「ふん。おじさまもいきいきしていらっしゃる。デパートで高校の時のコと待ち合わせしているの。嘘じゃありませんから。ママに変なつげぐちされると困るんだけどな」
さようならとあっさりといって去る姪だった。若い独身女は何と淡々としたものだと思いながら、クモは全身に濃密な心持ちがかけまわっている。姪であれ、妻にはないある種の魅力、眠っていた性欲が刺激された魅力が感じられる。
「さようなら」
とおそまきながらいって、見送った。一瞬の間だったように、彼女が立ち去ってみれば思えて驚いてみるが。
「徳兵衛や初の生きた時代じゃあるまいし。姪は豊かな現代に生きているんだし」
自分が守れないはずもなかろうと妙なところに気をまわして歩きだした。クモはポケットで、劇場のチケットを確かめていた。
(つづく)
さようならとあっさりといって去る姪だった。若い独身女は何と淡々としたものだと思いながら、クモは全身に濃密な心持ちがかけまわっている。姪であれ、妻にはないある種の魅力、眠っていた性欲が刺激された魅力が感じられる。
「さようなら」
とおそまきながらいって、見送った。一瞬の間だったように、彼女が立ち去ってみれば思えて驚いてみるが。
「徳兵衛や初の生きた時代じゃあるまいし。姪は豊かな現代に生きているんだし」
自分が守れないはずもなかろうと妙なところに気をまわして歩きだした。クモはポケットで、劇場のチケットを確かめていた。
(つづく)
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