平成最後の記事になりました。
前回までの、足の使い方、歩き方、日常的にやっていることでありながら、考えることがたくさんあります。
まず、前回の「斜対歩と側対歩」ですが、日本人は「側対歩」が多かった、というお話し。
着物と言う服装にはそれがあっていた、と書きました。
実際には、着物を着ていたからそういう歩き方でよかった…なのだと思います。
実は日本人が側対歩だった、という決定的な証拠はありません。
なのでいろいろ論議され、その論議も100パーセント「そうだったのか」がないので、
いまだに結論は出ていません。ただ、実際に武芸関係のひとつの技として、
今も伝えられていることは事実です。
明解な答えがあることではないので、専門家でもない私がナニを言うか…なのですが、
着物の歩き方として考えてきた私の「じゃないかなぁ」をお話しします。
着物のお話しがなかなか出ませんが、辛抱してお付き合いください。
側対歩は、同じ側の足と腕が出ますから、胴はねじれず、上体はそのまま右、左、と向きが変わります。
そのため、まっすぐ前を見るために、そのつど首をひねって前を向かなければなりません。
上体の向きが安定しないので早く歩けないし、歩幅もせまくしかとれません。
まともに腕振りしたらとても歩きにくい…。それでなんば歩きの信憑性が、いつまでもなくならないわけです。
実は、人間の歩き方と言うのは、習慣性のものである、といわれています。
人間の赤ちゃんが、やっとたっちして歩き始めたころって、腕振って歩かないと思います。
腕でバランスをとっては、何度も失敗して転びますが…。
つまり、人間は見て覚えていくのですね。日本人が「側対歩」だったのでは…といわれるのは、
コレもやっぱり習慣によるところが多いのではないかと思っています。
実は江戸時代の平均身長は、縄文時代より5センチも低いです。
仏教の伝来で「肉食」を避けるようになったため、動物性蛋白が不足したため…といわれています。
小柄なら、歩幅も狭いし、腕を振らずに小またで歩くことに不都合はなかったのではないかと…。
やっと、着物について。
着物の形や着方は、1000年以上の歴史の中で、あれこれこまかいところで変わってはいるものの、
今のように平らなものを袖に手を通して前で合わせて、紐(帯)を締めて前を押さえる…と言う点は、
ほとんど変わっていません。この「紐や帯」の締め位置が重要。
着物はすべて、しっかり締める1本は「腰」、もっと細かく書けば「骨盤のテッペン、もしくはその近辺」です。
女性の帯の幅は、年代を追ってだんだん広くはなりましたが、男女を問わず、着物は最初の紐は腰に1本、
そして帯は今も昔もきつく引く(締めるときにぎゅっと引っ張ることです)のは帯の下のほう。
世界の民族衣装を見ますと(といっても全部はムリですので代表的なものと言う意味です)、
ヨーロッパなどは、今も昔も上下に分かれているか、つながっていても「ウエストマーク」、
つまり胴囲のところで締めます。要するにスカートのベルト部分ですね。
着物のように「胴囲」ではなく「腰囲」、つまり英語で言うとヒップサイズをはかるところ、
そこで締める着方をしているところは、アジアであってもけっこう少ないのです。
モンゴルの民族衣装「キラ」と「ゴ」は、着物とよく似ているのですが、「締めるところ」はウエストです。
それぞれのお国のみなさんの健康状態までは私にはわかりませんが、
古来よりの「和服」は、体にたいへんよい、健康を保つのに効果がある、と専門家も言っています。
それが腰、つまり骨盤近くで紐を締めることです。まして江戸時代に女性の帯幅が広くなると、
経済的に余裕があるひとほど、優雅にバストの下から骨盤まで巻いていました。こんな感じ。
今でも帯を締めると姿勢がよくなる…と言うより、猫背になりようがないんです。
現代の帯幅でも、医療関係のかたは「胃下垂や内臓下垂の予防になる」といいますし、
腰痛ベルトなども骨盤をカバーします。また女性の場合、なにより「保温」が体にいいわけですね。
で、骨盤で締めることですが、骨盤は年齢とともに形が変わっていきます。
とくに女性はお産をすると骨盤がゆるんだり、また姿勢の悪さから骨盤が寝てしまう…。
これ、わかりにくいのですが、骨盤が立たない、といいます。
画像探しました、これです。
つまり背筋をピンとするには、骨盤が締まって、立っていなければ出来ないのです。
着物は、自然とこの姿勢になる、というわけです。
着物を着たら、姿勢がよくなりますから、歩き方も「着物歩き」で…。
つまり「腕を振らない」…です。「二軸歩行」といいます。
普段だってそんなにイッチニ、イッチニと、手を振って歩いてない…気がしているのですけどね。
先日外でのこと、私の前を高齢の女性が歩いておられました。
高齢者特有の、と言ったら失礼ですが、足がガニマタ気味、ヨチヨチという感じです。
右手に小さなバッグを提げていましたが、歩くたびに前後にわずかですが揺れていました。
つまり「斜対歩」で歩いているということです。
大手を振っているわけではないけれど、斜対歩に慣れた私たちは、つい足と反対のほうの腕でバランスをとり、
腕の推進力で前にスッスッと進んでいるわけです。だから手が前後に揺れる。
これをやめるのはちと難しいのですが、腕を振らないことで腰の上部分がねじれません。
着物の帯の辺りは、着物が重なり、おはしょりもしている「ややこしいところ」です。
私は、帯の中で上体がねじれることは、着崩れにつながりやすいのではないかと考えています。
元々おはしょりは、いろいろな動きで着物が突っ張るのを吸収してくれている部分です。
なので女性は帯を締めると、背中のたるみを下に引っ張って平らにします。
帯が細く、着物も対丈の男物のときは、逆に帯を締めたら、腰の上あたりで着物を軽く引いて、
逆Uの字に「たるみ」を作っておかないと、座ったとき下に引っ張れて衿が抜けてしまいます。
着物を着たら、意識して「腕を振らないで」歩いてください。そして歩幅は洋装のときの三分の二が目安。
小またでチョコチョコ…慣れないとなんか気恥ずかしいかもしれませんが、それが着物の歩き方として
「美しく見える」コツのひとつです。着物でいつもどおり歩くと、前がバッサバッサとなりますから。
腕を振ってしまわないようにするのはなかなか難しいのですが、
元々着物で暮らしていた古い時代、日本では「バッグ」とか「袋」の文化は育ちませんでした。
着物ってそのまま袂でも懐でも帯の間でも、物入れには不自由しませんでしたから。
かわりに「ふろしき」をはじめとして「包み」の文化が発達し、小さなものは包んで胸元に持ち、
大きなものや重いものは、「かつぐ」、「腰のうしろにくくりつける」…で運んでいました。
今でも舞妓さんなど、カゴ巾着をぶら下げずに胸元に抱えています。
こんな写真がありました。京都南座、顔見世での花街総見でのスナップ。
そう入っても、我々がカゴ巾着持つわけにもいきませんから、
バッグを持つ時には、提げるより持ち手を手首に通して提げるほうが当然腕は振れません。
ただ着物の袖口が汚れたりシワになったりするのに気をつけてください。
何か持っていればまだ意識も出来るけれど、何も持っていないのに手を振らないのは、
ちょっとヘンな感覚なんです。手の置き所がない…。
そういう時は右手は前裾の横をこんな風に持つといいです。
これは以前「風の強いときにどうするか」という記事で使用した写真。
風のないときでも、前裾を押さえるしぐさとして、私はよくやってます。
ちゃんと着ていないのでちょっとヘンな写真になっていますが、右脇に腕を自然と下げた位置あたりで、
右前の着物の端を親指と人差し指を出して軽く押さえ、残り3本の指はそのまま。
この持ち方はそのまま階段をあがるときにも役立ちます。
上の写真では、着物の下で手のひらがやや前に開いていますが、
その手の平を自分のおなかのほうに向けると、着物の裾が持ち上がります。
写真ではわかりにくいので、ハンカチなど利用して、実際手の形をやってみてください。
着物を着たときには着物に合った歩き方があり、着物姿が自然に見える所作動作があります。
大またでバッサバッサと手を振って歩き、階段にきたら前をつかんであがるなんてこと、しないでくださいねぇ。
説明ばかりが長くて、たいしたお話しではありませんでしたが、次回の記事は、いよいよ「ゲタ・草履」、
つまり「履物のことにしようと思っています。
拝読し大変、考え深いものがありました!!
そこで、教えていただきたいのですが。。。
着物を着てお辞儀をする際、上半身そのまま真っ直ぐで、膝曲げのみされる方を見かけます。結婚式や神社で。
私個人的には、花魁風のお辞儀で、いかがなものかと…ご意見を伺いたいです。
コメントありがとうございます。
膝だけ曲げる…私の感覚ではおかしいですね。
ご存知と思いますが「着物」ということで「日本の礼法」からいけば、
お辞儀は、上体を前に倒す角度で会釈から最敬礼まで分かれます。
どのお辞儀も、基本は「背筋を伸ばす。頭だけさげない」と言うのが注意事項です。
直立の姿勢が基本ですから、膝を曲げることは逆に「膝は曲げないこと」なんて
書いてあるものもあります。
膝だけ曲げるのは西洋式の礼ですよね。
カーテシーといいますが、今でも皇室にお客に来られた外国の女性は、
両陛下の前で膝を折り、陛下の御手をとられます。
日本の礼が直立不動で「頭の位置を下げること」によって、
相手に対する尊敬とか感謝とか、地位的な上下とか、そんなことを表します。
カーテシーは、膝を折ることで、自分自身の体ごと下に沈めて、
キモチをあらわすわけですね。体を沈めれば、当然相手の頭より、
こちらの頭が下になりますから、それが礼になるわけです。
だから膝をついても顔を上げたまま「光栄です」とかなんとか、
言葉を発したりもするわけですよね。
着物で膝だけ曲げるのは、洋式の礼のつもりなのでしょうか。
結婚式場や神社…とのことで、たとえば花嫁衣裳とか振袖とか、
そういったお衣装だったのでしょうか。その場合はもしかしたら、
着慣れない着物でお辞儀がしづらい、できない、苦しい、お辞儀したら着崩れそう…
なんてことだったのかしら。
いずれにしても、膝を曲げる礼は、見慣れませんから、違和感ありますね。
ちなみに「花魁風」のということ、これは「礼」よりも、着物を着たときの
所作動作の効果、たとえば女らしいとか、愛想がいいとか、そちらに重きを置く動作ですね。
過去記事ですが、こんなことを書いています。
https://blog.goo.ne.jp/tombo624/e/80de6093a30a665aae7d37296d16d077
着慣れないものでお辞儀しづらいけど、ご挨拶はしなきゃというので、膝を曲げたんですかね。
ちなみに私の結婚式のとき、いまのような洋髪ではなくて「文金高島田のカツラ」。
メイクさんが「ご神前でお辞儀するとき、浅くていいですよ」って言いました。
それでなくてもがっちり重たい衣装で、大きなカツラですから、
普通にしていようと思っても首がうなだれてしまう…。
深くお辞儀したらそのままおきられなくなりそうだし、上を向いたら、
そのままそっくり返って倒れそうでした。
こんなところですが、いかがでしょうか。