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今日の筆洗

2018年12月09日 | Weblog

 かばんに入れたブローチがない。壁にあった絵が消えた。誰も入れない屋根裏部屋からは足音が聞こえてくる…。米映画の「ガス燈」である▼度重なる怪現象にイングリッド・バーグマン演じる女性はついに自分がおかしくなったと信じ込むようになる。裏があった。すべては、夫の仕業。妻を混乱に追い込み、思うがままに操ろうというのである。衰弱していくバーグマンの演技が見どころである▼英オックスフォード辞典の「今年の言葉」。「毒性のある」という意味の「TOXIC」が選ばれたが、候補にはこの映画からきた言葉も挙がった。「GASLIGHTING(ガスライティング)」▼あの夫のようにウソや工作で追い込み、やがては自分の正気まで疑わせることをいう。都合の悪い話を「偽ニュース」と決めつける米トランプ政権の手口にたとえられ、候補に挙がった▼外国人を数十万規模で受け入れるという国の転換点になるであろうに制度の詳細も示されず、十分な審議もないまま、改正入管難民法などが成立した▼さては非常識で不可解な国会の「怪現象」によって国民の心を混乱させる「ガスライティング」かと言いたくなるが、これは当たらぬ。中身の見えぬ法も空虚な審議も強行採決もすべては覆らぬ事実なのである。ガスライティングなんぞ比べものにならぬほど政権与党のそのやり方が恐ろしい。

 
 

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今日の筆洗

2018年12月08日 | Weblog

 一九九三年の発表というから携帯電話が爆発的に広がる前夜の歌だろう。森高千里さんが作詞し、歌ったヒット曲『渡良瀬橋』に記憶に残る一節がある。<床屋の角にポツンとある/公衆電話おぼえてますか/きのう思わずかけたくて/なんども受話器とったの>▼別れた<あなた>との思い出が染みついた公衆電話だろう。会えないけれど、声を聞きたい。そんなだれかがカードや硬貨を手に目指した公衆電話ボックス、かつて各地にあったはずだ▼おぼえてない。使いたいけれど、どこにあるのか。公衆電話を巡るそんな声の数々がネットに書き込まれていた。よみがえった古い電話の頼もしさに、事の大きさをみる。ソフトバンクの携帯電話サービスでの通信障害である▼四時間半ほどの出来事ながら、社会の動揺は大きかったようだ。地図アプリが使えず街で道を見失った。社外からの商談ができなくなった。人に会えなくなったというのも深刻だろう▼あらためて、スマホに多くを依存する社会の弱みが浮き彫りになった。重要なライフラインの障害であるが、原因が、スウェーデンの企業のソフトウエアだと聞いて驚く。再発は防げるのか。われわれは便利さと一緒にもろさと不安も引き受けたのか▼ポツンとは残っているだろう、公衆電話の場所を確かめなければならないと思う。かけたくなる日はまた来るだろうから。

 
 

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今日の筆洗

2018年12月06日 | Weblog

 敗戦後、進駐軍の接収などを受けて、建物や公園の名称が日本名ではなく英語名に一時的に変わった。かつての東京宝塚劇場は米従軍記者の名から「アーニー・パイル」。横浜公園球場はヤンキースの強打者にちなみ「ルー・ゲーリッグ・メモリアル・スタジアム」である▼日比谷公園も名を変えた。「ドーリットル・フィールド」。その名は一九四二(昭和十七)年四月、日本本土に対する最初の空襲を指揮したジミー・ドーリットルから取った。当時の日本人には複雑だっただろう▼進駐軍の指示でもあるまいに駅名に分かりにくい片仮名が入るのが腑(ふ)に落ちぬ。JR東日本は山手線の田町-品川間に建設中の新駅名を「高輪ゲートウェイ」にすると発表した▼和名でなければ、まかりならぬとは言わないが、片仮名がいかにも気取って聞こえ、愛着がわきにくい。試しにその名を口に出してみる。長ったらしく、待ち合わせ場所を田町に変更したくなる▼ゲートウェイにはかつての江戸の玄関口だったことや東京の将来の交通拠点にという意味を込めているそうだが、駅名にするには無理があろう。国電という言い方を「E電」に改めようとして定着しなかった、かつてのキャンペーンを思い出す▼おそらく、利用者はそのままの駅名では使うまい。短く「高輪」。あるいは若者風に「高ゲー」「輪(なわ)ゲー」か。まだ親近感がわく。

 
 

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今日の筆洗

2018年12月04日 | Weblog

 両国橋の上で俳諧師の宝井其角(たからいきかく)はかつての弟子にばったり出会う。男は煤竹(すすたけ)売りに身を落としている。あまりの変わりように其角が驚き、こう発句する。<年の瀬や水の流れと人の身は>。煤竹売りはこう返す。<明日またるるその宝船>▼男は煤竹売りに化けた赤穂義士の一人、大高源吾。明日とは旧暦十二月十四日のこと。主君の敵を討つ吉良邸討ち入りの決行日である。明日には討ち入りの「宝船」が待っているとほのめかしたわけだが、其角には分からない。いい場面である▼もちろん偶然だが、よりによって、「忠臣蔵」の討ち入りの十四日がその日になるのか。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事をめぐって、政府は十四日に埋め立て予定海域に土砂の投入を開始すると表明した▼沖縄県の反対の声を押し切ってまで、沖縄の海に討ち入ろうとでもいうのか。そのやり方は決して国民が望む「宝船」にはなるまい▼土砂投入に踏み切れば、後戻りはできなくなる。政府としては話し合いによる決着は困難と判断し、工事を進める考えだが、その強硬なやり方では地元の反発を強めるばかりだろう。政府が埋めるべきは海ではなく、沖縄県との間にある深い意見の溝である。話し合いをあきらめてはならぬ▼赤穂義士はその日、主君の無念を晴らした。土砂投入を行えば、その日は、沖縄の「無念」の日になる。

 
 

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今日の筆洗

2018年12月03日 | Weblog

 「白黒で三千円、カラーで五千円」。男が耳元でささやく。男がお金を取って見せようとしているのは昔のテレビ番組。倉本聰さん脚本のドラマ「6羽のかもめ」(一九七四年放映)の一場面である。テレビの低俗化に業を煮やした政府がテレビ放送を禁止した近未来社会を劇中劇の形で描いている▼テレビ局はすべて廃止。家庭のテレビや番組を録画したテープもすべて没収される。それでも、みんなテレビが見たくてヤミの上映会へこっそり出かける。「先週、(東京の)青砥(あおと)でコロンボ見ちゃった」「(泣きそうに)ほんと?ほんと?青砥のどこ!」▼もはや死語の「テレビっ子」のOBとしては、古い番組のヤミ上映会に足を運びたくなるが、その新しい放送はどうだろう。一日から始まった4K8K衛星放送である▼白黒、カラー、地上デジタルと進化し続けてきたテレビの新たな形。より鮮明で美しい映像を楽しめる▼魅力的な半面、いまひとつ盛り上がらぬのは現在の2K放送でも十分きれいでさほど必要性を感じないという部分もあるかもしれぬ。テレビではなく、スマートフォンなどで動画や配信映像を楽しむ人が増えている時代である。新技術はテレビの前に家族を再び集められるか▼肝心なのは高画質の映像でなにを見せるかだろう。期待する一方で4K8Kがテレビの「四苦八苦」と読めてしかたがない。

 
 

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