「頬に傷のあるがっちりした男」と、「笑いかたに特徴のある派手な女性」か。さらにフロント係の話を聞いてみよう。

「7月2日の朝のことについて話してもらえませんか」
「はい、あれは9時ごろでしたか、正面玄関から女性がひとり入ってきまし た。あまりめだたないごく平凡な女性でした。もしその人がフロントに黙って、迷うふうもなくさっさと階段のほうへ向かったりしなければ、気にもとめなかったでしょう。通常、お泊まりの方以外はフロントに断わりなく部屋に入るのは禁止されていますので、私はその方を止めようとあとを追いました。ところが、ラムゼイさんにつかまってしまったのです。ラムゼイさんというのは長期滞在のお客さまで、いつも苦情ばかりおっしゃるんです。そのときも私をつかまえてえんえんと話しかけられ、離そうとしないんです。それから30秒もたたないうちにかすかな銃声がし、つづいて女性の悲鳴が聞こえたのです。
私は2階へ駆け上がりました。廊下はもう、なにごとが起きたかと部屋から飛び出してきたお客さまでいっぱいでした。お客さまから騒ぎが起きたのは205号だと教えられました。そこで部屋に入ってみると、クラレンドンさんの死体と、先ほどお話しした女性の姿があったのです。
その女性はピストルを握ったまま気を失って部屋の中央に倒れていました。私が部屋にあったウイスキーを少し口に流しこむと、ようやく気がつきましたが、混乱しきっているようでした。自分がどこにいるのか、何をしていたのか もわからないというのです。クラレンドンさんの死体を見ると小さく叫んで、手にしていたピストルをパッと放しました。まるで火傷しそうに熱くてとても持っていられないというふうにです。私は近くの空室にその人を連れて行き、 それから警官を呼びました」
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