ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

傘屋柄の羽裏

2011-04-14 11:27:37 | 着物・古布

 

悩んだ末、入手しました。これは女物、一つ紋の黒羽織です。

こんな柄は、昔でも少なかったと思います。

羽裏の柄は、なんでもアリではありますが、やはり有名な物語の場面とか、美しいものとか、

「絵になる題材」が多いわけで、こういった日常生活の一瞬を切り取る…というような柄は

あまり数見ません。でも名もない人々の暮らし…という場面で、同じだけの秀逸さを持っていると思います。

 

傘を干そうとしている母のそばで、子供たちがおとなしくすわってそれを見ている…、

なのだろうとは思うのですが、この女性が「母」というより「姉」に見えてしまう。

それは顔立ちや雰囲気というより、言っちゃなんですが、遠近感とバランス。

子供が奥にいるのにデカいんですよ。特に女の子の顔…。

もう少し小さく描けば、親子と素直に見えると思うんですが…。

つまらないところが気になるのですが、この傘干しの女性、とてもいい「カタチ」です。

初々しい色っぽさといいますか、足の白さ、惜しげもなくむき出しで素足に下駄…

動作の一瞬をとらえた絵として、体の曲線やポーズもとてもやわらかいし…。

       

          

 

それからするとですねぇ…後の二人の子供、ちょっと手抜きじゃない?という気がするんです。

 

    

 

顔の比率や手足の描き方など…むしろ子供はいないほうがよかったんじゃないかと…。

まぁ描けもしない私が、えらそーなことを言っちゃいけませんが…。

せめて女の子の着物に柄が欲しかったですね、ついでに手の動きも…。(結局文句言ってる…)

 

ともあれ、これが「姉」だとしたら…昔はどこも子沢山で、小さいころから家の手伝いなど当たり前でした。

大きな絣模様の着物を短く着付けて、姉さんかぶりなどして…もう一人前にお役に立つのでしょうね。

この家は傘作りを生業としている家、庭中に干された傘は、まだ柿渋が塗られている色ではないように見えます。

女性は、竹ざおのようなものをもっています。なにをするのでしょう。

傘作りのページなどいろいろ見ましたが、この「竹ざお」の用途がわかりません。

むかって左の後ろに斜めになっているさおがあります。紐がついているようですので、

半開きにしてたくさん提げるのかも。

傘屋さんは、どこでも広い場所に、できあがった傘をダーッと並べて干しています。

この羽裏の傘屋さんの庭は狭いのでしょうか、それで竹ざおをどうにか使って、

せまいところにたくさん並べる工夫でもしているのでしょうかねぇ。わかるかたいらしたら教えてください。

 

ではここで「傘」のお話。

先日のウチワと同じで、元々は身分の高い人が、他人に持たせて使ったものが始まり。

これは、たためない形が多く、後ろや横から差しかけて、日差しや視線を避けたもので「天蓋」と呼ばれます。

その国の文化や環境にもよるわけで、日差しの強かったエジプトなどでも、壁画に残っているといいます。

やがて傘は小さくなり、今のようにたためるものになりましたが、西欧では「日よけ」が主体でした。

フランスの「不衛生」については、あの美しい街やファッションとのギャップからよく取りざたされますが、

傘についても、当時のフランスでは「トイレ」という設備がなく、みんなまどから「し尿」を

道に投げていましたから、二階からの「汚物よけ」として、必需品であったといわれています。

 

では日本では…。

あいかわらずお手本は中国です。中国に限りませんが、古来、人間は「身分」というものを強調したり、

防御(魔よけなど)のために、着物の色や形、装飾品、被り物などにさまざまなこだわりを持ってきました。

傘も中国では身分の高いものが、おつきの人に差し掛けさせたり、

宗教的に儀式の道具などにも使われました。これがやはりたためないタイプの「天蓋」でした。

これが日本に伝わりました。形は変わりましたが、今でも大きなお寺の僧正さまなどが、

野点の傘みたいなものをさしかけられているなんて場合がありますね。

今のような一人で持つ雨具として形を成したのは、平安のころ、

さらに一般的な雨傘として防水を施したり、簡素な形になったのは室町のころといわれています。

それでも傘はゼータク品。じゃ雨の日はどうしていたか。

日本にはもうひとつ「笠」と書くほうのかさがあります。つまり頭と顔アタリだけの雨よけ用の被り物ですね。

これに野良仕事の時は「蓑」を着る。ちょっとこましな身分のものは、和紙に柿渋を塗った防水コートでした。

実は、日本は傘を作るのに適した材料が、身近にあったんですね。つまり「竹」と「和紙」。

ヨーロッパなどでは、傘の骨には動物のまさしく「骨」を使ったりしていましたし、紙ではなく布張りでした。

傘は、日本の方が「雨」も多いことですし、世界に先駆けて美しく、実用的なものを作っていたことになります。

 

いくら材料が豊富でたくさん作れるようになったといっても、当時の庶民にとって傘はゼータク品。

したがって新品が買えるのは富裕層です。では一般庶民は?というと「再生品」。

ここでも竹と紙という材料が幸いします。

まず、リサイクルのメッカ「江戸」では「古傘買い」という商いがありました。

破れたり、骨がちょっと折れたりしたような傘を安く買い取ります。

紙をはがして竹を削り、修理して新しく紙を貼りなおして売る…わけです。これだととても安かったんですね。

傘作りは元々分業ですから、削るなら削るだけ、紙貼りなら紙貼りだけ、できましたので

新しく作る仕事でなくとも、内職としても便利だったわけです。

ちなみに古い傘の紙、これは柿渋が塗ってありますし、破れるといっても全部ぼろぼろになるわけではありません。

これを破れないようにはがしてキレイに洗い、みそを売るときに包んだりするものに使いました。エコですねぇ。

(紙も、蛇の目などは平貼りといって大きいものを貼り、番傘などは三角のものを貼ります)

 

本来の和傘作りは、今に至るも、何十工程もあるたいへん手間のかかるものです。

傘の部分名称は、皆さんも大体ご存知かと思いますが、現代の洋傘と和傘では、ちょっと違うところがあります。 

真ん中の棒は「中棒」これは同じ、大きく開いて張るための骨は「親骨」これもかわりません。

中側で真ん中に集まるように張る骨は和傘は「小骨」、洋傘は「受骨」、

どちらもテッペンの骨をまとめている部分は「頭(上)ろくろ」、中の小骨がまとまるところは「手元(下)ろくろ」。

下の写真では、頭(上)ろくろは見えていません。(写真は蛇の目ではなく「番傘」です)

 

   

 

傘の先はなんというでしょう…「石突」ですね。ただし、洋傘はテッペンですが、和傘は逆に「柄(え)」の先を言います。

なぜか…たたんんで持つときの持ち方が洋傘と和傘では逆だから…。

洋傘はたたむと柄の部分を持ってさかさまに提げますが、和傘はテッペンを持って提げます。

和傘のテッペンにはろくろを包み込むように保護紙、今はビニールですが、元々は柿渋の紙、

それがかぶさって糸で締め付けてあります。あの紙は通称「カッパ」といいます。そういえばカッパの頭みたいです。

あのカッパ部分をつかんで持つのが、和傘の持ち方。

さかさまにすると、水分が頭ろくろの方にたまって、内側から痛めるから。なんせ防水してあるといっても紙ですからね。

収納のときはテッペンに紐がついていますから、それをひっかけてぶらさげます。

 

   

 

昔ながらの和傘の柄はどれもまっすぐですが、あれは玄関先などで立てかけておくのに都合がいいから。

だから石の上を突くのは柄の先なので、こちらが「石突」なんです。

もうひとつ大きく違うのは、「はじき」の位置、洋傘にも和傘にも「はじき」は二つあります。

傘を広げたとき「パツン」ととまる、あの出っぱりのことです。今の和傘は針金をL字型に曲げたものがついています。

今の洋傘のはじきはヨットの帆みたいな形の金属片ですね。

どちらもテッペンに近いほうを「上はじき」、下のものを「下はじき」といいますが、

蛇の目をお持ちの方ならご存知でしょう、和傘は「上下」とあっても、ついているのは小骨のなかです。

洋傘は上はじきは傘を一番開いたときにパツンと止まる位置と、

もうひとつは手元、つまり傘を閉じたときに広がらないようにパツンと止まる位置。

和傘は閉じたらひっくり返してテッペンを持ちますから、広がりませんので手元用パツンは要らないわけです。

ではナゼ上に二つもついているのか…。

これもお持ちの方ならお分かりと思いますが、傘の開きが二段階使えるようになってるわけです。

上のはじきでバツンと止めると「全開」、下のはじきで止めると半開きになります。

ひとつには、風の強いときや、たいした雨でないときに半開きで使うのと、

もうひとつは使用後に干すとき、半開きにします。これは全開で乾かすと、

ピンと張りすぎて紙が破れやすくなったりするからです。

また洋傘はたたむと紐がついていて、きっちり細くしめられますが、

和傘はそれをすると、紙同士が貼り付いて、開いたとき勢いで破れることがあります。

だから和傘はきっちりしめつけないで保管すること。開くときはちょっと振ってからゆっくり開くこと。

 

上に出した写真は蛇の目ではなく「番傘」、ですから作りは全体に蛇の目より大まかです。はじきも上ひとつだけ。

実用品、というわけですね。蛇の目はこれよりさらに小骨のところに糸をかけたり、

骨に漆をかけるなど、美しく細かく仕上がっています。

もうひとつ呼び方が違うのは「親骨の先」、しずくがたれるところですね。

洋傘では「露先」、和傘は「軒爪」といいます。

 

          

 

軒紙というのは、和紙を貼るためのガイドと補強のためのもので、これを一番先にぐるりと貼ってから、

紙を貼ります。我が家の番傘置きの定位置はこちら。

 

                  

 

というわけで、傘も今は洋傘が主流ですが、着物を着て日傘のかっぱよりちょっと下くらいをもって

そそと歩いているのはいいものです。最近は親骨16本というような「洋風蛇の目」もあります。

あれもなかなかいいと思いますが、たたんで持つときの「さかさま」ってのが、

着物にはやはりしっくりくるなぁ、絵になるなぁと、私は思っています。

逆に洋傘持つなら、白いレースの日傘なんかのほうが「ハイカラ」感がすてきかなと。

よれよれズボンに割烹着、ゲタつっかけて番傘さしてゴミ捨ていってるアタシが言っても

説得力ありまへんなぁ。でへへ。

 

 

今年はとんでもない春になり、まだ桜の終わりの今頃から「夏の停電」の心配をしています。

でもその前に「梅雨」がありますよね。

夏のクーラーによる電力消費の心配をよく聞きますが、梅雨時だって除湿と乾燥機…高電力ですよねぇ。

せめて傘くらい、華やかな色目のものでもつかいましょうか…あ、実家からこんどこそ…「蛇の目」を持ち帰らねば。

 


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6 コメント

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Unknown (陽花)
2011-04-14 20:05:48
竹を細工して傘にする日本人は本当に
器用だと思います。
昔はどこの家にもあった蛇の目や番傘も
最近は目にする事もありません。

それにしても、脇に抱えた竹竿や下に
数本置いてある竹竿は、何に使うもの
なのか気になりますね。
返信する
これはまた・・・・ (りら)
2011-04-15 02:13:59
女性ものでこんな風に精緻な柄の羽裏って珍しいですよねぇ?
仰るとおり、働いている女性の体付きと言い、着物の柄と言い、良く描かれていてすごいです。

こちらに来て、スーベニールなのか?という紙の傘(蛇の目とも言えないようなお粗末な)を手に入れてあるのですが、お土産用にしては絵がしっかり細かいんです。
道具の呼び名など、使われなくなってどんどん死語になっていくんですねぇ。
返信する
Unknown (古布遊び)
2011-04-15 08:06:10
う、うーん。
何とも素敵な羽裏。
羽織の楽しみはこれだなあって思います。

この度は和傘について大変お勉強になりました。
なんだか、いつもなんとなくぼんやり思っていたことがそういうことかと納得。
玄関の傘の為のフックも凄いアイディアですね。感心いたしました。
返信する
Unknown (とんぼ)
2011-04-15 17:07:35
陽花様

木や竹、紙、植物系がたくさんあって、
日本はいい国なんですね。
ほんとにうまく利用して暮らしてきたのだと思います。

あの竹、一本ずつに傘一本ずつ結びつけて
高くして乾かしたんですかねぇ。
気になります~。
返信する
Unknown (とんぼ)
2011-04-15 17:10:45
りら様

女性用は割りと「額絵」は少ないので、
私も最初は男物だとばかり思ってました。
なかなかの絵です。

昔の道具は、見ても「これ何?」というものも
たくさんありますもんね。
わかるのは私たちの代くらいまでてすかねぇ。
寂しいですわ。
返信する
Unknown (とんぼ)
2011-04-15 17:13:13
古布遊び様

女性用の羽織では珍しい柄でした。
なんか生活が見えて楽しいですね。

昔のもの、少し見直されてきてもいますが、
なくなってほしくないなぁとおもうものが
いろいろあります。

番傘は、女にはちょっと重いですね。
母の蛇の目をもらったら、どこにつるそうかしらん…と、
今悩んでいます。
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