50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

「ただいまあ」

2016-02-25 20:23:58 | 小説
「ただいまあ」
と道江の声が表のドアの音から始まっている。「今日はお魚が安かった。大きい鯛よお、あなた」
「鯛」
幸男は寝た両足に勢いをつけて、すっくと立ちあがる。テレビの前で動かない春子がいる。

(「おしのび」つづく)

あの想像は生煮えの芋のように食えない、卑怯だ。

2016-02-24 20:10:00 | 小説
あの想像は生煮えの芋のように食えない、卑怯だ。とそう思い至らない幸男の方こそ、勝手な男だと夏子に密かに思われたかもしれなかった。
「岬ホテルに、ぼくは訪ねていこうか、否それは二度裏切ることになる。夏子は訪ねていく?・・・・・・」

(「おしのび」つづく)

幸男自身が思い至らないまでも過去に照らしあわせてみれば、

2016-02-23 19:58:10 | 小説
幸男自身が思い至らないまでも過去に照らしあわせてみれば、すぐわかるはず。ずいぶん自分勝手な幸男だ。つまり軽く見抜かれるとしかも、裏切っていた、その果てにいじましい思いに耽った、『狂』とはもっての外だろう。

(「おしのび」つづく)

しかし蔑みあいながら、互いに認め合っている、それが可能なら・・・

2016-02-22 20:34:02 | 小説
しかし蔑みあいながら、互いに認め合っている、それが可能なら平和にいけるはずだった。あるファンが昂じて憎しみに憑かれた、そんな夏子と幸男は決めつけた。それにしてもそう偉そうなことが言えるだろうか、ぼくも。畳の上に反転。頭を抱えた幸男なのだ。

(「おしのび」つづく)

首をひねって見かえる春子に、見なれたテレビに・・・

2016-02-21 11:21:47 | 小説
首をひねって見かえる春子に、見なれたテレビに向かっていた興奮がない。ないのはいいのだが、中山理恵が出演していた他局のテレビを見逃したと思うと、幸男はちょっぴりうらめしい。幼い脇を抱えあげ、股の外に春子を放ち、自身は立ちあがり、再び春子をその場に据えつけている。そうして自身はごろり寝転がっているのだが、鬱うつとしながら、
「勝手な女」
と幸男は呟いた。

(「おしのび」つづく)