【ドラマ「海に眠るダイヤモンド」初囘――端島と新宿歌舞伎町】
先日の日曜日から、TBSの日曜劇場としてドラマ「海に眠るダイヤモンド」がスタートしました。放送まへからと云ひますか、Xにて情報が解禁された時から話題の作品です。
昨日、その初囘を録畫で視聽しましたが、素晴らしいの一言。更に言葉を加へれば、脚本、演出、音樂、主題歌、そして俳優陣と總てが豪華です。良質な映畫のやうな作品を、テレヴィドラマとして、無料で觀る事が出來るのは、何だか制作陣に對して、申し訣ない氣さへします。
音樂を擔當するのは、あの佐藤直紀さん。最近の映畫では「ゴジラ-1.0」も擔當されてゐます。「海に眠るダイヤモンド」の端島篇に於ける炭鉱のシーンで流れる劇伴は、「ゴジラ-1.0」の雰圍氣そのもので、非常に緊迫感があり乍らも、何處か神秘的でさへあります。「マスカレード・ホテル」など日本國の名作映畫には佐藤氏の音樂あり、と斷言して差支へないでせう。
「海に眠るダイヤモンド」は2018年の現代パートとしての東京篇、1955年の端島篇と云ふ二つの時代で構成されます。主演は神木隆之介さんで、端島篇の荒木鐵平、東京篇の新宿歌舞伎町に於けるホストである玲央と云ふ二役を演じます。そして、不圖した事からその玲央にプロポーズして、彼を長崎へ連れて行く謎の婦人・いづみを宮本信子さんが演じます。
そのいづみは現代と過去とを繋ぐキーパーソンとの事ですが、初囘放送後、このいづみは、嘗ての誰なのかと云ふ考察がSNSを中心に爲されたらしいのです。候補としては、草笛リナ（演・池田エライザさん）、朝子（演・杉咲花さん）、百合子（演・土屋太鳳さん）が擧げられるのでせう。
その考察も非常に興味深いThemeではありますが、私は他の事に興味を抱きました。それは端島と新宿歌舞伎町と云ふ二つの街に就いてです。鐵平にせよ、賢將（演・清水尋也さん）にせよ、百合子にせよ、後に軍艦島と呼ばれる端島に誇りを持つてゐるのですが、島外の聯中から端島を馬鹿にされると云ふ描寫があります。
端島の炭鉱が日本國の近代を支へて來たのは、紛れもない事實であり、その命懸けの仕事を端島の人達は誇るのですが、「高が端島」と馬鹿にするヤツがゐる。鐵平は、嘗ての悔しさを持してゐても、それでもなほ、端島の名聲を全國的に高める事を目標に、長崎大學卒業後、端島で働く事を擇びました。
父の一平（演・國村隼さん）は大卒の鐵平に就いては「末は博士か大臣か」と期待してゐたのですが……。
とまれ、視聽者である吾々は、端島のその後を知つてゐるし、それは作中に於ても、東京篇として、端島篇と竝行して描かれるだけに、端島の爲に奔走する鐵平の言動には哀しさが伴ひます。端島の名を擧げたいと云ふ鐵平の思ひは、端島が島外の多くの人達からは特異な眼で見られてゐる事の證左です。
一方、もう一人の主人公である玲央は、2018年の新宿歌舞伎町にゐます。コロナ禍が2019年の年末から翌年以降にかけてであり、2018年や2019年は、ラグビーワールドカップや東京五輪を控へて、日本國全體が盛り上がつてゐました。今ではコロナ禍を經驗して、新宿歌舞伎町と云へば、ホストの賣掛問題、風俗、立ちんぼ、トー横キッズなどで「有名」であり、さう云ふ言葉は地方の田舎者も知つてゐます。
譬へば、2019年には東寶ビルの横には既に彼女達は屯してゐましたが、「トー横キッズ」と云ふ名前が發生するのは數年後の事です。實際に「それ」が存在し始める事、それに名前が附く事、そして、それが有名になる事には、夫々、タイムラグがあります。同樣に2018年の段階でも、「海に眠るダイヤモンド」にて描かれるホストの問題は存在したでせうし、何より、新宿歌舞伎町と云ふのは、或意味、傳統的に隔絶されたイメイジを抱かれ勝ちです。
炭鉱をとほして、日本國の近代を支へた端島と「東洋一の歓樂街」である新宿歌舞伎町とは、勿論、街の在り方として異なります。が、島外から、街の外から、隔絶されたイメイジを多くの人達に抱かれ勝ちと云ふ點に就いては、共通してゐると云へないでせうか。ドラマ「新宿野戦病院」では、新宿歌舞伎町のイメイジ向上を目指す舞（演・橋本愛さん）と云ふ女性も登場しましたが、その思ひは鐵平と同じではないでせうか。
