ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

お太鼓結びはつまらない?

2008-09-25 16:41:37 | 着物・古布
手持ちの帯で「丸っこく結んだお太鼓」です。
以前の写真のまたしても流用…。ひなたぼっこ猫です。

お太鼓結びは、今着付け教室に行くと、
一番最初に習う帯結びで、通常の着物姿では帯結びの定番ですね。
それだけに変化に乏しいという感覚は否めません。

そもそも「お太鼓」結びの始まりは?
ご存知のかたも多いと思いますが、
俗に「亀戸天神の太鼓橋が再建されたとき渡り初めに参加した芸者衆が、
太鼓橋の形になぞらえて締めたのが始まり」と言われています。
仮にそれが正しかったとして…元から今のようなお太鼓が、
いきなり結ばれたわけではありません。
何しろ「帯の形や長さ、着物の着方や形」など、いろいろ違っていましたから。

まずは当時は「丸帯」が主流で、しかも前で半分に折るということをしません。
幅広いまんまです。ただし礼装用の丸帯は豪華で地厚でしたが、
普段用は薄くてしなやか、昼夜帯などが良く使われました。
以前使った写真ですが、こんな感じですね。


        
    

そしてもうひとつ、当時考案された「お太鼓」は、
男性の「カルタ結び」をアレンジしたもの、といわれています。
今、女性が半幅で結ぶ「カルタ結び」は、「結ばない帯」として
多く紹介されていますが、実際男性が角帯で結ぶとき、
解けないようにするためには、ひと結びします。
カルタ結びの「ペッタンコで苦しくない」という利点を生かすには、
結ばないほうがいいわけで、それが可能な結び方として、
「結ばないカルタ」ができているわけです。
(この場合の「結ばない」は、実際結ぶことも、結ばずねじることも含まれます。
 要するに帯を交差して、束ねる手順がないということです)
この「結ばないカルタ」を実際に昔の帯でやってみました。
こんな感じ…。   


   


なぜ洗濯ばさみで止めてあるか…こーしないと帯の重さで解けちゃうんです。
だから「帯締め」が必要だったんですね。こんなふうに。


   


これが「お太鼓の原型」ってことになるんでしょうねぇ。
ちなみに、解けないように最初に結んだら…はムリ、なんたって幅広いですし、
結び目がでっぱって、その上でカルタはきれいにできませんでした。
男性の角帯の場合は、幅が狭いから、結んでのカルタも可能なわけです。

私は特別専門的に勉強や研究をしたわけではないので、
疑問に思うことは、できる限り再現とか実験をするよりほかないわけです。
実際にはもっと違うのかもしれませんが、とりあえず知りうる限りの知識の中で、
そろえられる材料でやってみると、かなり真実に近いところまで、
いけるんじゃないかと思っています。
そういうことを前提にして考えられることは、
「引き抜きが主流で、帯締めもいらなかった当時としては、
お太鼓はけっこう厄介な帯結びだったんじゃないか」ということです。
角だしもひっかけも、ささっと結べて解けてこない、
お太鼓は、帯締めというもうひとつ道具が増えて、しかも解けない気遣いがいる、
それなのになぜ結果的に「主流」になったか…。
それが着物文化の変化ってもので、時代が新しくなり、重い丸帯にかわって
袋帯ができ、元からあった昼夜帯も含めて今度は前幅を半分に折るようになった、
これは「おはしょり」を、以前はあとからからげていものを、
先に作るようになったから、そしてそれは生活習慣などが変わったから…。
とまぁ、ひとつ何かが変わるには、いろいろな要因が絡み合うわけですが、
だんだん帯の形も締め方も変わってきて、さらに「名古屋帯」という、
画期的なものが発明されたわけです。
この名古屋帯も「帯の前幅を半分にするようになった」から考案されたものです。

つまり、人はより便利でラクな方に移行してゆく…、
帯締めという道具を「ありあわせの紐や刀の下げ緒」から、
新しい和小物として認め、さらにそれを美しい小物として発展させる…、
片方ではそんな努力や進化もあったわけです。
いろいろなことが絡み合って、「幅広い引き抜き帯で結ぶ角だし」より、
結んでラクなお太鼓へと、動いていったのではないか、と思っています。


じゃー、お太鼓そのものはもすこし変化できないの?
実は最初のころのお太鼓って、もっと大きく結ばれています。
また、昭和の初期ころは文字通り太鼓橋のように、
上をわざと丸くして締めたりしています。
以前使った写真です。


   


ほんとに「太鼓」みたいですが、フォルムがやわらかくなりますね。
これは少しやわらかい帯でないとできません。
あとは帯枕の厚み大きさ、それで変化つけるわけです。

さて、今度はさっきの帯で、現代の一重太鼓を結んでみました。
引き抜き用の帯なので、柄が逆さまになり、お太鼓の中はあまり分がたっぷり。
おぉ帯ヤマの右にシワよっとる…。


      


カルタ結びより、やはり目になじんでいて落ち着きますね。
帯枕を若向きの厚みのある物に変えて膨らみを出すとこんな感じ。


   


もう少しわかりやすく、現代の帯でやってみます、実はこれ「作り帯」です。
柄がわかりやすいかと思いまして。
まずはアタリマエのお太鼓、年齢は私くらい、あまり厚みのない横長の帯枕で
平らっぽく、四角っぽく普通に結んだ形です。


   


帯枕の厚みを変えました、花嫁さんが使うかのよーな丸っこいもの。
お太鼓の縦の長さが変わったように見えますが、厚みでとられているだけで、
位置的にはさほど変わっていないこと、柄でわかると思います。
帯枕の厚み分上にひっぱられて、お太鼓の下部分の模様が現れ、
タレが長くでて見えるようになってしまいましたね。


   


あまり変化がないと思われるお太鼓ですが、帯枕の厚みや横長か丸型か、
それだけでも表情は変わります。
帯枕は、若いほど厚みがあるものといいますが、それは基本的にということで、
お太鼓をどんな形にするかで、使い分ければいいわけです。
こちらは、思い出してやってみたもの。

もう20年くらい前ですが、船橋のデパ地下だったかで
前を歩いていたご婦人の帯の結び方がこれでした。
なんとも情けないハナシですが、どんな人だったか、着物はどんなだったか、
ぜーんぜん覚えておりませんで、40位の着物を着慣れた方、
何かお琴とか踊りとか教えてそうな雰囲気の方だったことだけは覚えています。
帯はお太鼓に花丸紋だったかの柄がいくつか飛んでいて、
地はクリームだったかグレーだったか薄い色でした。
私10分くらいストーカーやりまして(オイオイ)、
どんな風に結んでいるのか、しっかり見てあとでメモしたんでしたわー。


   


お太鼓の中に折り返した部分の左側の上をよこに引き出し、
手も少し下にずらしてあります。


   


右側は、少し折って手が左に下がっている分、少し右上がりにあげてあります。
記憶があいまいですが、しっかり抑えるためか少し太めの帯締めだったと。


   


これ、やってみたことがあります。普通に締めたあとで、
帯の中に手を入れて畳み込んだ部分を引き出し、あとの細工をするだけです。
右側の手があまり長いと引っ掛かりが厄介なので、その辺はきをつけて。

いかがですか、タダのお太鼓だからこそ、あまり基本にとらわれすぎないで、
わざとお太鼓まん丸にするとか、ちょっとゆがめてみるとか、
そんなにあれこれ難しい細工をしなくても変化はつけられます。
その日の着物の色柄と帯の色柄、出かける先や目的、それに合わせて、
いろいろ考えるのは、洋服で言えば上着のボタンをとめるとかはずすとか、
ベルトの太さを変えるとか、スカーフを巻くとか結ぶとか…そんな感じですかね。
楽しく着るというのは「でなければならない」と思い込まないことです。
あとあと帯に余分な折線が付かない程度に、あれこれ楽しんでください。


      





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12 コメント

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Unknown (ゆん)
2008-09-25 19:03:10
 こんばんは~

お太鼓って、一括りにしないで、もっと色々楽しめるんですねぇ!
 私は、下が膨らむのが好きなんですが、「帯枕も入れないで…。」と、注意されたことがあります

 帯山が山になってるのも憧れてるんですが。五角形のお太鼓(?)というか…。どうなってるのかな。名古屋帯の三角が出てるだけなんですか?
 
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Unknown (陽花)
2008-09-25 20:11:16
帯枕の大きさでずいぶん雰囲気は変わりますね。教科書通りの決まった形を少しくずして
遊んでみるのもいいものですね。
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Unknown (zizi)
2008-09-25 20:33:38
お太鼓のタレをちょいと右上がりに締めるのだと母に言われました。あんまり四角くランドセルみたいにしない方がいいということでしょうか。祖母は和裁の先生でしたが、母は今では全く着ません><

素敵な帯ですね。相良刺繍でしょうか。渋い大島にこんなおしゃれな帯をさらっと締めたいです♪
返信する
うわ~! (りら)
2008-09-26 00:16:13
> これは「おはしょり」を、以前はあとからからげていものを
初めて知りました。
腰紐使って初めにおはしょりを取る方法しか知らないと、一体どうやるんだろう?と思ってしまいます。

> 疑問に思うことは、できる限り再現とか実験をするよりほかないわけです。
私にはこういう部分が全く無くて、ここで見せていただくだけで、恥ずかしい気がしてきました。


お太鼓の形は、昔の映画を見ると斜め(左下がり?)にしている場合が多いです。
(最後に紹介されているのに近い感じです。)
役柄が粋筋の人たちなのですが、でも粋になり過ぎず、きりっとした感じになるんです。
帯の柄によってお太鼓の形を変化させられるようになったら、素敵でしょうねぇ・・・・
(現在は期せずして帯の素材や堅さで形が違ってきてしまっています。だはは)
返信する
安心しました^^ (えみこ)
2008-09-26 07:13:36
小さく丸めにまとめてしまうのが好きで
作り帯でも作り替えて小さくしてましたが
よそ様からなにか言われたらどうしようとか
思っていたところがあったので
あ、これでいいんだなぁ~よかったなぁと
安心しました。
おしゃれの秋到来!参考にして着たいと思います。

返信する
難しい・・・ (おつう)
2008-09-26 17:27:12
カジュアルに粋にお太鼓を締めるのは難しくて、ついつい楽な半幅帯に逃げてしまいます。

ポイント柄をどこにもってくるかで印象ががらりと変わるのも、面白いですよね。

手持ちの名古屋帯の出番が少ないので、もう一度練習してみようかな。

自分らしいお太鼓が出来るといいんですが。
精進します~~
返信する
Unknown (武者子)
2008-09-27 01:18:41
亀戸天神のすぐ側で育った私としては、お太鼓を嫌いにはなれないものの、お太鼓じゃなきゃダメ!!と言われてしまうとつい、天の邪鬼的思考で『ツマラナイ~』と思ってしまったりします、やっぱり。

今度のお稽古で、お太鼓の変わり結びで行ってみよっかな~。
とにかくものすごい正統派の先生なので、ちょっと勇気がいりますが、Let's try !!
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-09-27 02:48:31
ゆん様
五角形の…というとお太鼓のヤマが
とんがってる感じ?元々の三角は、
帯を畳む都合のヤマですから、帯枕を入れて
形作るときに、新しく三角にすればいいと
思うのですが、ちっとわかりにくいかなー。


陽花様
娘のころのまるっこい帯枕があるんですが、
よくこんなころんころんのを使っていたと
思います。さすがにあれは…ですが、
少し気分を変えて…と締めるのもいいですね。


zizi様
母もいつも左(左利きだから?)を、
あげてました。アクセントって感じですね。
うすーい帯枕で、将棋ができそうな真四角は
銀座の一流ママさんたちの定番ですね。

相良刺繍ではないのですが、糸が太めで
ずっしり重いんですよ。
おなかにウエイトかかって
「しめたらやせる」かもしれない?


りら様
明治初期くらいまでは、一番上の
モノクロ写真のように、帯広めでお引きずりで
外に出るときは帯のしたにしごきを使って
ブラウジングさせていました。
そのころの写真を見ると、帯の下に
浮き袋してるみたいに不細工だったりします。
浮世絵なんかを見ると、よく描いてあります。

>現在は期せずして帯の素材や堅さで形が違ってきてしまっています。
はっはっは、おんなじだー。
帯にあわせさせていただいておりますがな。


えみこ様
こぶりだと少し見た目がジミめになりますから
上を膨らませ気味にするといいですよ。
小さいお太鼓って「しょってる」っていう
感じがしなくていいですね。


おつう様
半幅はほんとにラクなんですよね。
夏のゆかたでどっぷり慣れてしまうと、
秋口にお太鼓にするのが、
めんどうだなーということありますね。
自分流のお太鼓、楽しんでください。


武者子様
お太鼓は一番てっとりばやいですからねぇ。
正統派の先生だと、ちと目がこわい?
まっすぐで行って、でてきたら曲げる?

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Unknown (古布遊び)
2013-02-12 19:46:03
お太鼓についてのお話はとても参考になりました。
今よく見るような形が昔もそうだったわけではないのですね。
叔母からもらった帯ー作り帯なのですがどうしてこんなにまあるく作ってあるのかと不思議に思っていました。
とんぼさんの考察に本当に感心させられます。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (とんぼ)
2013-02-13 16:46:12
古布遊び様

帯のかたさも、今とは違って、その人の結び方とか好みで、
いろんなかたさ、やわらかさがあったんですね。
好きなように締めたら、楽しめるんですよね。
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