あるショップで購入した昔の帯です。皆さんならこの帯の柄を聞かれたら、どんな風に説明しますか?
着物の柄の名前は、フクザツですし、やまほどあります。
単純な、たとえば梅の枝が一枝…なら「梅柄」とか「梅枝柄」ですが、いろいろ入っていると
「これが正解」というより「何がポイントか」ということになりますし、現物が目の前にない場合に、
「こういう柄です」というなら、なおのこと、できるだけ詳細に説明できたほうがいいわけですね。
とりあえず、この帯を例にとって、ちょっとじっくり見てみましょう。
まず「地」は大きく見れば「市松どり」です。ベージュとモスグリーンの部分。
「市松」は江戸時代の「佐野川市松」という役者さん、えーと江戸時代、吉宗さんのころですかね、
その人が役の中で細かいこの柄を使ったことで、「柄として大流行」があり「市松」とよばれるようになったそうですが、
元々は「石畳柄」と言う名前で、柄としては昔からありました。
そこに白と薄茶で「花七宝」。
「七宝」はコンパスでクルクルと書いていくとできる、単純な柄ですが、これも古くからある柄。
これは少しつぶした扁平な七宝ですね。
丸一組だけ取り出したものを「輪違(わちがい)」といい、上のように真ん中に花のはいったものを「花輪違」といいます。
これの連続したものを「七宝」と言います。「四方に連なる」から「七宝」となったという説もあれば、
無限につながることではおめでたいこと、つまり子孫繁栄とか…
そういうことで仏教でいうところの「仏宝」のほうの「たから」と重なって「七宝」と呼ばれるとか、説はいろいろです。
どちらにしても、縁起のいい柄とされています。
この帯の七宝のように全面ではなく、部分的に描かれている場合を「破れ七宝」と言います。
この「破れ○○」という言い方は「破れ立湧」とか「破れ紗綾型」など、
同じように全面ではないものの場合に使われる言葉です。
飛んでいる大小の「丸紋」
紋の種類は
「分銅」 「琴柱」
三枚笠 「丁子巴」
「亀甲」 「打出の小槌」
「束ね熨斗」
「丸紋」は、丸い輪の中にイロイロな模様が入っているものの総称ですが、
花なら「花丸紋」、「家紋」ならまんま「家紋散らし」とか「家紋柄」とか…。
この帯の柄はおめでたいものが多いですね。
分銅も丁子、打出の小槌も「宝尽くし」の中に出てくるもの。
また「のし」は、言わずもがなの「熨斗袋」の「のし」。元は「のしあわび」です。
なんで「あわび」がめでたいのか…あ…また脱線しそうだ…。
昔々2000年も前のこと…ホントか?…伊勢神宮の天照大神にお仕えする巫女のうちの一人、
つまり「斎王」ですね、そのヤマトヒメノミコトと言う方が伊勢の国東に巡幸された折に献上されたのが「あわび」…
これはおいしい、これを神宮に納めよ、と命じられました。でも当時はまだクールたっきゅーびんもないし…。
そこで「干したものをご献上もうしあげまする」となって、細く切って生乾きにし、竹でたたいてのし、
紐のように束ねたものを献上した…伊勢神宮には、今でも「伊勢国東」からの「のしあわび」が、
毎年決まった神事のために送られているそうです。
このことから、漁民たちが「お祝い事の贈呈品として配ったのが始まり」とされていますが、
動物の肉を食べる習慣がほとんどなかった日本では、魚介類は大切な蛋白源。
保存がきかないナマものは、なかなか奥地では手に入らないので当然干物や塩漬けになるわけですが、
その中であわびは特に栄養価が高く、滋養強壮にたいへんよいとされる貴重品でした。
だから今でも、熨斗袋の小さい熨斗の中には「干しあわび」に見立てた、黄色い和紙の細い紙が入っているのです。
で…三枚笠とか琴柱とか丁子など、家紋として使われているものもありますが、
要するに「おめでたいもの」尽くしの丸紋が飛んでいるわけです。
つまり、柄のメインとなるものは「丸紋」、地まで説明するなら「破れ七宝に丸紋散らし」…ですかね。
この帯の販売時の名称は「毘沙門亀甲柄帯」…でした。
確かに、この紋の中では、この亀甲の丸紋が一番大きいです。もう一回出します。
でも、締めたとき、この亀甲はお太鼓に出ません。それに、これは「毘沙門亀甲」ではありません。
確かに、亀甲が三つ重なったカタチ(三盛亀甲)が「毘沙門亀甲」ですが、その輪郭をいうのであって、
中の「辺」は模様として残しません。こちらが毘沙門。これは「毘沙門天」の甲冑の模様からきています。
毘沙門亀甲は細く組み合わせたりして「組み亀甲」と言う名前で柄になったりもします。
ざっとのお絵かきですみませんが、こんな感じ…。
つまり、亀甲とは親戚だけど別物…です。こういうところをきちんと書いてくれないと、
六角が三つあったら毘沙門…になってしまいます。
元々なんで亀甲柄だけを取り上げて名前にしたのか…やっぱり一番大きかったから?
こういう場合は紋の大きさではなく、全体を見て「紋が散った柄」のほうが、自然だと思います。
実はここのショップは、こういう間違いが多いのです。
「柄の名前」と言うのは「メインになるもの」「ポイントになる情景」を言うのが一番伝わると思います。
今は、たとえば私たちくらいなら知っている物語でも、若い方は知らないと言うのもあります。
「赤穂浪士」でさえ、知らない方もいるでしょう。それでも、それを「大名行列」と書かれたら、もう脱力です。
私たちは、まだ親からいろいろ聞けました。でも、今の人はそれがありません。
だからこそ「着物を扱うプロ」は、それを伝える人、になってほしいと思うのです。
このお話し、もう少し続けたいと思っています。
とりあえず本日これまで…。
はじめまして。コメントありがとうございます!
着物の柄はいろんな意味があって、面白いですね。
巴は、「鞆(弓道の道具)」からきているなど、いくつかの切がありますが、
古くからある紋です。
丁子は、いろんなデザインがあって、これが丁子?なんてのもあります。
大根と間違えられたりします。
今日の記事にちょっと丁子のこと書きました。また読んでください。
着物の紋様、面白いですね!
今回の紹介にあった、『丁子巴』?はじめて見ました。勾玉みたいですね~陰陽を表しているんでしょうか…?
これからもブログ楽しみにしてます(^^)
どいたしましてー。私のドジですー
私の書き方が悪かったですね。
丸一個では柄になりませんから、二個で一組、で
丸一組が「輪違」、島原の輪違やさんの紋です。
真ん中に花が入っての柄一組は、実際には丸が5個です。
その周りを取り去った一組と言う意味です。
わかりづらくてすみません。
あぁ そうだった 等と頷きながら読み進めましたが
輪違いのところは
京都島原の 輪違い屋さんのイメージが強いのか
丸一組だけ取り出したもの というのが 理解出来ず
親とは この様な話をした事が無いので
私自身わからない事だらけですが
模様の説明をするのも 一苦労ですね。