描かれた図から見えるもの㉝より
宮田村の例は一貫して山(中央アルプス)を図上に置くレイアウトの例であったが、ここで紹介する飯島町の観光、というか告知用パンフレットは宮田村の例とは異なる。まず最近公開されているいくつかのものを見てみる。
「いいじまという町で」
「いいじまという町で」というA5版よりは一回り大きいパンフレットは、観光用というよりは移住者向けの案内誌という感じ。表紙裏の文言の始まりは、
ここは、長野県の南部、
伊那谷の中央に位置する飯島町。
西は中央アルプス、
東は南アルプスに囲まれた
ふたつのアルプスが見えるまちです。
移住して夢を叶えた人
理想の暮らしに出会えた人
てつものアウトドアを楽しむ人
子どもと豊かな時間を過ごす人
“いいじま”には多様な暮らしを
送っている人たちがたくさんいます。
“いいじま”という町であなたは
どんな時間を過ごしますか?
というもの。多様な人の冒頭に「移住して夢を叶えた人」を持ってきているように、移住者へ視線を送っているものとすぐにわかる。そしてこれを作っている方も、きっと地元ではない人、なのかもしれない。この案内誌の最後に略図が掲載されている。上は「北」であり、その方位も記載されている。図には申し訳なく程度山が描かれているが、中央アルプスの頂までは示していない。それと天竜川の東側、図では右端にあたる部分に伊那山地の山々が描かれている。この案内誌を発行しているのは飯島町地域創造課である。
「飯田線の車窓から」
次のパンフレットは「飯田線の車窓から」というもので、B4版1枚を三つ折りしたもので、略図を示して飯田線の撮影スポットを写真で紹介している。略図は図のとおり、本当に簡単なものであるが、これもまた配置上は図の上を「北」にしている。線ものを中心に展開する場合、わたしたちには横に配置した方が見やすいのだが、それをあえて縦版に配置しているところは注目すべき点である。このパンフレットは「まちの駅いいちゃん」であり、編集は地域おこし協力隊とされている。
「いいじま まちあるきガイドマップ」
最後に紹介するのも現在公開されているものであるが、「いいじま まちあるきガイドマップ」というもの。B5版を縦に1/2にしたくらいの大きさの変形版である。飲食店などを案内したもので、表題通り地図が中心である。その地図はやはり略図であるが、図上を「北」にしている。当たり前かもしれないが、暮らしのエリアを案内しているから、山をアピールする必要も無く、「山」を意識する必要も無いのかもしれない。編集は「まちの駅いいちゃん」である。
聞き取りをしていないが、これらすべて地域おこし協力隊がかかわっているのかもしれない。飯島町のパンフレットというと、以前「描かれた図から見えるもの⑧」で1回触れている。9年前に当るが、その当時のパンフレットも残念ながら頭上を「北」に配置していたようだが、その際「5年ほど前」のパンフレットとして紹介した図は、山を図上に示していた。飯島町の古いパンフレットが手元に見つからないため、これ以外に図上に山を配置した事例を示せないが、飯島町のパンフレットはここ10年以上図上を「北」にしたものしかないことがわかる。とりわれ、編集している人たちには、当たり前に「北」が図上という意識、あるいは空間認識があるのかもしれないが、古い人間には違和感があっても不思議ではない。