。

 



今日の筆洗

2018年03月18日 | Weblog

 夏目漱石が一時期、ひんぱんに引っ越しをしたのは有名で、熊本赴任時代は確認されているだけで六軒の家に住んでいる。わずか四年三カ月の間である。理由はさまざまで刃傷沙汰のあった家を妻が嫌がったというケースもあったそうだ▼今の感覚で考えると、かなり早い転宅のペースだが、家財道具の量を想像してみても、現在よりも、引っ越しを気軽に考えていたのだろうか。「尤(もっと)も不愉快の二年なり」。そう語ったロンドン留学中も四回下宿を移っている▼進学、就職や転勤などに伴う引っ越しのシーズンである。今春は引っ越しするには「尤も不愉快」の年になるかもしれない。トラック運転手の人材不足などで三月下旬、四月上旬の引っ越し業者は予約さえ困難で依頼できたとしてもかなり料金が高い▼三月末に引っ越す予定の知り合いによると早い段階に業者を見つけ、何とか予約できたものの、見積金額は通常の二倍近い。今さら別の業者が見つかるあてはなく、その料金をのまざるを得なかったと嘆く▼どうしても業者が見つからぬ場合、最小限の荷物を自分で運び、繁忙期後に本格的に引っ越すという手もあるが、新生活が「辛生活」になりかねない▼業界は来年以降の引っ越し難民対策を。別の同僚は独立する娘さんの引っ越しを自分でやる決意を固めた。父親としての評価は上がろう。心配なのはその腰である。