本日は「道具柄」の「几帳」です。
几帳は平安時代盛んに使われた「道具」なんですが、几帳面の語源でもあります。
几帳というのはカンタンに言うと、木で作られた台に布をさげたものです。
台に二本の細い柱を立てそこに更に横木を渡し、その横木に帷子を下げました。
この台の部分を「土居(つちい)」といい、二本柱を「足」横木は「手」です。
ここから先は本で読んだまんまですが「その柱の角に細工することを
『面取り』と言い、その部分を作るには高い技術を必要とした」
で、そういう細かいところをきちんと仕上げる・・というところから
「几帳面」という言葉が生まれた、とモノの本に書いてありました。
上の几帳柄はじゅばんです。風にひらひらと裾が揺れて、
動きのある柄行になっています。色目もかわいいですね。
但し、ホンモノの几帳は、こういう風にいろいろな柄の布を下げる・・
ということはありませんでした。なにしろ「お公家さん」の道具ですから
あくまで「重厚、豪華、格調高く・・」、下の写真は、女の子の晴れ着ですが、
左側に、雲の間から「几帳」が見えています。これもまた華やかな模様の
布がさがっていますがこれも着物の模様としての装飾です。
実際には季節によって、まぁ一般的な決め事、といいますか、
しきたりの多い世界ですから、柄も素材も原則「これ」というような感じでした。
たとえば、夏は生絹で「花鳥」柄、冬は練絹で「朽木型」と呼ばれる模様、
と言った具合。朽木柄というのは見ると「ああこれ」とすぐわかるんですが、
朽ちた木目を絵にしたもの・・で、なんというのかもやもやっとした・・
そう!ロールシャッハ・テストのもようみたいな、ってひどい例えですが、
ようするに流れていくちぎれ雲を並べたような・・そんな柄です。
生絹(すずし)とか練絹というのは、要するに精錬されてるとかいないとか・
この絹の話しと柄や織り方の話しをしていると夜が明けますので、
そのあたりはまた別の機会に・・。
で、一応「スタンダードタイプ」の柄行や素材は決まっていましたが、
そのほかに「美麗几帳」というのがあって(名前・・まんまや)、
それは錦とか、綾織といった美しく豪華な布が使われた袷のものです。
これは装飾用の几帳として使われたようです。
几帳と言うのは、規格サイズがあって「高さ」によって三尺几帳、四尺几帳と
よばれました。三尺の方は座ったひとが隠れるくらい、
四尺はひとの背丈より少し低いくらい。幅も三尺は四幅つまり四枚
四尺は五幅つまり五枚を垂らしました。
この一枚ずつの布に対して真ん中に、更に細い紐を垂らします。
二番目の写真の「青と白」の細紐がそうです。これを「野筋(のすじ)」と
言います。装飾もかねていますが、実は下から布をくるくると巻き上げて
途中でこの紐でしばる・・という実用的な役目がありました。
この紐の色だとかにもいろいろ決まりがありますが、本日省略!
以前「ふとん」のところで書きましたが、身分高いかたは床に畳を敷いて
自分のテリトリー?を確保してましたが、なにしろ平安時代というのは
屋敷の中に「壁がない・・・」いえ、全然ないわけではありませんが、
寝殿造りというのは、今のように細かく部屋を区切るという作りではありません。
元々日本の家屋と言うのが、冬の寒さよりも夏の高温多湿の時期を
無事すごすための工夫に重点を置いて作られていますから、
とにかく屋根はひさしを深くして、日がさしこまないように、
壁はなるべく作らないで風通しよく・・で、やたら広いわけです。
考えてみりゃ夏でもTシャツにショートパンツってわけに行かないんですから
そうなったんでしょうねぇ・・とこれは想像。
そういう作りですから、広い板の間にぽつーんと畳敷いてるのもねぇ。
で、自分のいるところに、このへん「壁」みたいな感じで、間仕切ったわけです。
もう少し細かくいうと、壁代わりには「御簾」とか「壁代(かべしろ)」など
ちと大き目のものがありました。普通のうちでいうと、廊下と部屋などの境の
襖や障子のあるあたりに下がっているのが御簾と、それの相方の「壁代」です。
更にその中でこじんまりと区切るために几帳が「間仕切り」「衝立」として
使われました。背の低い几帳は、姿隠し・・。扇子のところで書きましたが、
なにしろ「カオ」を隠すのが当たり前の時代、親子でも御簾越しに会話・・
なんてこともあったようですから「のぞかれないための工夫」でもありました。
実はこの几帳、ちょっと気の利いた工夫もあります。
几帳の布は上から下まで全部カーテンのように一枚には縫ってありません。
のれんのように途中からはバラバラになってます。
これがあるので「垣間見」という風情ある「おいた」ができました。
別にそれが目的で作られたわけではありませんが・・。
垣間見(かいまみ)というのは、今で言うなら「隙間からのぞく」こと。
今のご時世なら「110番」されちゃう「覗き」ですが、
平安の昔はなんたって「女性の顔」はなかなか拝めない。
美人だと評判だって言ったって、スナップ写真が出回るわけじゃなし・・、
そこで、そおっと几帳の帷子を押し広げて、自分の目で確かめる!と言うわけ。
或いは、昔は男の通い婚ですから、口説き落とすまではひたすら通う。
最初は遠い「御簾」のこっちから、女房間にまだろつこしい会話をする・・
これも扇子のところで書きましたが、そうやって通っていくうち、
相手が「おつきあいしてもいいわ」になると、だんだん近づける・・。
やがて「知人」が「友人」になり「おともだち」からもうちょっと、
と進んでくると「御簾」ごしだったのが「几帳」ごし、になっていくわけで。
あーやっぱりじれったい!
今のように「テーマパークでデート」とか「レストランで食事」などという
「逢瀬」がなかった時代、几帳越しの語らいや、垣間見は、
とてもワクワクすることだったのでしょう。
几帳はとてもキチョウな小道具だったのですね。(サブいシャレですみません)
それにしても、やっぱり現代の、しかも庶民に生まれてヨカッター!
着物はほんとに奥が深いです。
私は古い着物から和小物を作っていますので、
「もう着られない」着物ばっかりが多いんですが
着られそうなのは自分で着てます。
着物は小物を選んだり作ったりも楽しいですよね。
これから小物のことなども書いていこうと思います。
またおいで下さい。
素敵な着物の柄をうっとり~と眺め、知らない道具のお話を「ふむふふ~」と熟読しています。「几帳の面取りをきちんとする」から、「几帳面」という言葉が出来たなんで、初めて知りました(というか「几帳」という道具がわからなくて、調べてみたぐらいです)。
それに、戌の留袖!!!!! びっくりしました
昔はもっと着物の柄選びが大胆で、遊びに満ちていたんですね
変わった柄ばかりオンバレードの我が家です。
材料なので「着られない」んですが・・。
見て楽しむばっかりで、作品になかなかできません。
そのうち・・・。(いつだいっ!)
地味な小紋は、小物をかわいく・・でOKです。
八掛は何色ですか?もし地味な色でしたら
次に「洗い張り・仕立て直し」をするときに
「赤系・朱系」の少し落ち着いた色目の八掛に
付け替えると、コントラストがよくていいですよ。
これで40代までいけます!