政府が、昨年実施した世論調査の結果を発表しました。
死刑制度に関しては、
死刑を容認する回答が80.3%(前回比5.3ポイント減)で3回連続で8割を超え、廃止を求める人は9.7%(同4ポイント増)だったそうです。
やや容認派が減って、廃止を求める人が増えたという結果ですが、依然として、容認派が圧倒的多数を占めているように見えます。
ただ、この世論調査の結果には、いろいろと問題も指摘されています。
一つ目は、質問の仕方
2009年の前回調査までは、選択肢が「場合によっては死刑もやむを得ない」「どんな場合出も死刑は廃止すべきだ」「わからない」というものであったため、
死刑容認が増えるのは当然だと非難されていました。
今回の調査では、選択肢が、
「死刑は廃止すべきである」 9.7%
「死刑もやむを得ない」 80.3%
「わからない・一概に言えない」 9.9%
というものに変更されました。
容認派が減って、廃止派が増えたのは、この選択肢の変更に影響を受けたものかもしれません。
二つめは、回収率の問題です。
今回の世論調査は、20歳以上の男女3000人を対象に面接方式で実施され、1826人から回答を得られたそうです。
当初の3000人については、日本の人口構成に合わせて男女比、年齢構成などを決めて選び出し、日本社会の縮図となるような選び方をしているそうです。
ところが、面接調査ですので、自宅を訪問しても留守だったり、回答を拒否されたりするので、全員から回答を得ることはできず、1826人からしか回答が得られていないのです。
一般的には、若い働き盛りの人、男性は、平日昼間は仕事に行っていて、家を留守にしていることが多いことから、回答を得ることが難しいそうです。
そのため、最終的に回答が得られた1826人については、男女比や年齢構成などが崩れてしまいます。
そこで、統計の専門家が、得られた回答に対して修正を加えて、最終的な結果を算出するということだそうです。
ところが、この修正、補正が、どのような手法で行われているのかがはっきりしません。
統計の専門家といってもいろいろと考え方があるようであり、他の専門家が修正、補正を行うと結果が変わってくることはあるようです。
本来であれば、元データ(生の回答のこと、統計学ではミクロデータというそうです。)が公開されていれば、多くの専門家が分析を行い、政府発表の結論に対して、
意見や批判を加えて、より良いものにしていくということができるのですが、残念ながら、そのミクロデータは非公開。
そのため、今回発表された結果がどれほど正確なものであるかが、検証できないのだそうです。
今回のサブ質問に対する回答結果でも、20~29歳では、「将来も死刑を廃止しない」(46.2%)、「状況が代われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」(53.8%)となり、
廃止派の方が多いという結果が出ているそうですが、この世代は、家にいなくて回収率の低い世代です。
三つ目に、サブの質問についてはあまり取り上げられないこと。
実は「死刑もやむを得ない」と答えた方に対しては、さらにサブの質問が用意されています。
その質問と結果は次のとおりです。
【質問】「将来も死刑を廃止しない方がよいと思いますか、それとも、状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよいと思いますか。」
【回答】 将来も死刑を廃止しない 57.5%
状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい 40.5%
わからない 2.0%
この結果からすれば、死刑制度を容認している80.3%の人のうち40.5%の人(全体の32.5%)は、将来的には廃止可と言っているので、廃止すべきという9.7%と合わせれば、
42.2%の人は、現在または将来、条件次第で廃止してよいと考えていることになります。
逆に、80.3%の人のうち57.5%の人は将来的にも廃止に反対ですので、将来もずっと死刑を存置すべきだという人は全体の46.2%ということになります。
現時点で死刑を容認している人が8割という報道は必ずしも間違っていませんが、
今回の世論調査の結果を受けて、死刑存置派が8割というのは間違いです。
絶対的な死刑存置派は46.2%というのが、正しい数字です。
今回の世論調査では、終身刑についての質問が加えられました。
仮釈放がない「終身刑」が導入された場合の死刑制度の存廃について尋ねた結果は、
死刑制度を「廃止する方がよい」37.7%
死刑制度を「廃止しない方がよい」51.5%
と、終身刑がある場合とない場合とで結果に大きな差が出ています。
今の日本には、仮釈放のない「終身刑」という制度はありません。
死刑に続く重刑は、仮釈放のある「無期懲役」です。
ところが、現実には、「無期懲役」になった人は30年以上経過しなければ仮釈放は認められておらず、
しかも、仮釈放が認められる人は一年間に数人だけしかいません。
ですので、今の「無期懲役」は、ほとんどの人にとっては終身刑と同じ状態になっています。
そういうことを広く伝えたうえで、世論調査をすれば、死刑制度容認は、終身刑を導入した場合の51.5%に近い数字になるのかもしれません。
こうした「無期懲役」の実態と終身刑、袴田事件のような死刑冤罪の存在、さらに、海外の趨勢、死刑制度の実情など、多くの情報が広まっていけば、
死刑制度に関する意見もいくらでも変わりうるということがわかった世論調査の結果ではないでしょうか。