「くらげの背に乗った猿」の図・・・。緞子の羽裏です。
たいへんリアルな図です。猿さん「烏帽子」までかぶってます。
猿さん、くらげさんをアップでどーぞ。
いやこれを見つけたときには「何の意味がある?」と悩みました。
しかしこんな図柄はめったにでるものじゃありません。
そこでとりあえず入手の手はずをしましてのち、一生懸命考えました。
ずーっとアタマの片隅にひっかかってるものがある・・なんだっけ。
結局、思い出さないまま荷物は届き、あけてみたとたんに「あっそーか!」と、
やーっと「ひっかかっていたもの」が出てきました。
これは「猿の生き胆」のお話の一場面でした。
烏帽子なんかかぶっているので、つい神話系のエピソードとか、
何かの「縁起」ばかり考えていたのですが、単に「昔話」だったわけで・・。
ご存知のかたも多いと思いますが、とりあえず簡単にお話し致しますと、
竜宮城で竜王のお后様が重病になり「猿の生き胆」がよく効く・・とわかります。
竜王はくらげに「猿を連れてくるように」と命じます。
くらげは「海の底にはおいしい木の実がある」と猿をだまして、
まんまと背中に乗せ沖へでますが、おしゃべりなくらげはだまっておれず、
実は生き胆をとるためにつれていくのだ・・と口を滑らせます。
猿は海の真ん中では逃げられないので、知恵をめぐらし、
「そんなことなら言ってくれれば肝はあげたのに、
今日は松の木のてっぺんにほしてきてしまった」と申します。
くらげはあわてて「元の浜辺につれて帰るから『肝』をもってきてくれ」と
頼みます。浜辺にもどった猿は、二度と木松の木から降りませんでした。
とまぁこういうお話なんですが、民話・言い伝えについては、
同じような話が日本の各地に残っていて、それぞれ少しずつ内容が違う・・
ということがよくあります。このお話も、私が子供の頃最初に読んだ本では、
竜王の使いは「くらげ」ではなく「亀」、でした。
ちょっとお話してみますと、元々猿と亀は浜辺で出会い、
互いに違う環境の暮らしの話しを教えあい、たいへん仲良くすごすのです。
ところが、竜王の后(乙姫である場合もあります)の病気で、
猿の生き胆の話しが出たとき、亀は「出世とご褒美」に眼がくらみ、
友人である猿を裏切って、竜王に「自分が連れてくる」と申し出るのです。
うまく猿を言いくるめて竜宮城の門前まで連れてくるのですが、
亀が中へ知らせに入っている間に、門番のくらげ2匹が猿に気づかないまま
「陸の猿というものはバカな生き物だ、肝をとられるとは知らずにやってきた」
と話してしまいます。猿は亀の裏切りを知りますが、海の底では、
帰るに帰れない・・そこで、だまされたふりをしたまま竜王に会い、
挨拶をするもののわざと元気のない様子を装う・・。
竜王に「なぜ元気がないのか」とたずねられて、
猿は「ついうっかり、肝を松の木に干しておいてきてしまった、
雨が降ったらどうしようかと思うと気が気ではない」と訴えます。
そこで竜王はあわてて亀に、もう一度浜辺に連れて行くように命じます。
首尾よく浜辺に戻った猿は、木の上から亀に向かって石を投げつけ、
くらげのおしゃべりを聞いて、たくらみを知ったことを話します。
泣く泣く竜宮城に戻って事の次第を竜王に報告すると、
竜王は怒って門番のくらげを呼び出し、体中のホネを抜き取り、
未来永劫、水の上にも下にも住んではならぬ・・と言い渡します。
そのため、今でもくらげは水中をフワフワとただよっており、
亀の甲羅のあの模様は、猿に投げつけられた石が当たってはいった
ヒビだということです。
こちらの話しのほうが記憶に残っていたので、
猿が乗っているのがくらげだったため、思い出すのに時間がかかったというわけ。
それにしても、額裏と言うのはおもしろい題材が多いですね。
この前から「一瞬を切り取る」ということの妙味についてお話ししていますが、
この羽裏のように「民話」の一場面というのはけっこうあります。
それでも「着物の柄」ということで、やはり模様として綺麗であることが多く、
たとえば「すずめ」がたくさんでてくる「すずめのお宿」とか、
竹の並んだ「竹取物語」とか・・そしていずれも、周りに宝物などが
めでたく描かれている・・と言うものが多いです。
あとは、子供の着物だと「桃太郎」「金太郎」ですね。
この前の「二人袴」といいこの「猿とくらげ」といい、
ぱっと見ただけでは美しいとかおもしろいとか、すぐにはわからない、
一瞬「間」があって「ああそうか・・」とわかり思わずクスっと笑う・・・。
それがまた「額裏」というキャンバスを自由に使って絵を描いた
職人の「もくろみ」だったのかもしれません。
この絵を見て「なんで猿がくらげに乗ってるんだ、ヘンな絵だ」と
ポイしてしまう、そんなヤツには買ってもらいたくない、
「おっいいねぇ、猿知恵の勝ちってやつかい、もらおうか」と選んでくれる人に
きてもらいたい・・というような・・・職人の心意気ってんでしょうかね。
なんか、そういうものを感じるんです。
よくよく見れば「猿が烏帽子をかぶっている」のも、実はこれが
海辺ででみたヘンな光景・・ではなく、猿を擬人化している、ということで
「物語」という題材だよ・・としらしめているわけで。
猿はまだことの重大さに気づかず、笑っているように見えます。
これから命の危機に直面した猿が、平静を装いつつ頭の中では必死に
「生還」する算段をしていく、まさにその一歩手前の図ですね。
「いや、くらげをうまく言いくるめて、もうすぐ浜辺にもどるところだ」と
そうお考えのかたもいるかもしれません。そうかもしれませんね。
ただ、普通右利きの人間が、前に進むものを描くときは、特別条件がない限り、
左向きの顔を描きます。正確には「前に進む→でかける」というイメージです。
つまり、左をむいているから、これから行くところ・・で笑っているから
「まだ命の危機に気づいていない」、と考えました。
もちろん、この職人さんは左利きだったかもしれませんが、
たとえば、人は無意識に壁とか黒板に字を書くときは、眼の高さに手が行く・・
というような自然の行動といいますか、そういうことで勝手に考えました。
実は、こんなふうにあれこれ思いをめぐらすことも、
「職人」のいたずら心・・だったのかも・・。
額裏の面白さは、とても深い・・と思うのは、私だけでしょうか。
それにしても、この絵のくらげを見たとたんに
「越前クラゲ騒動はどーなったかな」と思わず考えた私、現代に毒されてますわ。
特に、くらげの骨抜きや亀の甲羅のヒビの原因に言及してるお話しは昔の子供を十分に納得させるものがあったことでしょうね!私が読んでいても面白かったもの(笑)
もっとも、今の子供でしたら「超、嘘くさ~い!」なんて言われちゃうかもね?(笑)
昔話には、このような原因を面白可笑しく説明する話や知恵比べみたいなものがあって、私みたいな大人が聴いても面白い話がたくさんあって楽しいよね!
作品作りをして 午後古布屋さんに行き遊んできました。
飽きませんよね。
私も 羽織の裏で 舌切り雀の柄を持っていますが 何を作るか 見るたびわくわくします。
あれを広げ これを広げ していると古布達の声が 聞こえるのです。
ブログ 楽しみにしています。
http://www.tokyo-kasei.ac.jp/library/kicho/JID_N1T.htm
この、ちりめん本!面白すぎ!(笑)
欲しいと思いました。って、いうか全部のページを見てみたいな!
この本、発見してくれて、ありがとう!(笑)
猿柄を見るたびに「こやつ團十郎贔屓か?」などと思ってしまいます。
昔話なんて本当に何年ぶりかしら・・・
とんぼ様の文書力、表現の仕方で
このくらげの本一冊読んだように
内容がよくわかりました。
本当に面白いお話ですね。
孫達が字を読めるようになったら
こういう昔話の本を買ってあげようと
思います。
百福様ご紹介の「ちりめん本」も
見せて頂きましたがまだまだ知らない
昔話ありますので一度読んでみたいと
思っています。
悉皆やさんが取りまとめ、出来上がったのだろうと
思います。
ものは、戦前(昭和の始め頃)のでしょうか?
千兵衛様
昔話本当に面白いです。最初の「猿がウラシマさんにあやかろうとして・・」というのは、実は「童話作家になる感性があるかどうか」のチェック?というか、訓練にもなるんですよ。つまり「一枚の絵」からストーリーを考える・・・ということ。千様は童話作家というより「コント作家」のほうが向いてるかも?大笑いしちゃいましたよ。「そっちの話しのほうがおもしろそー」って。
穴熊の女房様
古布は、ほんとにいいものですね。物語を持っている布です。私も整理には疲れてますが、見るとどうしても顔がニマニマしてしまいます。これからも、お越しください。よろしくお願い致します。
百福様
あの本は絶品ですねぇ!ほんとにクラゲが走ってる・・あのまま走ったら「滑空」しそうです。走らせてみたい?!「鳥だ、飛行機だ、いやスーパーマン・・・じゃなくて越前くらげだっ!」って?!
ダン之助様
きっとそうだったのかもしれませんね。この猿さん、実にいい顔をしています。見えないところに猿を連れてお芝居見物にいったのかも・・ですね。
陽花様
ぜひぜひ、読んであげてくださいね。私は童話・民話の類が好きで、今でもときどき買っています。今の子供たちにはあわない部分もあるかもしれませんが、だからこそ、小さいころから耳になじませてあげてください。
ぶりねぇ様
「あつらえ」と言う部分はかなりあると思います。注文する場合もありますが、昔「お得意様」にはこちらから「このようなものがございますが・・」と、お客の好みを熟知した番頭さんが「ぜったい買う」と確信して持っていったものですよね。團十郎びいきのお客様にもっていったものかもしれませんね。モノは上質の羽二重、薄手なのにペラペラしない、羽裏は緞子、紋は大きめ白抜きの「上り藤」です。なかなかの一品、戦前モノです。緞子はあまりきられなければ、表が痛んでも、かなりいい状態で残ります。お金持ちほど枚数もってますから、傷みは少ないわけで、これは着用可能です。
越前くらげ、食用にならんかと色々実験してましたが、とてもじゃないけど量が多い、網口のところに、金をはって、ところてん方式、ばらばらになるようにというのが有望のようでした。
歌舞伎役者さん、猿翁丈というかたがいらっしゃいませんでしたっけ。猿のつく名も由緒あるのでしょうか?
「猿翁丈」というかた、確かにいらっしゃいますね。市川と猿のつく歌舞伎役者さんは多いでしょう、まず筆頭は「猿之助」さん、春猿さん、猿弥さんというかたもいらしたように思いますが・・。歌舞伎に関しては「ダン之助師匠」でないと・・・。
越前クラゲは、本当に難物のようですね。彼らだって生きているのですから、いらないもの呼ばわりはしたくありませんが、海はあんなに広いのだから、日本近海はよけてほしいものです。