ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

黒羽織とか訪問着とか

2010-03-10 15:31:26 | 着物・古布
写真は手持ちの「黒絵羽用羽尺」、残念ながらシミがでてます。

では昨日に続いて「礼装」ってなんだ…から。

とりあえず、始めましょう。
あっ、今日初めておいでくださった方がいらっしゃいましたら、
できれば昨日の分からお読み下さい。長いので、お茶かコーヒーでも飲みながら…。
さて、今日も長くなると思います。

黒羽織ののお話しです。
「羽織」ってなんだのお話しを昨日いたしました。
「礼装」ということでお話しするなら、実は「女物」に限り、
本来「羽織」は礼装には使いません。例外として使われることがありますが、
それは「略礼装」まで、です。

まず「入学式・卒業式」というものには、礼装でもどのランクをもってくるか…ですね。
結婚式の花嫁の母なら、間違いなく「留袖」でいいわけなんですが、
子供の入・卒、となると、どのあたりでいいの?というのがまずモンダイ。
こればっかりは「明確な答え」はありません。地方地域でも違います。
華やかに装う方が多い地域もあると聞いていますし、みんな黒絵羽…というお話しも
耳にします。こればっかりは、ご自身で決めていただかねばなりません。
まぁしいて言うなら、ですが、これはたとえば着物のしきたりの古い本にも
今の本にも共通して書いてあるのは「華美になりすぎないように」です。
私はもう長いことそういう場に出ていませんから、自分の住んでいる地域のことさえ
わかっていないのですが、ある本に「いろいろな生活環境のあるところですから、
周囲とのつりあいを考える」とありました。
つまり、周りとあまりかけ離れないように…ですね。
「そんなこと言っても、着物着てくる人が少ないからわからない」…?
洋装でもわかるでしょう。だいたいですが、洋装のお母さんは、ちょっとしたスーツ、
コサージュかちょっと華やかめのアクセサリー…かな?
それは結婚式に出るようなスーツでしょうか、お父さんはブラックフォーマルでしょうか。
我が家の近くには幼稚園、小・中・高とそろっていますので、
時期になると、入・卒だなとわかる親子が通ります。
だいたいはご両親ともスーツ、ごく普通か、お母さんがちょっと華やか?くらいです。
昔は華やかに大きなコサージュをつけているお母さんが見られましたが、
最近ではそれも少ない気がします。お父さんは、ネクタイがちょっとハデ?くらい。
つまり洋装でいうなら「そのランク」です。

こういうことは、時代によっても違ったりしますし、セレブな私学ではわかりまへ~ん。
これにあわせた着物、というなら無難なランクで「色無地、江戸小紋」あたり。
ここで「黒羽織」っていうお話が出てきます。

最初に…皆さんがよく「入学式には黒い羽織があるから」とおっしゃいます。
その「黒い羽織」はどんな羽織ですか?
ただの黒い無地で背中に一つ紋、「黒絵羽」といわれる「裾模様の黒羽織」、
黒地に小紋のように柄が散っている「黒地羽織」
実は「本当は」黒い絵羽でも紋が入っていなければ「略礼装」にはなりません。
黒地の小紋柄は、紋がなければ単に地の黒い羽織です。
「本当は」とつけたのは、紋というものの性質を考えると…ということなのですが、
今は黒絵羽に紋があるかどうかはあまり言われません。

実は「黒い羽織」というのは、便利であるとと同時にちと厄介なものでして、
さっきの留袖のように、「これだからこれ」とはっきりいえないわけです。
これも時代の流れ、というものなのですが、黒の一つ紋のついた羽織、というのは、
着物で何かとことを済ませていた時代には、その「紋」が実に便利なものだったのです。

たとえばとりあえず縞のお召しとか、江戸小紋、もしくはそれと同じ感じの細かい小紋、
それの上に、黒い紋付羽織を着れば、たいがいのことは間に合っちゃったんですね。
昔は「近所づきあい」とか、そういったものも、今とは違いました。
たとえば町内のどこかのお宅で赤ちゃんが産まれた、となれば、
お七夜あたりに、黒紋付の羽織を羽織って「おめでとうございます」と行く。
個人的にちょっとしたことで、どこかのお宅にお世話になった、
黒紋付羽織って「先日はたいへんお世話になりました」と菓子折りなど持っていく。
町内でご不幸があった、黒紋付羽織って「お通夜に」…。
こんな感じで使えたわけです。ところが、そういうお付き合いのしかたもとんどん変わり、
たとえばまだそういうことがあったとしても、わざわざ着物じゃなくても、
ちょっと普段着よりはマシな洋服で行っても、特別モンダイはなくなった…。
そうなると「黒紋付羽織」の出番はどんどんなくなるわけです。
最終的に「入・卒」の必須アイテムみたいになってしまいました。
そうなると「お祝い事」ですから、真っ黒よりは絵羽の方が…です。

着物がいろいろ変わっていっちゃうって、そういうことなんです。
まぁこういう場合は、やたらうるさく「紋がどうのこうの」ということより、
たくさんの人が集まるところですから「あらたまった雰囲気」を壊さなければいい、
私もそう思います。入・卒、というのは、そのくらいのレベルの「行事」です。
いえ、決して「テキトーでいいよ」と言っているわけではありません。
学校という学びを本分とする場所で、子供たちの新しい門出を祝うのです。
厳粛であっても、必要以上に華美にすることはない、ということです。

さて、では黒い羽織を着て「あらたまったキモチをあらわしたい」
下に着る着物は?色無地か江戸小紋、もしくは華美にならない小紋、です。
黒羽織は「略礼装」に格上げするための「マジック・アイテム」です。
だから紋の入っていない江戸小紋や普通の小紋でも、その羽織を着ることで、
格をあげることができる、というわけです。

つまり、元々格のある留袖、振袖、訪問着、つけさげは帯つきで着るもの、
もしも羽織を着るならば、あくまで「現地」までのコートや道行がわり、です。

さて、では訪問着や付け下げのお話しです。
入・卒に訪問着や付け下げはダメなのか、というと、本当はそんなことはないのです。

ここでは代表として「訪問着」でお話しをいたします。
今の時代「訪問着」といえば「結婚式」にでられるような華やかなものが多いです。
これは買う側の事情で、訪問着を買おうとする場合だいたいは結婚式とか、
そういう華やかな行事用として選ぶことが多いと思います。
なんでも着物で…という暮らしでなければ、それはしかたのないことなんですが、
留袖に準ずるもの、ですから、どうしても華美なものになりますね。
豪奢な訪問着は、入・卒では浮いてしまうかなー、というのが私の感覚です。
ダメというわけではないですからそのつもりで。

以前「訪問着・つけさげ」のことについて書きました。
また「歴史」というお話しになりますが、訪問着は、作られ始めたころ
「訪問服」「散歩着」「社交着」などと呼ばれていました。
「散歩?」ですよね。でも、これはその昔、これまた明治維新がきっかけですが、
女性の行動範囲が広まったわけです。と、一口で行ってしまうのは大はしょりなんですが、
要するに社会的地位の向上…ということもあり、全体的に消費があがってきた…
ということもあり、女性が外に出る機会が増えたんですね。
それで着物に関しては、それまで礼装用の絵羽柄、つまり紋付の裾模様の豪華なもの、と
普段用の総柄(今の小紋)と、この両端しかなかったわけで、その間がない…。
そこで「真ん中作ってよ」という、今で言うところの「消費者のニーズ」が増えた…。
それで考えられたのが「訪問服」というもの。
これはいわゆるデパート商戦といわれています。昔のデパートは呉服屋中心ですからね。
それで出てきたのが、絵羽柄だけど大きくない柄行とか、金銀を使わないとか、
柄も具象ではなく抽象とか、色目をおさえるとか、紋を一つ紋かナシにするとか…
要するに結婚式に着るような華美なものではない訪問着です。
つまり、本来訪問着はハデからジミまで、とても範囲の広いものなのです。
たとえばこれは「付け下げ」ですが、ジミ系、
まぁお祝い事向きの柄ではありませんが、こんなあっさりもある…という見本です。


            


つまり、訪問着、付け下げというのは、きらびやかなものからシンプルなものまで、
目的にあわせて着分けられる、これまた「便利アイテム」なものなのです。

ですから、経済的にモンダイがないかたなら、
訪問着や付け下げも「ハデ目」と「ジミ目」の二枚、
黒の羽織も「紋付のただの黒」「黒絵羽」の二枚、
色無地も慶弔二枚…更にセレブならそれぞれ「紋のついているものといないもの」…。
これだけあったら悩まないわけですが…はっはっは…ムリムリ。
「着もしないのに」だったり「お金がかかる」だったりして、
結局は「訪問着は結婚式など用のハデ目」「黒羽織は絵羽」…と、
それが当たり前になってきたわけです。

入・卒に訪問着を着るなら、これは最初の「地方地域で」ということも踏まえたうえで、
ですが、少しおとなしい感じの訪問着がいいかな…というのが、私の感覚です。
まぁ実際には「見た目」ってのがありますから、金銀が入っていても地色がジミだったり
柄が小さかったりして、ハデかジミかってのは難しいのですが…。

またもうひとつ、今「遊工房様」でも染めている「絵羽付け小紋」というのがあります。
これは小紋ですが、柄が絵羽付け、つまり肩線を境に前と後ろで逆さまにならないように、
柄が染め付けられているもの、これも入・卒には重宝だと思います。
できればおめでたい柄とか、時期的に春らしい柄だといいですね。
絵羽付け小紋は小紋扱いですから、羽織も着られます。

それと「色紋付羽織」は、最近見ませんが、それでもいいと思います。
おかしな言い方ですが「黒絵羽」だったら「色」でOK、
「紋」がついていたら黒じゃなくて「紋」でOK、というような、
「目から入る印象」ってことです。できれば春先にいい色がいいですね。

「羽織」というのは男性の場合は紋がついていれば正装、なのですが、
女性の場合はいろいろとケースバイケースだったりします。
感覚的なことですが、羽織は紋がついていれば、或いは絵羽であれば「スーツの上着」、
柄のはいった普通の羽織は、カーディガンとかジャケットとか、そのレベル。
おおざっぱにこんな風に考えれば、わかりやすいかと思います。

また、先日ちょっとお話いたしましたが、色無地、江戸小紋は紋のあるなしで、
略礼装になる、ならない、があります。
ただ、これも最近はそういうことを知っている人自体が減っています。
だから紋がついてなかったら「黒絵羽」を着ればいい…ですね。
たぶん、今の時代なら色無地や江戸小紋を作ったとき、
呉服屋さんに「これは背中に一つ紋ついてると便利ですよー」といわれて
ついているものが多いと思います。

まとめてみましょうか。
まず、黒絵羽を着るかどうか、着るなら下は色無地か江戸小紋。
羽織は脱ぎませんから、着物に紋があってもなくてもわかりませーん。
但し本来は「紋のついた黒い羽織のおかげで、紋のない着物も略装に昇格できる」
という格のスライドがあるということだけは覚えておいてください。
羽織を着ないなら、紋のついた色無地、江戸小紋、付け下げ、訪問着まで広範囲です。

私は「色無地か江戸小紋に黒羽織」をお勧めするのですが、
これはやたら考えなくていいことと、もうひとつは羽織着てると暖かい…です。
入・卒はたいがい「体育館」ということが多いですが、けっこう寒いんですよね。
そんなブツリ的なことも考えて、です。

明日ももう少し、お話をしたみたいと思っています。

追記 ひとつ書き忘れました。黒い羽織を礼装として着用する場合は、
   羽織紐は白が基本です。また石やチェーンのものなども使いません。

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15 コメント

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Unknown (りのりの)
2010-03-10 16:50:44
今日のお話も為になりました。

入、卒業にはもう用はないのですが
ちょっと羽織ってあらたまる羽織はあると便利かなー、と思ったり。でもちょっとしたときは洋服でもなんとでもなるからいいかーと、思ったり。ちょっとしたときに着ましょ、とおもって用意してあったスーツ、そのちょっとしたとき着ようと思ったらスカートがパッツンパッツンだったりなんか古臭かったりして慌てるということが洋服はありがちだけどそういう意味でも着物の方が便利なのかも・・・ですね。

でも着物ってだけですごく大げさに考える人がやっぱり多いですよね。紬着て歩いてても「どうしたの?正装して・・・」って言われますもんね。顔では笑ってばっかじゃないの!!と心の中で毒づきますけど。

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Unknown (陽花)
2010-03-10 17:21:15
今年の春は、うちの孫も卒園と入学です。
奈良の娘は着物で出席するようですが、
神戸の娘はどうなのか・・・地域によって
着物を着る人が多かったり、少なかったり
ですが、やはり着物を自分で着れるかどうかで
何でも無い事と大層なものに分かれてしまうんですね。
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ん長いのに、最後まで (ひげ店長)
2010-03-11 08:23:03
とんぼさん、今回もノックダウンです。
芯のある解説、洋服に例えるわかりやすさ、お見事です。
早くも次が楽しみ。わくわくしています。
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Unknown (うさミミの母)
2010-03-11 10:25:04
娘の高校卒業に着物を着たかったのですが、間に合わず、来週大学の卒業式には娘の同意も得られ、着物で行く予定です。
グレーに薄ブルーの暈しの付け下げに縫い紋を付けたのを着ます。
花模様の付け下げや訪問着は苦手で無地暈しを誂えました。
黒羽織も考えましたが、なかなか踏み出せません。

とんぼさんのお話は本当に為になります。
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羽織るにもルールがあることを (きもの大好き)
2010-03-11 14:54:36
あらためて知りました
手持ちの着物や羽織や道行に限りがありますが、寒けりゃなんでも重ねて行けばいい…
では、なかったのですね(苦笑)
昔、習った着付け教室で教わったことは、ほぼ忘れておりますので、全てが自己流になっております(汗)
敷居の高い場所に着て行く機会はなくなったのですが、日本の伝統を守りつつ、今ある着物を愛しみつつ、着物の日を増やしていきたいと思っています
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Unknown (じゅりあな)
2010-03-11 17:35:02
こうやって教えてくださる方が身近(?)にいると、とっても助かります。

明日は暖かそうですが、万一立ち見になった時のことを考え(生徒数が多いので、例年早く行かないと座れないどころか体育館に入ることすらできないことがあるそうで・・・)黒羽織、ショール、足袋カバー(足の冷えが違いますよね)、念のため使い捨てカイロ持参で行ってきます。



P.S. 多分別人だと思うのですが・・・今日車で出かけてらっしゃいましたか?交差点ですれ違った運転手の方が画像で拝見するとんぼさんにそっくりだったので・・・
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Unknown (とんぼ)
2010-03-11 21:21:14
りのりの様
私はもう洋服については、
普段のTシャツなどはともかく、外出用は、
ほとんど買っていません。
着物のほうでもサイズが…ってのは
あるにはありますが、洋服ほどのことはないし
流行もありまんからねぇ。

私も「何かあったの?」「どうしたの?」は
割とあります。
着物は特別な時にしか着ない、という先入観は
こちらではどうにもなりませんからねぇ。
「なんかなくても着るのよ、わたしは~」って
言ってます。しんどいことですね。
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Unknown (とんぼ)
2010-03-11 21:23:21
陽花様
知らないうちから着られていた私には、
着られないことがわからない…。
でも、縫えないことはしってるから、
縫える人をすごいと思う…。
それとおんなじなんでしょうねぇ。
縫うのに比べたら、着ることなんて、
ご大層なことじゃないんですけどねぇ。
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Unknown (とんぼ)
2010-03-11 21:26:15
ひげ店長様
それはそれは、おほめいただいて恐縮です。
着付け教室にいったわけでもなく、
専門的なことを学んだわけでもないのですが、
着物好きの母にそだてられたおかげだと
今はそう思っています。
私の持っている知識が、少しでも着物好きのかたの
おやくにたてばなぁと…そんなつもりで書いております。
どうでもいいようなお話を綴ることも多々ありますが、
お楽しみいただければ幸いです。
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Unknown (とんぼ)
2010-03-11 21:29:33
うさミミの母様
その年の卒業式は、二度はありませんものねぇ。
逃すともったいないです。
グレーに薄ブルーの暈しの付け下げ、
落ち着いた「おかあさんらしい」付け下げと感じます。
必ずおめしになって、参列なさってください。
お嬢様、ご卒業おめでとうございます。
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