トム・ダウドは私のお気に入りの音楽プロデューサーだ。クラプトンの1970年代のプロデューサーやJAZZの名作アルバムのエンジニアとして音楽通の間では有名な人だが日本では高名ではない...
トム・ダウドはすでに他界している。2006年単館上映で『トム・ダウド いとしのレイラをミックスした男』という日本タイトルで公開された。(いったい日本の何館で上映されたのだろう..
フジテレビの朝番『特ダネ』で小倉さんが紹介していたのを観た妻から興奮気味で電話が入った。「パパがいつも話しているエリック・クラプトンのプロデューサーの映画が渋谷でやっているんだって!!」...妻に心から感謝した。とにかく私に伝えようと必死だった。とても嬉しかった。
フジテレビに電話をして特ダネの関係者につないでいただき「妻が小倉さんの映画紹介のところで私の大好きなトム・ダウドの映画の紹介をしていたということですが、渋谷のなんという映画館で上映しているか教えていただけますか?」と話したら「はい。わかりました。必ず調べて連絡します」といって10分後に電話をくれた。「とても小さいところですよ。良かったですね」 「はい。妻とフジテレビさんに感謝です」...その週末私は小さな渋谷の映画館のソファでこの映画を観ていた。客席は40席あるかないかの空間に私を含めて20人弱の観客がいた......映画を観終わった私の目は涙であふれていた...映画というよりトム・ダウドの半生のドキュメントだが感動した....私の世代のギター少年だった音楽ファンには是非お勧めする。DVDはアマゾンなどで2000円位で購入できる。
『いとしのレイラ』はクラプトンの最高傑作と言われているロック史上名盤中の名盤の誉高い作品だ。当時LPレコード二枚組で発売された。デレク・アンド・ドミノスというエリック・クラプトンのアメリカソロ活動時代初期の幻のバンドにオールマン・ブラザース・バンドの天才スライドギタリストのデュアン・オールマンが参加していることがこのアルバムを名作にした理由のひとつだが、MVPはプロデューサーでミキサーのトム・ダウドだというのは真のクラプトンファンなら知っている。当時ビートルズの『ヘイ・ジュード』も長い時間のシングルレコードだったが、このアルバムのタイトル曲『いとしのレイラ』も7分近い曲だ。有名なピアノに替わるアレンジのアイディアもトム・ダウドの発案だったということをこの映画を観て初めて知った....
映画の中でこのアルバムの録音の思い出やクラプトンとデュアン・オールマンを会わせたた下りなどが本人の口やクラプトンの口から聞ける。でも衝撃的だったのはトム・ダウドが原爆を造った研究チームに入っていたことだった...マサチューセッツ工科大学出身の彼は『マンハッタン計画』と呼ばれる研究チームが原子爆弾を作っていることを後に知ったと映画で話していたが真実は定かではない。確かなのはアレサ・フランクリン、レーナード・スキナード、ロッド・スチュワート、オールマン・ブラザース・バンドなどのプロデュースやジョン・コルトレーンのアルバムのエンジニアの完成度の高さだ。
小学生から中学生になるころ『いとしのレイラ』のアルバムは毎日すりきれるほど聴いた。中学時代はトム・ダウドがプロデュースしたことがはっきりわかる『461オーシャンブルーバード』も死ぬほど聴いた...私の中学時代から高校時代のエリック・クラプトンのアルバムはすべてトム・ダウドが手がけている。彼のセンスは抜群でミキシングまでこなしているため、だらだら弾いているかに聞こえてしまうクラプトンのギターをうまくカットして音楽として編集している。
トム・ダウドから離れたあとのクラプトンは商業的にはいつも成功している。クラプトンの最新作ももちろん持っている。12歳の頃からもう40年もの間エリック・クラプトンの音楽を買い続け日本公演も数回足を運んだ。私と同世代でストラトキャスターを買った理由がジェフ・ベックやリッチー・ブラックモア、ジミ・ヘンドリックスではなくて、ひたすらエリック・クラプトンが好きだったギター少年は、トム・ダウドがプロデュースした時代のクラプトンが好きだったのではないだろうか....
8月。原爆の日が近くなるとこの映画のことを思いだす。