「よろしゅうおあがり」
新入社員のころ社員食堂で「ごちそうさまでした」と食器を返すと厨房のおばさんがそう言ってくれた。「よろしゅうおあがり」・・・それまではあまり聞いたことがなかった。京都を中心に近畿地方で古くからある言い方のようだ。そのおばさんは京都の出身だったのだろうか。今は京都でもほとんど使わないのだろう。
「ごちそうさま」に対する答えとして「お粗末さま(でした)」のほうが一般的のように思う。
「よろしゅうおあがり」は共通語にすると「私の料理をよく食べてくださいました。ありがとうございます」だろうか。何事にも感謝の念を忘れないという先人の感性が伝承された表現である。私にとってはとても好きな心地よい表現のひとつである。
「分けとくなはれ」は幼かった頃に祖父母や父が良く使っているのを聞いた記憶がある。現代のようにコンビニやスーパーマーケットが普及していない時代、お店で物を買う時に必ずといっていいほどこの言葉を使っていた。「買ってやろう」でもなく「売ってください」でもない「分けとくなはれ(分けてくださいの方言)」なのである。
そこには売り手でも買い手でもない、そこに生活する人たちの助け合うという精神が宿っていたのだろう。お互い助け合って暮らしていく上での知恵として「これ分けとくなはれ」「どうぞ持っていっとくれやす」というような会話が生まれたのだと思う。
いま、「よろしゅうおあがり」「分けとくなはれ」というようなことを言ってもたぶん訝しく思われるだけでその意味を理解してもらえないだろう。時代とともに言葉も変わり暮らし方やコミュニケーションの方法も違ってくるのだからそれはいたしかたのないことである。
ただ心の奥底にはこの心地よい響きのある「よろしゅうおあがり」「分けとくなはれ」という表現をずっと残しておきたい。
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