遠山谷の〝今〟より
遠山谷の人口減少について触れたが、わたしは平成の合併で、山間の村は明らかに「損をした」と思っている。人に言わせれば「いずれ人口は減る」かもしれないが、これほど人口減少が著しいのは、遠山谷に「何があったのか」と問われても良いと思う。特別何があったわけでもない、結果的には合併が大きな事象であることに間違いはない。吸収合併だから飯田市のスタンスも問われるが、それを口にすることはご法度なのかもしれない、この地域にとって。繰り返すが合併しなくても同じ道を歩んだこと、と言われればそれまでだ…。
長野県住民と自治研究所の2019年12月23日発行「研究所だより」(155号)によれば、「町村をひとくくりにすると、合併・非合併での違いはほとんど見られない。ところが、町と村と区別すると、合併を選択した村での人口減少が大きいことがわかる。これは、旧市町村でみた人口増の上位15位の中に6町が含まれていた(表2)ことが影響しているものと思われる」という。ようは合併した旧町に人口増のところが目立つことから、村が際立って減少が目立つということだ。また、「表5は、旧町村(旧市部を除く)の人口動向を、「対等」と「吸収」とで合計して比較したものである。その差は大きくは現れなかったが、吸収合併であった旧町村の方で人口減の傾向が見られた。対等合併の形式をとったところでも、実質的には吸収された周縁部の町村も少なくない。そのため、数字上は大きな差をなさなかったものと思われる」と述べている。合併したか、あるいは合併しなかったか、そして吸収か対等か、といった視点ではいずれもそれほど違いが表れていないと言っている。これらは単純にそれらに括って比較したからのことであって、現実的にその背景まで理解した上で考えれば、明らかに違いがあるというのがわたしの考えである。
合併、非合併という観点で見れば表1の編み掛け(色塗り)した町村を見て欲しい(「研究所だより」155号をわたしが少し加工したもの)。例えば前回触れた遠山谷である。下伊那地域は遠山谷が突出して山間であるというわけではない。大鹿村や天竜村、あるいは県境地域は、同じような環境にあるといっても差し支えない。下伊那郡内の非合併の町村の編み掛け部分を見て欲しい。最も減少率の高い天竜村でも61.0パーセントであり、ほかの村々も70パーセント近辺である。その上で遠山谷の2村がどうかと見れば、あまりにも違いがはっきりしている。同じような環境といえば長野市に合併した西山地域である。最も低いところが鬼無里村の59.7パーセント。大岡村62.2パーセント、中条村66.4パーセントとなっているが、合併しなかった小川村は73.6パーセントと、西山の合併したどの町村よりも人口減少は少ない。もちろん遠山谷ほどではないが、傾向としてみれば合併したところの方が人口は減っている。同じようなことは環境が近い松本市に合併した奈川村や安曇村にも言えそうだ。そのいっぽうで、合併で人口が増えたところもある。したがって増えたところと減少したところを同じどんぶりに入れてしまうと見えるものも見えなくなるというもの。ピンクで示した梓川村、あるいは安曇野市になった町村は人口が増えている。これらは、合併したことにより、イメージが変わった地域とも言える。例えば三郷村や堀金村は、単独で村を維持しているよりも「安曇野市」というそもそも安曇野というブランドイメージが形成されていた空間に身を置いた方が地域イメージが違うというわけだ。ようはもともとり立地条件によって合併非合併は影響したわけで、山間のそもそも人口が減少していくのが見えていた地域にとっては合併が人口減少を加速させてしまったというわけである。
さらに吸収か対等かという比較も、少なからず影響があるとわたしは考えている。事例としてはもちろん遠山と伊那市に合併した2町村である。後者は対等合併である。確かに旧伊那市に比較すると人口減少率が高いが、とはいえ、遠山と同じ中央構造線の谷にある地域にしては、その数値にはあまりにも格差が表れている。もちろん高遠や長谷と遠山を単純に比較するのが正しいとは言えないかもしれないが、ふだんそれらの地域に足を運んでいる者としてみても、遠山谷とは違うと見える。数値的に見ても80パーセント程度の高遠や長谷に比べれば、それらに何十パーセントも差をつけている遠山谷は異常である。
なお、前回の表2にもあげられている旧木曽福島町の減少も特別かもしれない。これは国勢調査の値であるというあたりが影響しているのではないか。国勢調査と住民基本台帳の人口の違いはご存知の通りである。木曽福島は木曽谷の中心ということもあって、国勢調査上は基本台帳よりも多くなりがちなのではないだろうか。そのあたりがこの15年で特別な変化があったと思われる。住民基本台帳だけで比較するとこんなに減っていないのではないか、とはわたしの想像に過ぎないが、そこまで今回のデータでは解析していない。
いずれにしても遠山谷の人口減少は、県内の中で異常な値を示しているということを知ってもらいたい。矢筈トンネルを越えてしばらく南下すると旧上村の中心である上町に至る。そのすぐ南は旧南信濃村である。そこに知人の家があるが、並んで比較的新しい家が数軒あるが、知人の家以外は、新しい家なのにしばらく前から無住である。かつて何度も泊りで仕事に行って、お客さんと町へ飲みに出たあの南信濃村ですら間もなく人口千人を切ろうとしている。