プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 池上永一「統ばる島」

2022年02月14日 | ◇読んだ本の感想。
わたしとしてはスバルトウ、と読みたいところだが、
作者はスバルシマと読ませたいらしい。


いや、素晴らしいね。
池上永一はデビュー作から多分全部読んでいるが、「テンペスト」以後
10年ほど間を空けて再会したあと、「トロイメライ」にしても本作にしても
いいねえ。すごくいい。

前回読んでいる頃は「この人はこのまま、沖縄ものとラノベもどきとを
半々に書いていくのかな」と思っていた。
ラノベもどきとは「シャングリラ」とか「レキオス」とか。
池上永一独特のものもあり面白くはあったが、こういうものなら
池上永一が書かなくても他に書く人がいるよなあと思っていた。

それに対してこういう沖縄ものは本当にこの人しか書けない。
こういうマジックリアリズムは。
日本全国でただ一人、この人にしか書けない。稀有。


いいですね。八重山諸島を舞台にして、島ごとにいろいろ趣向を変えて
短編を書いている。そして最後の短編でその全部を繋ぐ。
この繋ぐ部分は短編小説というよりもフィナーレというおまけ部分だが、
――これがあることで完成度はむしろ下がるかもしれないけれど、
心があったかくなる。

島であることを存分に活かしているね。
島であるからこそ時代もスタイルも違う短編が、島を特徴づける。
東京都ではこういう短編は書けないよ。
いや、書けなくはないけど島の方が効果的。

しかしこの人の作風から、どこまで民俗的な現実を見ていいものか迷う。
とぼけたユーモラスな味がどうしても入るじゃないですか、この人の場合。
それが良さなんだけど、誇張があるのではないかとちょっと心もとない。
この小説に書かれたことを信じて、たとえばザンがめったにないお宝だと
思われていたと信じてもいいものかね?税の大半を賄うような。

時代ものの「新城島」が好きだったかな。切ない話だけどなあ。

沖縄の民俗的な部分とユーモラスな小説の部分をとてもうまく組み合わせている。
こういうものを読めるのは幸せだ。
今後もこういうものを読んでいきたい。

が、この人は寡作で。1、2年に1冊しか出ない。
質は落とさないでほしいから無理はしなくていいけど、もっと読みたい。




そしてこの本を読み終わった日に、しばらく前に録画していたテレビ番組を見たら、
八重山諸島の星が出て来て。
「コズミックフロント」というだけで録画して、八重山諸島が出てくると
わかって録ったわけではないからその共時性にしみじみと驚いた。
星が。大事だったんだなあ。この島では。






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