ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

歌舞伎柄ハギレ

2010-08-04 09:26:02 | 着物・古布
「ちょっとだけ」しかないハギレです。ギリギリ袖一枚分。
額に入れますかねぇ。でもバッグの横に縫い付けたりもしちゃいたい柄です。
当分は眺めて楽しみましょう。

言わずもがなの「暫」ですね。
元々は芝居の中の一場面であったものが、そこだけがひとつの芝居として
上演されることになっていったもの、それだけインパクトがある場面ってコトですね。
「暫」は「しばらく」、外国で上演されるときは、まんま「じゃすと・もーめんと」です。
花道から「じゃすと!じゃすと もぉぉぉ~~めんとぉぉぉ」とは出ませんが。

「暫」は、ハナシとしては単純明快、悪いやつが善人を処刑しようとするところに
強い男が現れて、悪人をバッタバッタとなぎ倒す…というだけのお話。
それでもいまもって人気演目であり、こうして「柄」としても絵かがれるというのは、
その姿のインパクトの強さからではないかと、私は思っています。

私は歌舞伎は好きなのですが、ほんとに「わっきれい~」という程度で、
細かいことはあまりよくわかりません。
歌舞伎の通の方などは、芝居の筋立てや役者さんの名前だけでなく、
歌舞伎の演目のさまざまな約束事とか、歌舞伎特有のしきたりとか、
さまざまご存知と思います。
私はいまだに「役者さんの名前」さえ、あれっ襲名したっけ、したよねぇ、と
親子がごっちゃになります。
一番好きな「片岡孝夫」さんが「仁左衛門さん」になったことだけは知ってまーす。

そんなわけで「暫」のことも、詳しくはないのですが、
とりあえず知っていることだけ。
筋立ては「公家系の大変身分の高いヒト」が「罪もない善良な人たち」を、
自分の都合で並べて処刑しようとするところへ、スーパーヒーローが「暫くっ!」と
それを押しとどめて登場し、悪人どもをバッタバッタとなぎ倒す…だけです。
このお芝居は、設定により、主人公はじめ出演者の役名が変わるというお芝居で、
たとえばヒーローが「鎌倉権五郎景政」のときは、敵の公家は「清原武衡」、
「館金剛丸照忠」の時は「平将門」…と代わります。ややこしいですね。
この「主人公」は、最初に出てくるのが花道で「暫!」と声をかけてでるわけですが、
とにかく「強い」という印象をもたせるため、体を大きく見せる…。
なにもかにも大作りで、着物の衿なんか綿入りでほわほわ。
役者本人も「肉布団」を着て衣装をつけ、足には「足継ぎ」というものを履いて、
背も高くします。それで長袴穿いて、ダッダッダッと花道歩くのですから、
ものすごい肉体労働であると同時に、運動神経もよくないと…。

衣装は、以前「武家の礼装」のところでお話しました「素襖」です。
わかりやすい画像はこちら
「暫」の衣装は、この素襖を誇張したもので、袖の四角い部分が凧のように、
芯が入って張っています。大きな三舛の家紋は、代々この暫のヒーローを演じる
「成田屋」の定紋です。ハギレの絵でも、この「袖」が強調されていますね。


     


アタマも凝ってまして、このハギレではわかりにくいのですが、
ちょうど「メドゥーサの蛇の髪」みたいにびょーんと横に棒みたいに飛び出した髷です。
前から見ると、かにの足みたいです。
実はつやつやとしていてとても「髪の毛」にはみえないんですけどね、
こういう飛びだして張ったものを「車鬢」といいます。
「暫」では「五本車鬢」です。下の絵に見えている後ろの白い紙は「力紙」といって、
これも「力持ち」の象徴のようなもの。


     


前髪ありますからねぇ、まだ少年ってことなんですが…かわいくない…ありゃ失礼。
とりあえず隈取も、肉布団の大型の体も、四角い大きな袖も、
スーパーヒーローであることの証です。そして太刀もやたらと長い…。
佐々木小次郎も真っ青…でして、これ一振りで、悪役10人の首が飛ぶ…。

歌舞伎十八番といわれる演目のひとつで、一番「絵」になる登場人物じゃないかと。
「助六」もいいし「勧進帳」の弁慶もいいですけどねぇ。勝手に私の好みで…。

さて、芝居絵、役者絵は柄はになっていそうでなっていない…。
「人の顔」というのは、柄にしにくいんですかね。場面の絵はたくさん見るのですが。
こんなハギレもありましたが…。これまた袖一枚分で「見るだけ」ハギレでした。


            


お芝居なんて、ぜーんぜん見に行ってない私ですし、ましてや歌舞伎なんて、
かつての歌舞伎座も、京都の南座も、前を通っただけ…なんですが、
いつか、あのりっぱな衣装をこの眼で見たいものだと思っています。
そうそうあの「江戸東京博物館」の江戸の町の展示では、衣装展示のため、
マネキンさんが「助六」と「傾城揚巻」と「意休」の衣装で舞台の一場面を演じています。
常設展示だと思いますので、花魁の髪型や衣装など見られると思います。
歌舞伎の本物を写してあるそうです。わたしゃ花魁ばっかり見ていて、
助六さんがハンサムだったかどうか覚えていません…。


さて、このところの暑さで、いいかげん汗だらけ、
ちったぁ絞れてやせたかと思いきや、ちーとも変わらんのはなぜ…。
夏やせなんて言葉は、我が家の前は素通りじゃぁっ!
秋はまだまだ遠いいなぁ。

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8 コメント

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Unknown (陽花)
2010-08-04 21:17:44
「あいや暫く」という言葉は聞きますが、
歌舞伎の中でそれも主人公によって変わる
とは知りませんでした。
そういえば、歌舞伎もしばらく遠ざかって
います。

私も去年の秋から5キロも増えたせいか、
今年はよく汗をかきます。
返信する
前髪。 (えみこ)
2010-08-05 07:52:17
うろおぼえです。初代が二代目に名を譲ったとき
「還暦=生まれ変わり」の意を込めて前髪立ちにした…とか
うかがったことあります。
以来カニさんのような(失礼)ヘアに前髪がくっついてより道頓堀の何とか道楽…の看板みたいになったようです。
現代でいうところのロボット対戦みたいなもんでしょうか(笑)
花道を通る時の役者さんのそばの席で、かすかに風がまきおこったのをおぼえています。
かなりな気合いと集中力を感じました。
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Unknown (くう)
2010-08-05 16:52:41
こんにちは。
珍しいハギレですね。
とんぼさんは歌舞伎ツウではないとの事ですが良くご存知ですね。とんぼさんの簡単で分かり易い説明文のファンです。きっと印象に残ってる部分をきっちり説明出来るのって羨ましい事です。文才がありますよね。な~んも出ない(念の為に)笑
私も大阪道頓堀の歌舞伎座の前を通るだけで実物を見たことがありません。豪華絢爛な、いかにも重そうな、あの衣装を見てみたいものですね。んで、ハギレの絵と同じ化粧を今でも続いている歌舞伎の世界は見事です。

それから、そのハギレは今後、如何されるのですか?額にでも入れて飾ると素敵ですよね。
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Unknown (とんぼ)
2010-08-05 19:24:43
陽花様

おしゃれをして、のんびり芝居見物…なんて
やってみたいですねぇ。
私も体重が変動しているのですが、
やはり太ると暑い…ですねぇ。
それにしても暑いですわ。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-08-05 19:26:58
えみこ様

なるほどそういうことでしたか。
あの勝子であの隈取で「少年」って
いわれてもねぇ…ですね。
そう、カニというかロブスターというか。

あの衣装で、しかも荒事の芝居ですから、
ちょっとでも気を抜いたら、倒れるでしょうね。
いや、見る側でよかった??
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Unknown (とんぼ)
2010-08-05 19:33:53
くう様

まぁほめていただいてうれしいです。
なかなか本物は見にいけません。
なんもでませんがキモチだけ「お茶でも…!」

歌舞伎の歴史も、ちょっと覗いてみただけでも
おもしろいものです。
あの絢爛な衣装、実物を見るのと「着てみたい」…。

額に入れて飾りたいですねぇ。

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Unknown (haco)
2010-08-05 23:13:14
こんばんは。
暫の女性版の「女暫」なんていうのもありますね。
歌舞伎柄は贔屓の家以外だと身につけるのを躊躇ってしまいます。
やはり一番多いのが、この成田屋さんでしょうかね~。いやー、披露宴すごかった!(笑)

9月25日~10月24日の期間、目黒雅叙園で歌舞伎衣裳を間近に見られる「歌舞伎展at目黒雅叙園 猿之助歌舞伎の魅力」というイベントがあります。
こんな解説も
http://www.megurogajoen.co.jp/event/kabuki/professional.html
雅叙園は建物も素晴らしいので、豪華絢爛な世界が見られそうです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-08-06 00:40:33
haco様

おひさですー。おいそがしそうなので、
時々ちらっと覗いては帰ってきてました。
お仕事順調そうですね。

「女暫」は巴午前が定番…そりゃ女傑って
そうはいませんものねぇ。
今ならイロイロ…やめておきましょー。

歌舞伎の衣装展、お知らせありがとうございます。
いいですねぇ、一ヶ月あるから、
一日くらいいかれるかなぁ…。
ぜひ、拝見したいです。
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