吉倉オルガン工房物語

お山のパイプオルガン職人の物語

心が折れると頭が無用に回る

2012年09月10日 | 

前回のあらすじ

ジョボジョボジョボ!

どうやらこの冷却水管は結構お高いらしい。注文しても多分明日。
時間もないし、穴を塞げば良いんでしょ。
今使える道具はハンダセット。ただし、大容量のコテが無いのでトーチでやるかな。
腐食で管の一部が広く減っていてそこに小穴がいくつか空いているのが2箇所。
それと、以前ホースを使って塞いだのが1箇所、この際ちゃんと直しておこう。

別に修理記録とかじゃないから写真はありません。汚れた手でカメラを触りたくないのよ。

広い面積に肉盛りするのですが、ハンダってやつはいろいろ楽しめます。
例えば、マスキングテープで囲ってそこに溶かしたハンダを流し込むなんて簡易鋳物も出来ます。

オルガン屋ですからね、一応ハンダには馴染みがあるのですよ。
パイプオルガンの金属管は普通、錫-鉛合金、つまりハンダなのです。
パイプの系統によって混合比が違うので、いろいろな性格の錫-鉛合金と付き合うことになるの
です。

日本だとハンダ付けのフラックス(解説略)は普通松脂ですが、欧米ではロウもよく使います。脂肪
酸(ステアリン酸が良いらしい)です。
アメリカのちょっと気の利いた荒物屋ではプラマーズ・キャンドル、配管屋のロウソクとして売って
いました。ロウソクとしても使えます。
広い面積にハンダを流すような使い方では流動性が良いので使いやすいです。

心が折れると、修復の為に頭が無用に回転します。
作業しながらもいろいろ思い浮かびます。 

プラマー、配管工(plumber)。今でこそ配管限定ですが、plumbは鉛そのものを指します。
なので本来は鉛職人です。
鉛、元素記号のPb、語源はラテン語のplumbumです。
英語ではplumbはあまり使われていなくて、普通lead(レッド)です。
フランス語ではplombですね。

融点が低く、加工性が非常に良いので、有史以前から広く使われています。毒だけど。
錬金術士にもこよなく愛された金属です。
だって不思議じゃん。金属があんなに簡単に溶けるなんて。 

オルガンのパイプの素材としては、整音の時、歌口まわりをいろいろいじるのですが、その時、無
理なく変形してくれる柔らかさと、弾性が低く、変形後の戻りが非常に少ないことが重要です。
19世紀頃から亜鉛管も使われるようになりますが、調整箇所は錫-鉛合金です。

そういえば、ベートーベンの死因に鉛中毒説がありましたね。
当時は酢酸鉛が結構食品添加物に使われていたらしい。レッド・シュガーなんて言いますね。
特に甘味料兼防腐剤としてワインによく添加されていたそうです。
彼は、トカイワイン(ハンガリーの貴腐ワイン、甘い)が好きだったそうなので、安価なワインに甘味
料を添加した、今でいう食品偽装ワインを随分飲んでいたりして。

ワインの添加物といえば、ヨーロッパでワインに違法甘味料を添加した事件があったっけ。
1980年頃でしたか。
安ワインにソイツを添加すると高級ワインの味になるそうです。

その添加物がジエチレングリコール。
手についたのを舐めたことがあるけど、確かに甘くてワインのコクに似た感じがありました。
そうです、今直している配管の中を流れる水溶液の主役です。 

と話がぐるっと回って来て、修理完了。
取り付けてみて問題なし。

最初から不精しないで、全部の配管を外して、部品取り車から取ろうなんて考えないで自分で直
せば良かった。

手を抜こうとすると却ってドツボというオチでした。
教訓!急がば回れ!あざーっす! 


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